紅蓮のスイートピー
=宮本浩次の歌声×呉田軽穂(松任谷由実)の旋律
2020年10月27日
75
11月18日に、宮本浩次さんのカバー・アルバムが発表されるそうです。収録曲のひとつに、松田聖子さんが歌ってきた「赤いスイートピー」が選ばれたそうです。私は宮本浩次さんのキャリアについて、あまり詳しくはないのですが、このたびのカバー・アルバムのリリース、とりわけ楽曲「赤いスイートピー」が収められることは、吉報に他ならないと感じています。
***
「赤いスイートピー」を長年、歌ってきてくれたのは、松田聖子さんです。そして本曲の詞をつむぎだしたのは、松本隆さんです。歌い手・作詞者より、それをカバーしようとする人・作曲者にスポットライトを当てようとする私は、もしかすると非礼なのかもしれません。
それでも私は、この曲の魅力は旋律にあると感じていますし、それが他ならぬ宮本浩次さんの声で届けられたら、鮮やかな赤が眼前に広がるのではないかと、アルバムの発表を心待ちにしています。
***
「赤いスイートピー」の歌詞は、細やかで控えめな、女性の恋心を表したものです。
<<煙草の匂いのシャツにそっと寄りそうから>>
<<何故 知りあった日から半年過ぎても あなたって手も握らない>>
上記のようなリリックが、軽やかな風のような旋律に乗せられます。「赤いスイートピー」の作曲者は呉田軽穂(※くれだかるほ)とクレジットされていますが、これは周知のとおり松任谷由実(ユーミン)さんのペンネームです。伸びやかなラブソングを歌わせたら敵なしの、ユーミンならではのメロディラインが、サビに置かれます。
<<あなたに ついてゆきたい>>
「ついていく」というのは、いくぶん古風な、受動的・消極的な愛の形であるようにも感じられますが、そんな感情が、突き抜けるように晴れやかな「ユーミン節」に出会ったからこそ、「赤いスイートピー」は切ないけれど切ないだけではない、一途だけど一途なだけではない、そういう重層的なラブソングに仕上がったのだと、私は考えています。
松田聖子さんの歌唱も、十分にエモーショナルなものであり、この曲は「いじりよう」がないようにも感じられます。女性が・女性としての胸のうちを・女性の生み出した旋律に乗せて歌い上げる。そのようにして作り出される世界は、動かしようのないものにも思えます。
***
でも今回、歌うのは宮本浩次さんです。宮本さんは浅学な私ですら知っているほどの(あまり言葉が良くないかもしれませんが)激情家です。燃えるような思いをリスナーに叩きつける、熱い歌い手です。いま彼に、「赤いスイートピー」の可憐なリリックが、そして伸びやかな旋律が託されています。リスナーの心には、はたして、どんな色のスイートピーが咲き乱れることになるでしょうか。
汗に濡れるような宮本浩次さんの声。草原を吹き渡るような松任谷由実さんの旋律。熱さと涼やかさ、それが止揚される時、何が起こるのか。恐らく咲き誇るのは、スイートピーに他ならないでしょう、宮本さんは作者や松田聖子さんへの敬意を示しもするでしょう。でも、それだけでは終わらないのではないでしょうか。宮本浩次さんは型にはまるような歌い手ではありません。その「スイートピー」の色を、よりあでやかな、鮮やかな、燃えたぎるような赤に仕上げるのではないでしょうか。
***
長年、松田聖子さんの歌う「赤いスイートピー」を愛聴してきた人たちは、それぞれに「スイートピーの咲き誇る光景」を、心のなかに(イメージとして)持っていることでしょう。それでも今回、宮本さんが試みるのは「カバー」です、「コピー」ではありません。私たちを待ち構えているのは、恐らくは「忠実な再現」ではなく、「革新的な創造」なのではないでしょうか。
誰も手が出せなかった、草原の真ん中に咲いていたスイートピーに、いま歩み寄る宮本浩次さん。その血潮と花の色が、共鳴する瞬間が、リスナーに刻々と近づいています。
私たちの、私たちそれぞれの、そう、<<心の岸辺>>を覆い隠すような、言うなれば「紅蓮のスイートピー」が、きっと11月に待っているはずです。
春はずっと先だけど、コロナ禍はつづいているけど、その「スイートピー」の咲く季節は、もう目の前です。
※<<>>内は呉田軽穂作曲「赤いスイートピー」の歌詞より引用
