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ロックバンドに称賛を

UNISON SQUARE GARDEN 「Patrick Vegee」、その揺るがない本質

"なんかグチャっとしてんだよな"

ロックバンドのキャッチコピーとしては、おおよそ考えられないようなフレーズとともに、UNISON SQUARE GARDENの8thアルバム「Patrick Vegee」は発売された。

ロックバンドははみ出すものだが、気の抜けた言葉を前面に押し出すバンドはあまり見たことがない。

15周年の記念ライブで2万5000人を動員したバンドが翌年にリリースする作品としても、少々拍子抜けな印象を与えてしまうかもしれない。

タイトルの「Patrick Vegee」も、訳すると「パトリックさんちの野菜」…意味はわかりにくいが、スケール感のなさは何となしに伝わってくる。

けれども、そんなこじんまりした様子に途方もないワクワクを感じてしまうのは僕だけではないはず。

16年目のUNISON SQUARE GARDENは大層ではないけれど、決して揺るがない信念に満ち溢れている。

「Patrick Vegee」はその本質を十二分に体現するような作品になっていた。
     
前作「MODE MOOD MODE」は、ストリングスなどの同期音を多用し、UNISON SQUARE GARDENの魅力を考えうる限り内包した言うなれば大作だった。

ポップさを主張しながらも、ロック感や一聴では判断できない難解さも兼ね備えた、バンドの武器を全て詰め込んだ夢のアルバムになっていたと思う。

ほとんどの楽曲の作曲を担当する田淵智也(Ba.)も、次アルバムの発売までは2〜3年の間隔を空けたい…そう言ってしまうぐらいの自信を持った名盤に仕上がっていた。

それから2年8ヵ月、宣言通りの期間を経て制作された「Patrick Vegee」は、それとは真逆の性質を持つアルバムであった。

1曲目の「Hatch I need」は、歪なベース音が何とも不穏な幕開けを告げ、尖りきった歌詞が否応にもシリアスな雰囲気を醸し出している。

"散々ぱら端折って 行儀良く侮ってんじゃねぇよ"

"定石じゃないのは知ってますが 常識はあると思ってます"

"骨を折るのも骨が折れる"

誰に向けてではないが、一筋縄ではいかない強い思いが込められた歌詞たち。

触れたらヒリリと火傷してしまいそうな…見えない熱に包まれたメロディとも相まって、アルバムの入り口としてはやけに過激なものなっていた。

その尖り具合は続く2曲目の「マーメイドスキャンダラス」も変わらない。

アッパーなメロディラインとユニゾン特有の速いBPM、人魚姫を連想させるような切ない世界観の歌詞…一聴しただけでついてこれる人は多くないだろう。

5曲目の「摂食ビジランテ」も、決して万人受けしないフレーズの連続で、聴き手の心をザワつかせるような曲となっている。

"教育の死"なんて普通に生きていたらまず出てこないし、"めんどくせえよ 忌々しい"や"向上心ナシ 早くサインさせてよ"などが含まれるサビも、昨今の夢溢れる音楽シーンとは一線を画している。

極めつけはリード曲でもある8曲目「世界はファンシー」。

早口でまくし立てる斎藤宏介(Gt.&Vo.)のボーカルや疾走感を通り越して誰も追いつけないヘンテコなメロディは、これまでのリード曲とは全く異なる仕上がりとなっていた。

そう、ヘンテコなのだ。

"なんかグチャっとしてんだよな"

そのキャッチコピーの通り、聴いた瞬間には全体像が掴めない…それぞれの曲が好き勝手に主張してるような歪なアルバムに聴こえてしまう。

だからといって、作品としての纏まりがなくなっているわけではない。

むしろ纏まりは前作以上と言っても良い。

その肝のひとつとなっているのが、曲の構成である。

今回のアルバムには、「春が来てぼくら」、「Catch up,latency」、「Phantom Joke」というカラーの異なるシングルが収録されている。

この3曲が混在することは、ともすればグチャグチャ感が増長する事態になってしまう。

そんな予感もすり抜けて、 「Patrick Vegee」に収録されたシングル曲たちは、違和感のかけらもなくアルバムのピースとして収まっていた。

その大きな要因は前曲の最後の歌詞にあった。

3曲目の「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」には、"つまりレイテンシーを埋めています"。

