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JUJUが私の扉を蹴破った

スキマスイッチの「奏(かなで)」を歌うJUJUからのメッセージ

 JUJUがスキマスイッチの「奏(かなで)」をカバーする。

 ある日、スキマスイッチの公式Twitterで知った。カバーすることの垣根が昔より低くなったのだろうか、とふと思う。それはアーティストの気持ちの変化なのかもしれないし、リリースする側のビジネスモデルの変化かもしれない。徳永英明がカバーアルバムを出してから徐々にカバー作品に対する見方が変わった思うけれど、どうだろう。

 カバー作品はアーティスト側にしたら、自分が好き、または良いと思う作品を自分の声で届けたいという意志に尽き、リリースする側にしたら良い作品を違うアーティストの声を借り、アレンジを変え、その作品の他の側面にオリジナリティを見出し、世に出したいと思うのだろう。受け手としてはヒット曲と呼ばれる音楽はいつ聴いても心地がいいし、オリジナルと比較しつつ、自分としてはどちらが好みか、などとジャッジメントを含みながらその作品を堪能する。
 
 さて私がスキマスイッチを追っかけ始めて14年。今や音楽はダウンロード、サブスクリプションの時代であるが、その昔、まだCDを買うことが主流だった頃、音楽ギフト券なるものが存在した。友達から音楽ギフト券をもらった私は、どうせならいつも聴かない音楽を買おうと思って、ジャケ買いしたのが「夕風ブレンド/スキマスイッチ」だった。全体が温かいオレンジ色で、やさしいイラストが描かれている紙のジャケットだった。1曲目の「藍/スキマスイッチ」を聴いて、私はドボンとスキマスイッチの沼に落ちた。恋に落ちたと言ってもいいくらいの鮮やかなるドボンだ。「藍」はミディアムバラードで、恋する相手との関係を歌ったものだった。哀愁漂うメロディーとサビで母音の「e」の韻を踏むのも絶妙な心地よさで、たちまちスキマスイッチの音楽のとりこになった。

 夢中になった私は過去の作品にさかのぼり、彼らが「奏(かなで)/スキマスイッチ」という曲を出していることを知った。それもファンの間ではたいそう人気らしい。聴いてみると確かに良い。音楽はAメロからサビに行くシンプルなもので、送り出す側の揺らぐ心情と最後に向かって高まっていく音楽表現はこちらの心を揺さぶった。詞はストーリーが明確で、かつドラマティックで、それでいてとても女性の気持ちに添っていて心強い。後から知ったのだが、当時、スキマの二人は女心を知るために親族や女友達に聞き取りをしたそうだ。その結果、旅立つときには一回は止めてほしいけれど、最終的には背中を押してほしいという、女性側の専らの意見を「奏(かなで)」へと取り入れた。

 「藍」も「奏(かなで)」も生で聴きたい…。早速私はライブのチケットを取り、NHKホールへと足を運んだ。「夕風ブレンド」を携えたツアーだったが、きっと、そんなにファンから支持を集めているのだから「奏(かなで)」は歌うだろうという期待を持っていた。しかし3階席から緊張しながら首を長くして待っていても「奏(かなで)」は歌われない。そう、結局アンコールまで歌われず、期待はあっさり裏切られた。東京までやってきたのに、こんな仕打ちあるのか(笑)。

 その後、ようやくアリーナツアー「W-ARENA」で「奏(かなで)」を初聴きすることになった。ようやく聴ける。胸が高鳴る。そして雨のように降る拍手と聴いたことのない歓声がとどろいた。多くのファンがこの曲を待っているんだなぁ、と思った。そして大橋卓弥によって歌い上げられるエモーショナルな生の「奏(かなで)」は本当に素晴らしくて、ブルブルと自分の心にバイブレーション機能が備わっているじゃないかと思うくらい震えた。周りからはすすり泣く声もたくさん聞こえた。

 「奏(かなで)」が持つ力をまざまざと実感した私の中には、案の定、奏=スキマスイッチという図式が刷り込まれた。他にも彼らには多くの素晴らしい作品があって、それこそ周りにスキマスイッチの良さを語る時には、彼らの魅力はみんなが知っている「奏(かなで)」だけじゃないんだよ、とまずは「奏(かなで)」は封印するという抵抗をし、他の作品を紹介した。けれど自分の根底も他人の根底も拭えることはそうなかった。「奏(かなで)」はスキマの代名詞で、スキマそのものである、ということが私の、他人の主軸から離れることはなかった。

 だから、他のアーティストが音楽番組で「奏(かなで)」を歌っていたとしても、やっぱりスキマなんだよなぁ、スキマが歌わないと響かないんだよなぁ、と思っていた。JUJUの「奏(かなで)」を聴くまでは。

