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ZONEという「聖域」

あの日見た雪の美しさを僕はまだ忘れない

親友(と、その奥さん)は、アニメが好きである。特に「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は、その夫妻にとって、色々な意味で思い入れのある作品なのだそうだ。

私自身も、アニメを嫌いなほうではない。ジブリ作品や「ドラえもん」の長編映画の公開は、予告があるたびに心待ちにすることになる。まだ「あの花」は観ていないけど、そのエンディングテーマである「secret base 〜君がくれたもの〜」は印象深い楽曲だと思っているので、もし観たとしたら、ラストシーンで泣いてしまうことになるかと思われる。

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親友と出会ってから、初めて迎えた冬、首都圏には雪が降った。私と彼は雪に濡れながらも、何だか愉快な気持ちで、こうなったらうどんでも食べて帰るかなどと話し合い、下校途中、ある古びた店に入った。そして窓の外に降りつづく雪を眺めながら「毎年、初雪の日には、こうやってうどんを食べようよ」と、気障なのか幼稚なのか、得体の知れない約束を交わした(そのころ私たちは、じつに16歳だった、幼かった)。

<<10年後の8月>>
<<また出会えるのを 信じて>>

それから「10年」どころか、じつに23年が過ぎた今でも、私は彼を無二の親友だと思っている。ちがう町に暮らしていることもあり、さすがに「初雪のたびにうどんを食べる」ことはできていないけど、あの日、一緒に雪道を歩き、店に辿り着いた時の昂揚を、私は忘れていない。

<<嬉しくって 楽しくって>>
<<冒険も いろいろしたね>>

私たちは「冒険」というほど大それたことはしてこなかったけど、「未来」という、確証を伴わないものを信じあえたという意味では、強敵に打ち勝ったと言えるかもしれない。そして彼も私も、全身麻酔下での手術を受けた経験を持つので、こうして今、互いに生き延びられていることは、ある種の奇跡なのかもしれないと、ふと思うことがある。

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親友の奥さんは、私たちよりも、だいぶ年少である。可憐かつ聡明な女性だ。無二の親友が、魅力ある女性と出会えたことを喜ばしいと思うし、年が離れていることは、むしろ豊富な話題を生むものだ(たとえば私たちが、自動車教習所に通っていたころに、彼女がいくつだったか、何をしていたかを想像してみることなどは、わりに面白いものである)。

長い間、私は親友のことを(伴に学び、遊んだ日々のことを)ある種の「聖域」だと考えていた。誰も立ち入ることのできない場所だと考えていた。それでも今、彼に「妻」という至高の存在ができたのだから、もう「結界」は解けたものだと思っている。夫婦の間に隠しごとは不要だ。私は彼に、奥さんに対して何を話してもらっても構わないと思っているし、その結果、私という人間の素性が暴かれても(暴かれるほどの大それた秘密はない)、何ら気にしないことに決めている。

それでも思うのだ、もし彼女に(親友の奥さんに)私たちにさえ打ち明けたくはない「聖域」のような記憶、思い出話があるのだとしたら、ずっとそれを知らないでおこうと。無理に話させるようなことは絶対にしないでおこうと。

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どんな場所で彼女が生まれて、どんな少女時代を送ってきたか、もちろん私は詳しいことを知りはしない。私は(これは一般論になるかもしれないけど)女性の生い立ちというものは、ずかずかと男が踏み込んでいいような場所ではない、言うなれば「聖域」のようなものだと考えている。彼女の過去についても、漠然と「美しかった」というイメージをいだいておくくらいが丁度いいのではと考えているのだ。

<<君と夏の終わり ずっと話して>>
<<夕日を見てから星を眺め>>

そんな瞬間が、彼女の幼いころに、きっとあったのではないかと思う。その「君」が誰だったのか、彼女の幼いころを誰が支えてくれていたのかは、ただイメージしてみるしかない。それでも今、彼女が凛とした女性に育ったということは、その「君」が素晴らしい人物だったことを証明していると思う。

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親友も私も、もう40歳になろうとしているので、何かを喪うことには慣れつつある。持ちものを紛失したり、人と別れたり、若さという尊いものを喪失したり、中年(以降)の男性にしか分からない哀しみを、いくつも抱えているとは思う。

それでも彼女が(女性が)たどる日々には、それ以上に重い「何か」があるのではないかと、私は考えている。女性を神格化するわけではないけど、「女の子」が多感な時期を生き抜いて、成熟した美しい「女性」になるまでには、いくつもの悲しい出来事があるのではないかと察する。

<<君が最後まで 心から>>
<<「ありがとう」 叫んでたこと>>

そういった「相手」が誰だったのか、私には分からないけど、彼女が一角の人間に育った背景には、「ありがとうと叫びたくなるような瞬間」が、きっと何度かはあったのではないかと思う。私としては彼女のなかで、その人が鮮やかに・穏やかに生きつづけることを願うのみである。それが誰であっても(私や親友とは面識のない人であるのだとしても)私たちはその人の味方であり、言うなれば弟子のような存在でもあるのだろう。

私たちの使命は、有事の際には彼女を守るという形で、その「誰か」を間接的に称えることだと思っている。とはいえ、何しろ彼も私も、未だ熟さない愚かな男なので、むしろ彼女に助けられることのほうが多くなってしまうのかもしれないけど。

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これから私と親友が、会う機会・回数は、恐らくは少しずつ減っていくだろう。そして彼が、奥さんに思い出話をするたびに、私と彼の間にある「聖域」は、ひとつずつ減っていくことになるかとは思う。それでも私は、あの雪が降りしきる冬の日、熱いうどんをすすりながら、将来のことを話したことを、ずっと忘れはしない。

<<忘れないでね 僕のことを>>

※<<>>内はZONE「secret base 〜君がくれたもの〜」の歌詞より引用
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