6曲目の「夏影テールライト」には、"幻に消えたなら ジョークってことにしといて"。

9曲目の「弥生町ロンリープラネット」には、"そしてぼくらの春が来る"。

それぞれに次曲を連想させるフレーズが含まれているのだ。

シングル曲の主役感は、ときにアルバムのなかでは派手さで浮いてしまうことがある。

それを十二分に落とし込んだ上で、自然な流れで繋げていく。

一種のストーリー性に感嘆の声をあげてしまうが、それ以上に曲同士の化学反応がアルバムの魅力をもう一段階引き上げていた。

グチャっとしてるはずなのに、なんだか心地よい。

耳に残る異物感は、いつの間にか高揚感に変わっていた。

構成の巧みさはそれだけではない。

1曲目の「Hatch I need」から2曲目の「マーメイドスキャンダラス」の冒頭に繋がる流れは、UNISON SQUARE GARDENをよく知る人なら誰しも喜ぶ仕掛けが施されている。

散々に揺さぶり尽くした後の、11曲目「Simple Simple Anecdote」のフレーズは、それまでの好き勝手ぶりが嘘みたいに僕らの背中を押していく。

"でも泣きたい時に順番待ちもないだろう"

"全部嫌になったなんて簡単に言うなよ 全部が何かってことに気づいてないだけ"

"今日はなんとかなるぜモードでいいや"

生きることは劇的じゃなくても、そこらじゅうに価値あるものは転がっている…今ここに立っているだけでも誇らしくなって涙が出そうになる。

ラストを飾る「101回目のプロローグ」は、絶え間なく変わるメロディのなかで、壮大な終焉と何気ない始まりが同時に脳裏に浮かぶようだった。

あちこちに行ったり来たりしていた感情が、気がつけばいつもの場所に戻ってきている。

ロックバンドの音楽を聴ける幸せを噛み締めているのだ。

このグチャっとしているアルバムは、大仰な工夫もないし、わかりにくさも天下一品だった。

ただ、最後まで聴いた者にしかわかり得ない、極上の幸せを与えてくれる。

そんなちょっとした魔法を提供してくれる作品でもあった。
    
「Patrick Vegee」の最大の特徴をあげるとすれば、楽曲が基本的にメンバー3人の音だけで構成されていることだろう。

ピアノやストリングスなどの同期音を使用しないので、華やかさは減ってしまったかもしれない。

その分、音はより洗練されたものとなり…ひとつひとつのメロディが鼓膜ごと耳を貫いて、僕らの脳を揺さぶってきた。

ある意味で飾らない音楽性を体現することで、結果的に彼らのポテンシャルの高さが浮き彫りになったのだ。

唯一の例外である「春が来てぼくら」でさえも、構成の巧みさで最高のアクセントになってしまうほどに。

目新しいことはなくても、ロックバンドはカッコ良いし、良い音楽は生まれてくる。

見えない何かにこだわるのではなく、ただ目の前の音楽をひたすらに楽しむ彼らだからこそ、このアルバムは完成できたのだと思う。

その哲学が崩れない限りは、きっと僕らを救った魔法は解けることはない。

UNISON SQUARE GARDENというロックバンドは変わらない。そして、明日も生き続けている。

僕にとってはこれもひとつの生存確認。

万人には受け取ってもらえない言葉ばかりかもしれない。

もしかすると野暮なことを言っているのかもしれない。

けれども、こう言わずにはいられない。
 
ロックバンドに称賛を。
 
現代にこのアルバムが存在することはもっと評価されても良いはずだ。

変わらないことに幸せを噛み締める人は決して少なくない。

そんな喜びを感じさせてくれる作品に出会わせてくれたことにただ感謝をしたい。

誰に届かなくてもいいから。

せめてこの言葉だけは記させてほしい。
    
「Patrick Vegee」は45分という短い時間のなかで、様々な顔を見せていた。

ときには繋がりのある短編集のように、ときには起承転結が明確になった映画のように。

どの切り口にも代えがたい魅力が含まれていて、十人十色の好きになり方があるはずだ。

どこまでいってもUNISON SQUARE GARDENは自由だ。

メンバーも、そして聴き続けるファンにも、好きに音楽を愛せる機会を与えてくれる。

だが、そこに危うさは一切感じられない。

ヘラヘラしてても、手を抜いていても、根っこの覚悟は生半可なものではないから。

ロックバンドがロックバンドであり続けること。

その揺るぎない信念がある限り、4年後も彼らは変わらない姿で音楽を鳴らしているだろう。

"魔法が解けるその日まで"

僕の世界は今日も七色の虹がかかっている。
    
" "部分は「Patrick Vegee」のコピーや楽曲歌詞から引用。
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