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「ロマンス」「化粧」にみる絶対的主観と圧倒的没入感

宮本浩次カバーアルバム『ROMANCE』発売にむけて

エレカシの野音やコンサートは勿論、曲を聴くたびにいつも思う事がある。それは、「何故、女に生まれてきてしまったのだろう。」という思い。勝手な幻想なのかもしれないが、「同じ男としてエレカシを感じ切ってみたい」、「男が男に惚れる、を体感してみたい」と常日頃思っている。
 しかし、今回はその思いを払拭するかのように、宮本浩次のカバーアルバム『ROMANCE』が発売される。アルバムのスペシャルサイトに「宮本が愛した、おんな唄」とあるように、女性歌手のカバー曲。今回ばかりは女に生まれて良かった・・・と心底思えた。宮本浩次の歌うおんな唄を、女性として遠慮なく享受しよう・・・そう思えた。

 そして、早々に「The Covers」で披露されたカバー曲を聴くことが出来た。なかでも、「ロマンス」と「化粧」の歌唱は衝撃的だった。
ロックの姿を見せた「ロマンス」。それは、宮本浩次の絶対的主観が、曲の中に潜んでいた情熱を掴み取ったかのようだった。主観は嘘をつけない。何故なら、自身の美醜、真偽などの価値観が全てとなるからで、また、それが明確であればあるほどに自分の中に感じ入るものは、とても純粋なものになるのだろう。ただ、ヒット曲として世間に周知され、聞き慣れているこの曲に対して先入観無しに向き合うのは難しい。また、主観といいつつ、自分でも気づかぬうちにまとわりついている色や空気感もあるはずだ。そういったものを一切排除して、自分の感覚だけを頼りに見極め、発露する。この絶対的主観が宮本浩次の凄さだと思う。また、そういったものだけが人の心を動かすのだろう。その人の、そこにしか存在しないものに触れたい。そして、それを見事にやってのける宮本浩次は本当の意味での表現者だと思う。

 また、私が感じる男性が女性のカバー曲を歌う魅力は、沁み込むようなハイトーンボイスと、曲に寄り添うような丁寧な歌声に、男性の持つ包容力を感じるところにある。しかし、宮本浩次の歌うカバー曲では逆に彼自身が歌の主人公となり、女性の持つ情熱や真摯さに改めて気付かせてもらうことになる。不思議なことに女性を感じるのだ。そして、そこに驚きをもって共鳴していくように自分の気持ちも溢れてくる。そんなスケール感ある聴き応えに魅了されてしまう。更に、この没入感という点においては化粧の没入感は半端ない。正直、この主人公の情動は私の理解を越えている。しかし、宮本浩次の歌声からは、ハッキリと私の目の前に主人公の姿が見えるくらいに伝わるのだ。理解出来ないものが伝わる不可思議さ。「この歌の主人公が好き。号泣した。」と熱く語る彼だからこそ、これだけの熱量をもって人に伝えられるのだろう。圧倒的没入感。化粧には、それを感じた。

 本来、リサーチを目的とする以外に個人が歌と向き合った時、客観的などありえない。歌と向き合うことはとても個人的なことだ。この自分自身で感じ切る。自分自身の感覚で掴み取る。このような姿をみていると、アカデミー賞授賞式でのマーティン・ スコセッシの言葉を引用した、ポン・ジュノ監督のスピーチが思い出される。「最も個人的なことが最もクリエイティブなこと」という言葉のように、私には歌を感じ切る、という個人的な行為が、クリエイティブな表現となっていく凄さを体現したアルバムになっているように思えてならない。

 また、カバー曲の時代背景を見た時、昭和歌謡の全盛期、日本の社会も隆盛を誇っていた。皆、更なる豊かな高みを目指して、意地を張り、見栄を張り、男も女も背伸びをしていたように見える。等身大という言葉など似合わない。そんな熱を帯びた時代だった。そして、平成、令和となって一見して最適化された社会となり、人々も落ち着き払いスマートに見えるが、今はキレイに品よく纏まっていたものに綻びが見えるような時代となってきた。皆が「本当のところどうなのよ?」と問いたくなっているような・・・。そして、その本当のところを惜しげもなく見せてくれるのが、宮本浩次という表現者なのかもしれない。また、筒美京平さんの訃報が流れ、歌謡曲に改めて光が差したのと同時期に、このアルバム『ROMANCE』が発売される偶然も必然に思えてくる。継承を任された者といっても過言ではないだろう。伝えていく人は伝えられる人でなくてはならない。そして、継承していく為に進化さえさせていく。それが出来るのが宮本浩次なのではないだろうか。歌謡曲が身体に染み込んでいる私達世代は勿論、歌謡曲に触れることなく育った今の世代にも確実に伝わる何かがある。圧倒的な歌唱力と伝播力を持って、今では小さな灯となっているかのような歌謡曲に改めて息を吹きかけ、大きく燃え上がらせる。そんな役目もこのアルバムにはあるのかもしれない。
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