4428 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

ロックバンドのロマンを、この先も。

UNISON SQUARE GARDEN 8thアルバム「Patrick Vegee」に寄せて

9月30日、UNISON SQUARE GARDENが8枚目のアルバム「Patrick Vegee」をリリースした。

今作はほとんどの楽曲を3人の音・人力だけで作り上げることをテーマとしており、ユニゾン史上最も内側を向いたオーガニックかつドメスティックなアルバムとなった。

16年目に出すアルバムがここまでシンプルなものになったのは、15周年前後の規模の大きな活動と対になる側面もあるのだろう。

前作「MODE MOOD MODE」をリリースした2018年1月から15周年を迎えた2019年の活動を振り返りたい。
そもそも前回のアルバムは派手にホーンや同期を多用した楽曲を含んだ、非常に煌びやかな作品であった。当時のバンドがそういったことにも積極的に取り込むモードであったことに加え、かなりバンドとして大きくなってきたことが目に見てわかるようになった時期であった。
「One roll, One romance」ツアーの最終公演は千葉・幕張メッセで行われ、「MODE MOOD MODE」ツアーでは神奈川・横浜アリーナでもライブが開催された。15周年には大阪・舞洲において2万5,000人を動員し、普段はあまり推奨していない遠征もお願いして、派手に15周年のお祝いをした。
かつてこのバンドは3人以外の人間をステージに上げることを積極的にはしてこなかったが、2019年のトリビュートアルバム発売記念ライブでは参加した仲間たちと共に演奏する豪華なライブも行われた。

前提として彼らはメジャーで活動しているし、人気のあるバンドである。だからこそ活動のスタンスはバンドの運命を大きく左右する。それを踏まえた上で、「この人たちどうしちゃったんだ」と思われるような宴の数々を終え、再び3人だけで地に足つけて音を鳴らすことを選んだ彼らはなんと潔いのだろう。3人で音を合わせた時の奇跡が最強であることを経験値として知っているからこその選択肢だ。シンプルこそロマンである。

ここ数年は三者三様の活動も活発化してきたが、それゆえに曲作りにおけるプライドと譲歩のバランスも一段と上手く取れるようになったと感じる。お互いのプレイを信頼しているからこそそれぞれ好きなようにやれるし、一番いい落とし所を探ることが出来ている。

バンドが大きくなるにつれ、背負うものもどんどん増えていった。この16年目に出すアルバムに対しては期待値も膨らんでいたが、彼らから提示されたものは「そんなに気負ってないですよ」というスタンスだ。それどころかロックバンドとして今一番やりたいこと、表現したいものを背伸びしすぎることも無く等身大で表している。

2020年に入り、思うようにライブが出来ない日々が続いている。そんな中リリースされるアルバムでも負の気配は一切見せず、最高級の通常営業を貫いている。ルーツとなる音楽にも触れつつ、今までにやってきたことや歌ってきたことの一貫性も丁寧に保持されており、結果として16年目を歩むロックバンドに相応しい1枚となった。

彼らが貫いているロックバンドのロマンの一つとして、アルバムの曲順に対する拘りがある。既出のシングルを散りばめ、ただ間を埋めただけのアルバムはいくつもあるし、サブスクリプションサービスの普及により曲順の価値は失われつつある。このような音楽シーンを見極めた上で敢えて無視をし、アルバムの構成を怠ることなく追求している。

今作において特に面白いのが曲の繋ぎ方である。収録曲の最後のフレーズに注目しよう。
《つまりレイテンシーを埋めています/スロウカーヴは打てない(that made me crazy)》→"Catch up, latency"、《幻に消えたなら ジョークってことにしといて。/夏影テールライト》→"Phantom Joke"、《Fancy is lonely./世界はファンシー》→"弥生町ロンリープラネット"、《そしてぼくらの春が来る/弥生町ロンリープラネット》→"春が来てぼくら"と言ったように、その順番で聴くからこそ浮かんでくる接続フレーズが各所に光る。
彼らはアルバムだけでなくライブにおいても曲間のインターバルにこだわってきた。鳴らす音をどのような展開で紡いでいくのか、いつもわくわくさせられる。