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「赤いスイートピー」を長年、歌ってきてくれたのは、松田聖子さんです。そして本曲の詞をつむぎだしたのは、松本隆さんです。歌い手・作詞者より、それをカバーしようとする人・作曲者にスポットライトを当てようとする私は、もしかすると非礼なのかもしれません。
それでも私は、この曲の魅力は旋律にあると感じていますし、それが他ならぬ宮本浩次さんの声で届けられたら、鮮やかな赤が眼前に広がるのではないかと、アルバムの発表を心待ちにしています。
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「赤いスイートピー」の歌詞は、細やかで控えめな、女性の恋心を表したものです。
<<煙草の匂いのシャツにそっと寄りそうから>>
<<何故 知りあった日から半年過ぎても あなたって手も握らない>>
上記のようなリリックが、軽やかな風のような旋律に乗せられます。「赤いスイートピー」の作曲者は呉田軽穂(※くれだかるほ)とクレジットされていますが、これは周知のとおり松任谷由実(ユーミン)さんのペンネームです。伸びやかなラブソングを歌わせたら敵なしの、ユーミンならではのメロディラインが、サビに置かれます。
<<あなたに ついてゆきたい>>
「ついていく」というのは、いくぶん古風な、受動的・消極的な愛の形であるようにも感じられますが、そんな感情が、突き抜けるように晴れやかな「ユーミン節」に出会ったからこそ、「赤いスイートピー」は切ないけれど切ないだけではない、一途だけど一途なだけではない、そういう重層的なラブソングに仕上がったのだと、私は考えています。
松田聖子さんの歌唱も、十分にエモーショナルなものであり、この曲は「いじりよう」がないようにも感じられます。女性が・女性としての胸のうちを・女性の生み出した旋律に乗せて歌い上げる。そのようにして作り出される世界は、動かしようのないものにも思えます。
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でも今回、歌うのは宮本浩次さんです。宮本さんは浅学な私ですら知っているほどの(あまり言葉が良くないかもしれませんが)激情家です。燃えるような思いをリスナーに叩きつける、熱い歌い手です。いま彼に、「赤いスイートピー」の可憐なリリックが、そして伸びやかな旋律が託されています。リスナーの心には、はたして、どんな色のスイートピーが咲き乱れることになるでしょうか。
汗に濡れるような宮本浩次さんの声。草原を吹き渡るような松任谷由実さんの旋律。熱さと涼やかさ、それが止揚される時、何が起こるのか。恐らく咲き誇るのは、スイートピーに他ならないでしょう、宮本さんは作者や松田聖子さんへの敬意を示しもするでしょう。でも、それだけでは終わらないのではないでしょうか。宮本浩次さんは型にはまるような歌い手ではありません。その「スイートピー」の色を、よりあでやかな、鮮やかな、燃えたぎるような赤に仕上げるのではないでしょうか。
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長年、松田聖子さんの歌う「赤いスイートピー」を愛聴してきた人たちは、それぞれに「スイートピーの咲き誇る光景」を、心のなかに(イメージとして)持っていることでしょう。それでも今回、宮本さんが試みるのは「カバー」です、「コピー」ではありません。私たちを待ち構えているのは、恐らくは「忠実な再現」ではなく、「革新的な創造」なのではないでしょうか。
誰も手が出せなかった、草原の真ん中に咲いていたスイートピーに、いま歩み寄る宮本浩次さん。その血潮と花の色が、共鳴する瞬間が、リスナーに刻々と近づいています。
私たちの、私たちそれぞれの、そう、<<心の岸辺>>を覆い隠すような、言うなれば「紅蓮のスイートピー」が、きっと11月に待っているはずです。
春はずっと先だけど、コロナ禍はつづいているけど、その「スイートピー」の咲く季節は、もう目の前です。
※<<>>内は呉田軽穂作曲「赤いスイートピー」の歌詞より引用
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