 先日、JUJUの「奏(かなで)」のMVが公開されたことを知り視聴してみた。当然のことながらアレンジが全然違うのだけれど、違う…。スキマの持つ「奏(かなで)」の世界観と全然違うのだ。なんと言うか、とにかく狂おしいほどに切ない。スキマスイッチの大橋卓弥もJUJUのHPにコメントを寄せているが、「今までで一番切ない」のだ。この切なさは一体どこからくるのだろう。

 スキマスイッチの「奏(かなで)」を聴いて頭に浮かぶのは、男性が女性に寄り添って、いつも背中を押してくれる情景だった。例えば、転勤、卒業、進学で離ればなれになる、時には結婚する娘を父親が送り出す、そんな関係にもなぞらえることができた。私の中で彼らの「奏(かなで)」は新しい門出を想起させ、離れていても大丈夫だという勇気を与えてくれるものだった。もちろん、男性ボーカルが歌うことで、「背中を押す」という役割を忠実に果たしていたが、詞の持つドラマ性が前面に表れ、どこまでも遠い未来でもその音楽で守ってくれるような気がした。

 一方でJUJUの歌う「奏(かなで)」は、そういう類の情景はあまり浮かんでこない。言葉の先にある感情だけが次々とパッケージされてこれでもかというくらいにこちらに押し寄せてくる。どこへ持って行けばいいのか分からない感情に溺れそうになる。

 女性が歌うと視点が変わるからだろうか。いや、JUJUの持っている声、そこに帯びる色気がそうさせるんだろうか。あ、そういえば、と、以前読んだエッセイの一節を思い出す。

 「人生や宿命に身をゆだねている、抗わない感じ、が「エロ」「色気」なのだ。」
(まにまに p17/西 加奈子・角川文庫)

 「エロ」という言葉はちょっと違うけれど、言い得て妙とはこのことだなと思った。考えてみればJUJUって抗わないような気がする。彼女の話し方とか言動とか佇まいから何となくそんな気がするのだ。それは受け入れる、ということとも、自分がないということとも少し違う。自分にも他人にも、世間にも抗わず、あるがままに、凛として時に身をゆだね、感じるものを歌で放出する。そこには抗わないゆえに生まれる色気が存在し、それはJUJUの声を染めてこちらの胸をギュッとさせる。

 ああ、JUJUの歌ってこうやって聴く人の中で、色気が切なさへと変容していくんだな、そしてJUJUが元来持っている声の力と音楽の持つ力、その時の感情がもたらす彩りがそこに加わって、我々に、さらに狂おしいほどの切なさを感じさせるんだろうな、そんな風に思った。

 さらに感じたことがある。JUJUの「奏(かなで)」は切なさが溢れているからだろうか、スキマの「奏(かなで)」から感じるその詞のドラマ性や「背中を押す」というメッセージよりも、「つながっていく」ことにフォーカスされる印象を受ける。というか、JUJUの声に耳を傾けていたら切なくて切なくて、私にはそこしか拾えなかったというのが本音なのだが…。

 しかし「つながっていく」の向こう側には聴き手の感情も借りてたくさんのシーンが見えてくる。恋人とのつながり、家族とのつながり、友達とのつながり、世間とのつながり、こちらの世界とあちらの世界のつながり、瞬間的なつながり、永遠的なつながり、過去とのつながり、未来へとのつながり...。たとえ「つながっていく」1点にフォーカスされたとしても、このテーマひとつで、JUJUの歌う「奏(かなで)」はたくさんの景色を私たちに見せてくれる。そしてつながりは決して目に見えないものだけれど、つながっていくことの喜び、幸せ、心強さを感じさせてくれ、時に聴き手に大きな力を与えてくれる。それは昨今の混沌とした、誰もが一抹の不安を感じるであろう世の中に差し出される手のような存在にも思えるのだ。

 「奏(かなで)」はスキマスイッチのもの、スキマファン歴14年目にして、ガチガチのこの私の概念をあの高いヒールでかっこよく蹴破ってくれたのがJUJUだった。いとも簡単に、扉が開いてしまったことに自分でも驚く。

 スキマスイッチの常田真太郎はJUJUのHPにこのようなコメントを寄せている。「いつか生で、この曲を感情的に歌うJUJUが、そしてエモーショナルに演奏するミュージシャンの皆さんが観れますように。」と。でも私は願っている。いつか、「背中を押してくれる」スキマスイッチと「つながり」を見せてくれるJUJUと、同じステージで「奏(かなで)」歌ってくれる日が来てほしいと。その時の自分の心の高鳴りを想像して、それはきっと初めて生で「奏(かなで)」を聴いた時を超えるんじゃないかと思うけれど、しばし、交互に聴きながらその日が来ることを願って待つことにする。その日が来たら私の心はバイブレーション最強で震えるに違いない。
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