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君と出会えた、それだけで丸儲け

大橋ちっぽけが「DENIM SHIRT GIRL」で見せた強さ

楽しみにしていた大橋ちっぽけの新譜「DENIM SHIRT GIRL」が素敵な作品だった。
いい意味でとんでもなく裏切られた。その裏切りに、私は興奮した。
CD を聴いてこれほど気持ちが昂ったのは、こんなに興奮したのはいつぶりだろう。大人になってから久しい気がする。
久しぶりに出会えたこの感覚が消える前に文字に残したくなった。
  
大橋ちっぽけに対して、ギターやピアノの弾き語り、高音をきれいな裏声で歌う、優しくも悲しい歌詞、無垢な少年、というイメージを持っていた。
インディーズで発売した「僕と青」の1曲目「君と春」はそのイメージの代表格と言える。むしろ「君と春」がそのイメージを作ったのかもしれない。
春の別れの部分を優しく儚く歌っていて、当時18歳の男の子が書いたと思えない大人びた歌詞と優しい声、そしてその中に垣間見える青さに惹かれ1曲リピートで延々と聴いた。

メジャーデビュー以降は「ポピュラーの在り処」というアルバムタイトルにもあるように、ギター一本のアコースティックな曲というよりも、ポップでポピュラーな曲が増えていきどんどんと進化を遂げている。

「テイクイットイージー」のMVで踊りだしたときは、踊るんかい!と驚きで何度も見返してはにやけてしまったが、今年4月に発売された「LOST BOY」に収録されている「鏡写し」のMVでは全編を通してダンスを披露、それが音楽の邪魔をしないのがすごいと思った。
ダンスがプラスされたことでその曲が理解しやすくなる、そういうことがあるのだと知った。
 
そして今作「DENIM SHIRT GIRL」。
1曲目の「僕はロボット」はK-POPの要素も入って眩しすぎるほどのポップ。
アコギはどこへ行ったんだろう。初めて聴いた時はこれが「君と春」と同じ人の曲だとは思えなかった。
「君と春」が大好きなこともあって、ほんの少しだけ、ショックだったが聴くうちにどんどんとハマっていった。
 
『君のこと愛していても わからないよ
 もうわからないよ
 色味の無い感情の 君はロボット
 僕らはもっと話をすべきなんだよ』 / 僕はロボット
 
失恋をテーマにした前作「LOST BOY」と対をなすアルバムだと言っていたので、どれほど愛にあふれたキラキラふわふわなアルバムなんだろうかと勝手に想像していた。
その勝手に想像していた私の「DENIM SHIRT GIRL」とはかけ離れていたため、理解不能に陥った。思っていたよりも内容が暗い。

両想いの、大好きな相手と自分の気持ちが通うあの嬉しさとか、照れくさかったり恥ずかしかったり、思うように言葉が出てこなかったり、普段の自分でいられないもやもやだとか、付き合って間もない二人の物語を想像していたけれど実際はもっと時を重ねて落ち着いた二人の話だった。
なんなら話し合いを設けたらすぐにでも相手の方から別れを切り出しそうな具合の。

相手のことがわからない、なんて。いまの若い世代の人たちは相手のことを考えることができて大人だ。それだけで充分だと思う。みんな自分のことで精一杯なはずなのに。大橋ちっぽけもまた、相手のことを考えて右往左往する優しい人なんだろうと思った。
 
話は戻って、アルバムの4曲目「幸せについて」。
この曲に至ってはもう既に別れている。別れたあと、相手へ会いたい気持ちがあふれるほどあるのに、もう未練しかないのに、
 
『甲斐性もなく今回もほら バイバイした幸せ 歌にしてるんだ』 / 幸せについて
 
なんて歌っているから泣きたくなる。なんだよ、バイバイした幸せって!

泣きたくなることなんてないような幸せいっぱいの、そんなアルバムを期待したのに!どこが「LOST BOY」と対なんだ!
と、ここまで勝手に期待して勝手に裏切られて、ひとりで浮き沈みを繰り返した。
 
そして最後の「会いたくなったら」が流れた瞬間、衝撃を受けた。

知らないうちになにかボタンを押してしまって他のアーティストが流れたかと思うほど、別人かと思うほど、こんなにも力強い大橋ちっぽけは初めてだった。

歌詞も歌い方もシンプルなバンドサウンドも全てが相俟って、とてつもなく力強い。
ここまでの恋愛における悩みだとか不安だとか何が幸せだとか、優しく繊細に歌ってきたのに、ひとりで勝手に浮き沈みしていたのに、全て吹っ飛んでしまった。

「会いたくなったら」が全部掻っ攫ってしまった。
それだけの力がこの曲にはある。気持ちが昂っていくのを感じた。
 
『ねえ 会いたくなったらさ 僕に聞かせて
 君がいま思う悲しみを
 ねえ 全てが悪に見えても
 それでもいいんだよ 2人はずっとずっと友達だ

 君と出会えた それだけで丸儲け
 どんな痛みも 抱きしめて愛してやる』 / 会いたくなったら
 
アルバムの最後で本当に裏切られた。なんだよこの包容力。めちゃくちゃ救われる。

『世界がぎゅっと狭くなって』『ねえ 未来がぼんやりしてきても』『全部終われば お酒でも飲んで』と、このコロナ禍での不安を思わせる部分もあるけれど、きっと大丈夫、と安心できてしまう。

この歌詞に出てくる"君"が男性か女性かわからないけれど、この"君"もきっとあなたになら安心して心を預けられると思っているはずだし、何よりわたしもあなたに出会えて嬉しい。

『君と出会えた それだけで丸儲け』、それはこちらの台詞なのだ。
  
このアルバムを聴いて、早くライブに行きたいと思った。大橋ちっぽけに会いたくなった。
発売記念の配信ライブも素晴らしいものだったが、やっぱり直接聴きたい。

無垢な少年が、大切なものを守れる素敵な青年へと成長したその姿を、力強いその歌声を、直接見ること聴くことがいつかできるだろうか。

その時は「会いたくなったら」の最後のサビ前で、全力で「せーの!」と叫びたい。
そしてきっと私は大人げなく号泣するんだ。その日を心待ちにしている。
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