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星野源のサウンドの温かさ

コロナ禍の中のラブソングを聴いて

星野源が自粛期間中に発表した新曲「折り合い」
打ち込みで制作したと聞いたから、機械的で硬くて、冷たい音がするような先入観があったのだけれど、全くそんなことはなかった。どこか懐かしくレトロな匂いがしたし、素朴でノスタルジックな気分になったし、何よりなんて温かい曲なんだろうと思った。それは歌詞の中からも音の中からも感じられた。柔らかい音の中に、そのひとつひとつの音たちが意味を成して弾むように生きていた。

コロナ禍の中、自宅で、打ち込みによるトラック制作からボーカル録音まで最初から最後までPC上だけで完成させた曲。その期間中の自分の心のうちがリアルに音になってできたそうだ。全体を通して、シンプルでゆったりしたビートのループだけれど、大胆にラップが入り込み、絶妙な音のアレンジを所々に施していて、試行錯誤したこだわりが感じられる。

「折り合い」は何気ない日常の人間模様を綴っている。それは、聴く人によっては夫婦だったり、親子だったり、親友だったりとそれぞれ違ってくると思う。

私たち夫婦は、自粛期間中に結婚記念日を迎えた。例年なら、街に出掛けて買い物したり、いつもより少しだけ贅沢するディナーを過ごしていたのだけれど、今年はそんな風にはいかなかった。ただ、それまでのすれ違いの生活は減り、夫婦でうちで過ごす時間が増えた。しかし、だからといって、すごく楽しい時間が続いてるかと振り返ると、うーんと、返答に戸惑ってしまう。会話する時間が増え、もちろん楽しい時間もある一方で、相手の些細な行動に気づきやすくなり、お互いにイライラしてしまうことも増えた気がする。できることが限られてしまうから、今はどうしたいのかな、こうしたいのかななど、相手のことを思うが故に、素直な気持ちを抑えたり我慢したりしてしまうこともある。何年も同じひとつ屋根の下で暮らしていてもこの距離感は難しい。うちにいる時間が長いと、そういうもやもやが増え、小さなストレスが溜まっていくのだ。こう感じたのはおそらく私たち夫婦だけではないと思う。同じようにステイホーム生活をして同じような悩みを抱えている人たちの夫婦や家族の気持ちを代弁してくれたかのような、折り合いはそんな曲に聴こえてくる。

«愛してるよ君を 探してるよいつも 他人のようで違う 2人の折り合いを»
«愛してるよ君を 探してるよいつも 家族のように映る 2人の折り合いを»

夫婦とは家族とは何だろうか。答えがはっきり出ない問いなんだとずっと思っている。他人だけれどただの他人ではないし、じゃあ、血は繋がっていないから他人なんだ、と簡単には言い切れないし。日常の中で、妥協点を探しながら、お互いがお互いを思いやることができる、それが大切であり、できたときに夫婦であり家族であるといえるのかもしれない。

«どこへ行くの僕ら いがみ合うよ彼ら 空は晴れて風は 髪を撫でていくわ»
«家の中で僕ら 道の上で僕ら 空は晴れて風は 心撫でていくわ»

些細な日常の喧嘩もある。共に過ごす小さな幸せが積み重なる日常もある。それが大切な人との日常なのだと。苛立ちや不安、愛も希望も全部ひっくるめて。
 
10年前に「ばらばら」という曲で星野源はこのように歌っている。

‹あの世界とこの世界 重なりあったところに たったひとつのものが あるんだ›
‹世界はひとつじゃない ああ そのまま 重なりあって›
‹ぼくらは ひとつになれない そのまま どこかにいこう›

いつの時代に於いても、星野源の楽曲には、当たり前の幸せに気づかせてくれる言葉のセンスと、ふんわり包み込んでくれる優しさや柔らかさや温かさがある。心に抱え込みがちな不安な気持ちをポジティブに変換させてくれる強さもある。相手の嫌な部分やあらを探すのではなく、素敵なところを探してみよう。自分とは違うことを、その人の個性を認めよう。くだらないことで笑い合う時間も、時には喧嘩する時間も、人生には必要なんだ。大事なことは、様々な困難が目の前に現れた時に、共に手を取り合って協力し合って乗り越えていけるかということなんだと思う。

星野源の「折り合い」がこのコロナ禍で配信されたことの意味はとてつもなく大きかった。非日常の中で、日常を歌うことの素晴らしさを大いに感じた。思いやりの気持ちを常に持ち、このコロナ禍を、夫と共に乗り越えて生きていこうと、私は心に留めた。
 
※«»は星野源「折り合い」、‹›は星野源「ばらばら」の歌詞より引用
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