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銀杏BOYZ「ねえみんな大好きだよ」に寄せて。

あなただけ追いかけて、あなたまで傷つけて。

「街歩いてるとね、いろんな奴に言われるんですよ。あんたより俺の方が銀杏BOYZだ。俺こそが銀杏BOYZだってね。」

2020年10月24日放送 TBSラジオ「空気階段の踊り場」にゲスト出演した銀杏BOYZ・峯田和伸はなんとなくそんなことを語った。
スタジオはその話に笑いが起きていた。何が面白いのか、客観的に理解することはできた。
でも、峯田くんと街で会ったら、あたしはきっと近いことを言ってしまうだろう。
というか、銀杏BOYZと人生を共にしてきた自覚のある人間なら全員言ってしまうのではないだろうか。

つーかさ、峯田くん、あんたに人生滅茶苦茶にされたんだからそれくらい言わせてよね。

耳がちぎれるような歪んだギター。
背後で割れるようにうねる低音を鳴らすリズム隊。
人間の心の奥底をすべてぶちまけるように、時にかすれながら叫び、微笑むように囁きかけてくる唄。
初めて再生ボタンを押した瞬間、鼓膜へ飛び込んでくるその音は、まだ感じたことのなかった大切な人の手の温もりように儚くて尊かった。

信じられないくらいひとりぼっちだった、自らですら肯定できなかったどうしようもない気持ちを唯一肯定してくれるのは、いつだって銀杏BOYZだった。
言ってしまえば、他人に見せられないことに自分ですら気づいている、人間として最も醜い部分。峯田くんはいつもいつも、そんな人間の羞恥と呼ばれる部分をさらけ出し続けることで、誰かのそれをずっと肯定し続けてくれた。

そんな銀杏BOYZの音楽に、抱きしめられ赦されてきた人間は心のどこかが確実に壊れている。

当たり前の話であるが、峯田くんが歌う銀杏BOYZの世界はイコール峯田和伸の現実世界すべてではない。

峯田くんが楽曲の中で表現する人間模様は、あまりにリアリティに溢れ過ぎているため、それは聴く人間の頭の中で峯田和伸その人の人生として広がっていく。
そして銀杏BOYZにのめり込むばのめり込むほどに、ひとりひとりの心の中で勝手に出来上がった銀杏BOYZ=峯田和伸は、元気に成長していってしまった。

"DON'T TRUST OVER THIRTY"

峯田くんはこのパンチラインをきっと本気で歌っていたはずだ。GOING STEADY時代、透んだ眼に映るものすべてを睨み、愛し、叫ぶその世界は、きっと若かりし日の峯田和伸の世界そのものだった。そんな峯田和伸もいずれその他大勢の群衆と同じく"OVER THIRTY"になるのにも関わらず、前のめりにそう叫ぶ無鉄砲な峯田くんのパワーこそが、GOING STEADYの魅力のすべてだろう。

しかし当の峯田和伸という男は30歳をゆうに超え、今日も生きている。
当たり前のように人は毎日を生きる中で変わっていく。それは峯田くんも例外になるわけがない。

「あんたが一番なりたくなかった嫌な大人になったよな。峯田。」
峯田くんが自らPVのメガホンを撮った"東京終曲"がYouTubeにアップされた日、そんなコメントを見つけたことを鮮明に覚えている。

あたしは東京終曲に対して、そんな風には全く思わなかったが、おそらくそのコメントをした人間が、峯田くんに街で「俺の方が銀杏BOYZだ。」と声をかけた人や、あたしのような心の中に身勝手な銀杏BOYZを飼っている人間であることは容易に想像がついた。
実際にあたしはエンジェルベイビーがリリースされた時、あの曲のわかりやすさに共感して銀杏銀杏と騒いでいた馬鹿共に心底嫌気がさしたし、そんな銀杏BOYZの上澄みをすくってわかったような軽口を叩く人間たちを無限に作りだしたあの曲を心から恨んでいた。
銀杏BOYZに出会い、銀杏BOYZを愛したが故に離れられなくなり、受け入れられない銀杏BOYZと対峙しなければいけなくなった人間たち。

あたしも前述した彼らも永遠に自分の中で作り出した峯田和伸に歪んだ想いを馳せ続けながら、ずっと銀杏BOYZをストーキングし続けているのだ。

その歪んだ愛が、銀杏BOYZのキャリアにおける峯田くんを大いに苦しめてしまっていたのは事実だろう。
新曲のリリースペースはどんどんと遅くなり、峯田くんはツアーを重ねる度に声が出なくなっていった。
そして"光のなかに立っていてね"がリリースされた時、ついに峯田くん以外のメンバー3人は銀杏BOYZを去ってしまった。

銀杏BOYZは過去の輝きであり、終わってしまったバンド。バンドの歴史に幕引きできなかった峯田くんは往生際の悪いダサいヤツ。
この当時のSNSはそんな冷ややかなロックファンの雑言がそこらじゅうに溢れていた。

そしてサポートメンバーを迎え、第2章と言われる活動を歩み始めた頃、峯田くんはライブの度に
「ここにいるすべての人間を肯定します。」
と言うようになった。
それは大いなる開き直りであり、峯田くんが自分自身の人生を勝手に生きることで、峯田和伸を求めるすべての人間の想いもすべて背負っていくという重い覚悟に聞こえた。

より深く潜ったところで、人間の業を唄い上げ、より高く羽ばたいた場所で、かけがえのない美しいものを賛美するようになった銀杏BOYZ。
そこにいた峯田くんはきっと誰の心の中の峯田くんにも当てはまらなかったはずだ。

そして先月発売された銀杏BOYZ最新作、"ねえみんな大好きだよ"の3曲目に"大人全滅"という曲が収録されている。
これは紛れもなくGOING STEADY時代の楽曲である"DON'T TRUST OVER THIRTY"のセルフカバー曲である。
"ドント・トラスト・オーバー・サーティーと高らかにタイトルを叫び幕を閉じるラストを、峯田くんは、
"You Have Your Punk, I Have Mine"
と歌い変えた。

かつて青春時代の全てを銀杏BOYZに捧げた男、空気階段・鈴木もぐらは、
(詳しいエピソードはTBSラジオ「空気階段の踊り場」103回を参照してください。)

「これがOVER THIRTYになった峯田さんの答えだと思います。」
と2020年10月24日放送 TBSラジオ「空気階段の踊り場」にて語った。

峯田和伸というひとりの男の道程と、銀杏BOYZを愛するそれぞれの心の中で勝手に育って行った銀杏BOYZを求めるストーカー達の狭間に立ち、死ぬほど頭を抱え踠き生きてきた銀杏BOYZの峯田くんの闘争の時間。

それこそが銀杏BOYZの歴史である。

そして、この時間に峯田和伸が答えを出した作品。
それが最新作"ねえみんな大好きだよ"だと思う。

誰がなんと言おうと、正真正銘の銀杏BOYZ最高傑作である。
誰かの心の中にいる峯田くんよりも、俺が銀杏BOYZだと強く叫ぶ峯田和伸がそこにいた。

途方もなく残酷で、笑っちゃうほど慈悲深い。
恐ろしいほど執念深く渦の中にいるはずが、気がつくと多幸感に包まれながら達観している。
そんな強烈な真反対の生命。それこそが峯田和伸のその人なのだろう。

出会わなければよかったと何度も思ったけど、今生きててこの作品を聴けて心からよかったよ。

あなたが肯定してくれた分だけ、あたしは峯田和伸の銀杏BOYZを肯定しようと思います。
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