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21歳の私へ

Mrs. Green Appleの歌に寄せて

天才に、なりたかった。

天才には、なれなかった。

明日、私は21歳になる。小さいころから、自分は特別な人間だと信じていた。人とは違う、なにかができる人間であると。

これまでの人生、うまくやってきた。勉強もそれなりにでき、友達にも恵まれ、何にチャレンジしてもそれなりの結果を残してきた。

でも、「特別な何か」は結局見つからなかった。20歳が終わろうとしている今でも。
自分で選んだ学問を極める訳でもなく、人のために尽くせる訳でもなく。誰にも負けない特技がある訳でもなく。
唯一褒められてきた文章だって、言葉を尽くして書いた自信作は、届かなかった。
私はいったい何になれたというのだろう。

高校1年生の時、大森元貴という人間を知った。
5人組バンド、Mrs. Green Appleのボーカルで、フロントマン。
彼の音楽を聞いた時、「天才だ」と思った。

ポップなメロディに鋭い言葉。
彼が紡ぐ言葉は、人をとらえ、飲み込む。

言葉の選び方。音の生かし方。フレーズとフレーズのあいだの「間」。
全て完璧だと思った。たった3つ上とは思えない、まさに「音楽をするために生まれてきた人」だと思った。
こういう人のことを「天才」と呼ぶのだと。

彼らの初の全国流通盤「Progressive」リリース時、大森は若干18歳。
「未来」と「人」について主に歌われたこのミニアルバムには、「18歳の大森元貴」の姿がありのままに刻まれている。

”未だ明されて無い事を
この身を以て皆に見せたいな
逃げちゃうのがなんだかんだオチな
僕らは理想を纏っている   『CONFLICT』”

大森元貴の詞は「奇抜」なわけでは無い。でも、「特別」だ。
何かこれといって引っかかる言葉があるわけでもない。誰もが知っている言葉で、彼だけの詞を綴る。その歌詞は彼の想いが形になったものであるが、決して独りよがりでは無い。同時代を生きる私たちにいつも「共感」と「気づき」を与えてくれる。
私は、SEKAI NO OWARIのボーカルFukaseの歌詞を見るときも、いつも似たような事を思う。ただ、大森の歌詞がFukaseと違うのは、より身近である点だ。Fukaseが世界における「戦争」や「平和」を歌うのに対し、大森は生活における「人」を歌う。

先述の『CONFLICT』の歌詞であるが、この詞は今の大森には書けないのだろう。多くの人に支持され、大きな会場でライブするようになった彼には。
この曲を聴くと、見えない未来に向かってもがく、あの時の彼が横にいるようだ。

大森元貴の詞は決して「文学」ではない。
時にはその文には繋がりがなく、はっきりとした結末がないものもある。物語のように起承転結があるわけでもなく、受け取り手の注意を引こうとする露骨な表現もない。
まるで独り言をつなぎとめるようだ、と私は思う。
歌に出てくる「私」や「貴方」と対話しながらできた音楽。まるでそれを盗み聞きする感覚で、私はミセスの音楽を聴く。

”君に見て欲しいんだよ
 私の中の「本当」を
 その心とその手で 救い出してよ 『日々と君』”

彼の作る音楽を聴くと、まるで人の暖かさが直に伝わってくるようだ。その深みのある高音と、柔らかなピアノの音には、確実に温度が宿っている。暖かい毛布に包まれたり、誰かにハグされた時のような、人が作り出す温度がそこにはある。

どうやったらこの暖かさを作り出せるのか、私には分からない。
ただの音符と言葉の羅列に、いったいどうやって命を吹き込んでいるというのか。

彼が書く詞の中には「世界」「世の中」という言葉がよく出てくる。
このアルバムの中だけでも、合計6回。

“貴方の優しさで 救われるような世界で在って欲しいな 『我逢人』”

”でも貴方の微笑みだけじゃ 救われない世界が心底嫌いになりそうだ 『我逢人』”

“明日世界が途方に暮れてしまっても
壁の花には気付きもしないんだろうな 『WaLL FloWeR』”

”混沌とした世の中で生きて行くんだ 『WaLL FloWeR』”

”明日世界が途端に終わってしまうなら
人は大切なものに気づくんだろうな 『WaLL FloWeR』

”世界は貴方の手に拠り 生きて居る『WaLL FloWeR』”

彼の頭の中にある世界は、いったいどんな世界なのだろう。
彼の目線から、世界はいったいどう見えているのだろう。
彼の理想とする世界はどのようなところなのだろうか。

凡人の私には分からない、広い世界が見えているのだろうか。はたまた、この世界の窮屈さを憂いているのだろうか。美しいものを作る、彼の世界が、私は欲しい。
20歳最後の日、”この今の気持ちだけは 忘れぬように“ この文を綴る。

天才になりたい。
21歳。これから私は新しい「世界」を、作る。
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