"Hatch I need"→"マーメイドスキャンダラス"の繋ぎも非常に印象的だ。"I need Hatch"の繰り返しからノーイントロで《マーメイドの嘘が本当になってしまう前に》と続く。Hatch マーメイド、ハッチ マーメイド、はっち まーめいど、はちまいめ...?
最早説明するのも野暮だが、「Patrick Vegee」は8枚目のアルバムである。
遊び心も取り入れつつ難解なことをサラッとこなす人たちなので、リスナーが飽きる暇が全くない。

既にリリースされているシングルも、このアルバムに収録されたことでまた新たな表情を見せているように感じた。個人的にお気に入りなのが"夏影テールライト"→"Phantom Joke"の繋ぎだ。"Phantom Joke"は1年以上前にリリースされたシングルであるが、"夏影テールライト"の直後に置かれたことにより、気高い希望の色がより強くなったように感じられた。天才的な繋ぎ方が生んだ曲同士の相乗効果である。

活動の一貫性という観点で、今作には過去の作品を肯定するように聞き覚えのあるフレーズやメロディも盛り込まれている。
伊坂幸太郎の小説を読んだことがあるだろうか。彼の作品に登場するキャラクターはどれも愛おしいものばかりだが、ある作品に登場した人物が別の物語に登場することがよくある。こっそりニヤリとできるファンだけの特権だ。
UNISON SQUARE GARDENの作品にもそれと似た部分があると感じる。キャラクターに愛着を湧かせるのと同じように、既出曲への愛情のまた一つ、二つと落とし込んだ。


ロックバンドとして情勢や外野の声に左右されることなく独自の道を歩み続けているが、絶えず進化し続けているのには間違いない。

ここ数年の彼らには短いアルバム・短いライブがトレンドになりつつあるように思えた。今作も通しで聴くと45分であり、フルアルバムとしてはやや短めである。数字だけ見るとあっさりしているように捉えられるだろうが、中身は異常なほどに濃い。難しいことを淡々と、すまし顔で鳴らして颯爽と帰っていくのがこのバンドの常だ。見せかけの雑多感から緻密に計算された構築美を感じ取る。

最近は三者三様の活動も活発化しており、それらを経て再び3人で音を合わせたときの新たな発見や発明も増えているように思う。
斎藤宏介(Vo./Gt.)はボーカルの強さをどんどん上書きしていく。今作で特に気になったのは母音の使い方だ。田淵智也(Ba.)の書いた歌詞に《無慈悲に泣く声も 無力に止まる足も 未来の足かせになるから 目を覚ませよ/Phantom Joke》の「足/足かせ」や《わがままかな どうしてこんなにも器用じゃないんだ
全然気丈なんかではないから帳尻を合わせなきゃ/夏影テールライト》の「器用/気丈」など、発音が同じもしくは似たフレーズが頻出する。これが意図的か偶然かはわからないが、斎藤は母音の当て方に変化を付けたり強弱を付けたりして、似たもの同士にそれぞれの彩りを与えている。テクニックでもあり、斎藤のボーカリストとしての意地も感じた。

また、"夏影テールライト"ではサビのコーラスが光る。今作では極力ストリングスを使用しないことにしているからこそ生み出された、「声を楽器にする」という技が生かされている。この部分のコーラスはなんとも爽やかであり、甘酸っぱさが引き立つ。楽曲に厚みを持たせて華やかにしつつ、斎藤のメロディラインもしっかり浮き上がってくる。

そしてこのアルバムを、ひいてはこのバンドを語るならば、鈴木貴雄(Dr.)のドラムに触れないわけにはいかない。彼のドラムは手数が多いものの非常にメロディアスで、最早ドラムが担うべき役割の域をはるかに超えている。バンドの起伏はもはやこの人が司っているのではと思うほど、楽曲の緩急を無理なく操っているのは間違いない。プレイのあちこちに愛情が溢れかえっていて、一人のリスナーとしてしっかり受け止めたいといつも思う。


15年間の活動を丁寧に肯定し、今3人がやりたいことをストレートに表現し、ロックバンドの明るくも気を張らないこれからを提示する。ロックバンドのうつろいを眺めつつ、その存在の唯一無二さを再確認できるアルバムだ。近い未来に開催されるであろう今作のツアーも楽しみにしておこう。

ロックバンドはいつも、何食わぬ顔で私たちに魔法をかける。決してど真ん中を走っているバンドではないと、彼らも私たちも十分に理解している。だからこそ生まれる共犯関係が非常に心地よく、愛おしいのだ。これからも彼らが大切に貫いていくロマンに身を委ねていきたい。
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい