4141 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

嵐が見せてくれた景色、「素晴らしき世界」

20年間のありがとう

2019年1月27日。

久々の連休で実家へ帰省していた日のこと。
就職して丸5年が経ち、母の夕飯を作る姿も少し小さく見えるようになってきた。
背を向けながら何気なく見ていたワイドショー。
飛び込んできたニュース速報に目を奪われた。

”2020年をもってアイドルグループ・嵐が活動休止を発表。”

―確か、こんな速報だったと思う。
意識が遠のいた。

一言も発することができなくなり、手は氷のように冷たくなった。

大好きで追いかけ続けている5人が、休止する。
母も手を止めてテレビを覗き込んだが、わたしの姿を見て、何も言わずにいてくれた。
嵐が行った会見は、翌日テレビで一日中流れていた。
驚いたことに、彼らの表情はむしろ清々しく、凛としていた。
そして、言葉の端々には、彼らの誰も取りこぼさないぞという気概が満ちている。
そしてその気概は、メンバーに対してだけでなく、ファンへも向けられていた。
その姿は、ずっと信じてきた嵐そのものだった。
絶対にこの5人を見届けよう。
あの瞬間、わたしはまさに、「最終電車」に乗り込んだのだった。
 
「最終列電車に乗って憂鬱の駅を駆け抜けてこう 君の街まであと少し」

―2005年の夏にリリースされた嵐のアルバム、「One」に収録された「素晴らしき世界」の一節。
アルバムをひっさげたツアー、「One」のフィナーレとして披露された。

1999年、わたしが小学2年生の頃から大好きで応援し続けていた嵐。
やっと参加できたコンサートが、まさにこのツアーだった。
このツアーはアルバムがリリースされていない状態で始まるという、かなり異例なもの。
そのため、かつてメンバー全員が持っていた個人のラジオ番組ではかなりの曲数をフライング再生してくれたり、アイドル誌の付録には全曲の歌詞と曲解説の書いた小冊子が付いてきたりと、予習の為のテキストをじゅうぶんに用意してくれていた。
それらを録音したMDと小冊子、この日のために貯めたお年玉を握り締めて向かった先は代々木第一体育館。
中学2年生だったわたしは、母に見送られつつ、幼なじみとふたりで始発電車に乗り込んだ。
車窓から見える富士山は朝日を浴びて眩く輝いていて、はやる気持ちを駆り立てた。
田舎から原宿へたった二人で出てきた中学生にかまわず声をかけてくるダフ屋をかき分け、買える限りのグッズを買い、竹下通りで特においしくないご飯を食べた。
開場時間ぴったりに着席し、嵐が毎年バレーの応援をしていたのがここなんだ、なんて感動していると、14時半の開演を待つ一時間はあっという間に過ぎた。

コンサート恒例、開演の数分前から始まる嵐コール。
ずっとこれがしたかった。
声が枯れそうなほど叫んだ。
暗転して登場したのは、真っ白な衣装に身を包む嵐。
スクリーンにはナレーションと共に、

”あなたにとって、一番大切なOneは何ですか?”

という文字が映し出された。
わたしにとってのOneは、目の前にいるあなたたちだと、心の中で即答した。
開場が割れそうなほど、みんなが叫んでいた。
応援してきた20年間の中でも忘れられない光景のひとつだ。
あの嵐が、わたしと同じ空間にいる。
5年以上も我慢してきたのだから、その事実が嬉しくてたまらなかった。
しかも、これまで見て来たDVDに登場したことのないものがそのステージにはあった。
スケスケの可動式ステージ―今でこそ定番となった「ジャニーズムービングステージ」。
あいにくスタンド席だったわたしは、いつか絶対にあの下の席で嵐を見上げる!と強く誓ったのだった。
コンサートの時間は本当にあっという間で、「素晴らしき世界」の学校のチャイムを連想させるようなイントロが流れてくる。

「溜息の色と染まりゆくこの空に僕は何かを探してた
 不安な未来とここから伸びる影を追い越すなんて出来ないのに」
「いくつもの夜の果てに今がある 明日も君が君でいられるための涙に祝福を!」

当時わたしの友達は、この日一緒に来てくれた幼なじみだけだった。
正直、人生の一切をやめてしまいたかった。
それでも、少なくとも今現在、わたしは嵐と同じ空間に居て、優しく歌いかけてくれている。涙が止まらなかった。
今までの涙は、わたしがわたしでいるためのものだったんだ、嵐がそう言ってくれてるなら間違いない。
本気でそう思えた、喜びの涙だった。

「今日もまた灰色の空が開けるはず君となら」

嵐とならば、この心の中の曇り空を晴らしていけるかもしれない。
コンサートの3時間のうちのたった1曲が、これまでの何もかもを救ってくれたのだった。
休止発表の会見で感じた「この5人についていこう」という気持ちが初めてわたしの中に芽生えたのは、おそらくこの瞬間だったと思う。
 
それからさらに15年あまりの歳月が流れたが、わたしの生活には現在進行形で嵐が共にある。
ざっくり言うと、ほとんど全てを買ったし、全て見た。
それに伴っていろんな場所へ行けたし、いろんなものやこと、いろんな音楽に出会った。

「Everything is gonna be all right」

櫻井翔がリリックに書いたこの言葉を、わたしはおまじないのようにして生きてきたように思う。
もう怖がらないでいい、大丈夫だよと言われている気がした。
おかげで初めてのコンサートに行った頃からは想像できない様な沢山の出会いに恵まれ、大切な人たちと巡りあうことができた。
何より、嵐と一緒にたくさんの景色を見せてもらった。
 
そして、2019年11月。
嵐はSNSと音楽・動画配信を始めた。

”もっと近くへ。”

そう思ってくれることが何より嬉しかった。
肖像権や著作権に高いハードルのあるジャニーズ事務所にありながら、そこを切り拓いてくれること。

「俺らがあくまで タイトなパイオニア」(COOL & SOUL・ARASHICより)

という言葉は、彼らの根底に深く根付いた精神なのだなと感じた。
 
2019年12月。
わたしは誰よりも一緒にコンサートを見たかった人と一緒に、東京ドームにいた。
学生時代、コンサートの度に駅まで送り届けてくれ続けた母である。
まったくファンでなかった母だったが、わたしがカーステレオで流し続けるものだから、アルバム曲まで歌うことができるようになっていた。
誰かがテレビに出演していると、「〇〇がテレビに出てるよ!見てる?」と、度々メッセージを送ってくる。
ペンライトを振りながら楽しむ母を横目に見ながら、嵐の音楽はこの人にとっても大きなものになっているのだなと初めて気が付いた。
車社会の田舎から10代の娘ひとりを東京へ送り出すのは凄く心配で心細かっただろうとか、当時は気付かなかった母の気持ちにも触れられたような気がした。

嵐のコンサートはやっぱり楽しくて、全力でコール&レスポンスをしていると嘘のようにあっという間に時が経ってしまっている。
これが最後かもしれないと理解はしていたつもりだが、この日もやはり、叫んだり、踊ったり、自らを重ねたりしているうちにあっという間にフィナーレを迎えてしまった。
嵐からのあたたかさ、家族のあたたかさまで感じられた、本当に良い時間だった。
もし本当にこれが最後になってしまったとしても悔いはないと、心のどこかで思うことができている自分が居た。
 
2020年。

誰もが予測しなかった時代が訪れてしまった。
わたしたちはいままさに、「憂鬱の駅を駆け抜けて」いる最中だと日々感じている。
そんな中、嵐は2011年から2019年まで震災のチャリティーイベントとして行ってきた「嵐のワクワク学校」を、配信という形で実行してくれた。
YouTubeでは「小さいお子さんの居る方のために」と、紙芝居を読み聞かせてくれた(大人のわたしも大変楽しませて頂いた)。
また、過去のコンサート映像2つも初めて解禁したことで、これまで目の当たりにしてこなかった人をも楽しませた。
SNSも毎日更新してくれた。

「満員電車に乗って大事な気持ち無くしかけた
 今ならまだ間に合うはず
 僕らは泣いて笑ってそれでも明日を夢見てしまう
 これからが素晴らしき世界」

―そう、泣いても笑っても、どんな状況であっても、嵐はわたしたちに明日を夢見させてくれ続けている。
多忙のなかでこれだけやってくれる彼ら。
わたしたちが知らされることのなかった予定をどれほど用意してくれていたことだろうと、胸が痛む。
楽しみにしていた国立競技場でのコンサートは、彼らのデビュー日に配信されることが発表された。
賢明な判断に、心から感謝している。
嵐と共に立って空を見上げ、その色が移り変わっていく―。
毎年楽しみにしていた、大好きなあの光景を目の当たりにすることはできないが、瞼の裏にあるそれら思い返しながら楽しみたいと思う。
 
「This is a Little Song, a Tiny Song この手高く高く今舞い上がる
 友を信じる優しい声が遠く遠く君の元へ届きますよう」

わたしにとっての「素晴らしき世界」は間違いなく、嵐と共に「色を加え塗り描いて行く“近い将来”」の積み重ねだ。
これから何が起こるのか。どんな世界になっていくのか。
誰にも分からないけれど、それでも道を照らしてくれるのが、嵐の5人だ。
あの発表からずっと、どうやったら彼らにこの感謝を伝えられるだろうと日々考えていたが、照らし続けてもらった光を、大切に胸に灯し続けて生きていくことだと、やっと自分なりに結論が出た。
忘れないように記しておこうと思う。
5人が音に乗せて届けてくれたあたたかさや勇気。感謝の気持ち。
今度はわたしたちが、それらを光に変えていく番なのだろう。
世界中から集まった沢山の光が、彼らを照らし続けてくれることを願ってやまない。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい