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「親への餞」として捧げられた、花吹雪のような音のカケラ

ARASHI Anniversary Tour 5×20 「アオゾラペダル」に寄せて

サトザクラの花言葉は「豊かな言葉」と「善良な教育」、だそうだ。それを知って私は、なんて櫻井翔さんにぴったりな花だろうかと思った。「音と言葉つむぎ描く芸術(櫻井翔/Hip Pop Boogieより)」に矜持を持ち豊富な語彙でリリックをしたためる彼、そして受けてきた教育の良さと彼自身による努力を感じさせる深い教養を持つ彼を表すのにこれ以上ない的確な言葉だろう。

先日発売されたライブDVD「ARASHI Anniversary Tour 5×20」での1場面。東京ドーム一面に広がる、桜を模したペンライトの海。上方のステージから櫻井翔さんが降りてくる。スポットライトに照らされて燦然と輝くピアノの席に着いた彼は、ひと呼吸置いたあと、客席の静寂を待ってから意を決したように目の前の鍵を軽く叩くように弾き始める。そこにあるのはただ彼が命を削るようにその楽器を奏でる姿と、彼を象徴するような白、薄紅、桜色のペンライトの花が揺れる風景。

彼は、このシーンのことを「親への餞」と語っていた。

その一音一音、そのペダルを踏む一動作一動作が、紛れもなく彼のご両親への気持ちなのだ。胸を突き刺すような鋭く力強い音、幼子が親に向ける笑顔のように柔らかく温もりのある優しい音、そのすべてが彼の想いとして昇華されてゆく。彼が弾くピアノは、以前は力強いイメージが強かったけれど私はこのコンサートを観に行ったときにこんなにも優しい音も弾くようになったのかと感動したのだ。それは彼の弛まぬ研鑽の成果でもあり、彼が歳を重ねてどこか丸くなったことの証なのかもしれない。「アオゾラペダル」の歌詞に登場する「ペダル」は自転車のペダルのことだけれど、櫻井翔さんがピアノのペダルを踏む動作が度々カメラに抜かれているのはきっと意図的なのだろう。この5×20の「アオゾラペダル」での「ペダル」は、彼が踏むピアノのペダルにほかならない。〈思い切りふんづけた ペダルはまるで〉彼が捧げる思いの強さを表すようだと感じた。スクリーンに映し出されている映像とピアノを弾く彼とのマッチングによって天から光の粒が降り彼の指に神が宿って音を放っているようにも見えるのは、少々彼のことを特別視している私のフィルターがかかりすぎているだろうか。

幼少期の彼にとってのピアノは、ご両親からの“期待”の象徴であると思う。一緒にするのはおこがましいけれど、私も彼と同じように週7日それぞれ別の習い事に通う幼少期を過ごした。親からの重圧や親が望んでいる子どもとしての“わたし”と現状の私の乖離に悩み、小学生の頃にはもう競争社会に放り込まれていた私にとって櫻井翔さんは希望で、救済で、「私がなれなかったわたし」をどこかで彼に投影していたのかもしれない。私はこれまで親の期待に沿うわたしでありたくて大きく道を逸れないように、逸れないようにとこれまで生きてきて、別にそれを悔いているわけでは全くないけれどもし彼と同じように親が難色を示していたとしても茨の道を選ぶ勇気とそれを貫き説得力を持つための努力をする意志があったなら、また違う人生があったのではないかと思うのだ。
だから一層のこと、彼がピアノを弾く姿は私の心を揺さぶる。私にも違う人生があったかもしれないのと同様に、彼にもこの「博打」(本人談)の人生以外の選択肢だって私以上にあったはずだ。そんな彼が、ピアノを後ろから支えるように佇んで煌めくあの4人と、彼らを見守るファンと共に船を漕ぐ道を21年選択してきたことの重み。自分の身体よりもずっとずっと大きなピアノを弾いていた少年と、かけがえのない仲間と出会い立派な社会人となってキャリアを積んで紅白の司会をひとりで務め上げるほどに大きくなって東京ドームのステージで「親への餞」とピアノを弾く今この瞬間の彼の姿とがスクリーン上で重なることでまたそれに気付かされる。
ご両親がかつて期待していたであろう彼の将来と彼が選んだ道は相反していたはずなのに、こうして東京ドームでご両親からの“期待”を象徴するピアノを弾くことで「親への餞」を叶えてしまう櫻井翔さんには畏敬の念を抱くばかりだ。

〈明日を眩しいくらいに うまく描こうとして〉
自分のソロパートなのだから、ここぞとばかりに見せ場としても良いはずなのに。彼は客席に合唱を呼びかけて、「伴奏しますので」と微笑む。55000人の大合唱の伴奏ができる人なんて、一体日本に何人いるのだろう。客席の私たちも演出に巻き込むことで、彼と、4人の仲間と、数え切れないほどのファンという2019年(当時)の彼のすべてと成長の証を表す曲になった5×20の「アオゾラペダル」を私は一生忘れられないと思う。忘れる気なんてないけれど。

(文中〈〉は嵐「アオゾラペダル」より引用)
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