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ピアノが聞こえてきたら

マイケル・ダボの1970年代のアルバム

1960年代の英国のロックバンド、マンフレッド・マンのグループにいたMICHAEL D'ABO(マイケル・ダボ)という人がいる。彼がそこから離れてソロとして活動を始めた1970年代、アメリカのレコードレーベルA&Mから発表した2作品のアルバムは、今でもシンガーソングライター関係の音楽を求める人にとって、特別なものだと思う。
僕がこれらのアルバムの存在を知ったのは、2000年代始め頃CDとして発売されたからだった。最初に聴いた1974年のアルバム「BROKEN RAINBOWS」は記憶に残る鮮やかさだった。聴き始めから哀愁の歌声と半面の軽やかさをもって、熱気を込めたフォークロックが聞こえてきた。耳に残るハーモニカの音、参加者を見てみるとこれを吹き鳴らしているのは、GRAHAM NASHだと分かった。ちょうど同じ時期に僕はGRAHAM NASHの素晴らしいフォークロック曲"Southbound Train"を聴いていた。この曲でも哀愁のハーモニカの音は第一の響きとして力強い。グラハム・ナッシュ(グレアム・ナッシュともいうのか)、この人は1960年代後期から70年代にかけてアメリカで活動しているが、もとはイギリスのポップグループ、ホリーズの出身だ。グラハム・ナッシュの音楽は聴いてみてもアメリカの音楽とはすこし趣きが違うように思える。例えばそれがボブ・ディラン調のフォークロック、あるいはニール・ヤングふうのフォークロックに聞こえたとしても、グラハム・ナッシュのセンスには、どこかでイギリスのポップの感性が感じられる。その話はすこしも関係がないけれど、彼が参加したマイケル・ダボの「BROKEN RAINBOWS」の始まりからの響きは明らかに、グラハム・ナッシュ仕様のごとくポップでありながら歯切れのよいクロスビー、スティルス&ナッシュふうの新鮮なフォークロックサウンドでスタートする。その曲"Fuel To Burn"は何度聴いても暖かい。その風を切る勢いも、まわりのものを無残に吹き飛ばすような容赦ない風ではけっしてない。いつでも音楽の風を吹かせてくれるこの曲が好きだった。
カントリー風味、フォーク調のロックバラード風味、ソウルとルーツロック風味、オールドタイムでノスタルジックなミュージックホール風味、スタイルは色々あれど、アルバム全体で印象付けられるのはマイケル・ダボのもの悲しい声のトーンだ。ピアノを静かに弾き語る歌と、半面の力強いバンドサウンド、ポップにさえ弾ける音の鳴り方を聴いていれば、当時の音楽的な影響力が何処から来ているのかを想うことになる。僕はこれを初めCDで聴いていたが、それもいつの間に手放してしまったのか、家のどこにも見当たらず、記憶も薄いが、今はレコードで聴いている。レコードはアメリカ盤のプロモーション盤だ。たしか店で探しているところでCDを買うくらいの値段で見つけた気がする。今やこのアルバムをCDで探しても中古で高値になっているか手に入りにくいのかもしれない。レコードで探せば時々見かけるが、あまり高値はついていないと思う。それも今だけかもしれないが、とにかくレコードは年々に高騰していくものだから、忘れられた音楽は今のうちに探しておくのがいい。

そうしていま、レコードで聴いてみて気づいた。「BROKEN RAINBOWS」のサウンド、バンドのリズム感は、アメリカのロックバンド、ザ・バンドのぶっといグルーヴ感のその間と間の取り方が通じているんじゃないかという発見。レコードで聴けばこそ、このグルーヴは強く響いてくるのかもしれない。ベースを弾いているGary Taylorという人を調べてみてもあまり情報が出てこないが、1960年代のイギリスで、ピーター・フランプトンのいたバンド、The Herdに参加していたGary Taylorと同じ人なのか、それはよくわからないがそうかもしれない。そして「BROKEN RAINBOWS」のバンドサウンドを印象付けるドラム奏者Denny Seiwellは、ポール・マッカートニーのウイングスの初期に参加していたメンバーだ。しかしたとえ曲がバンドサウンドでなくとも、マイケル・ダボが打つピアノは、そのサウンドに匹敵するくらい心を鳴らす響きだ。それは音の強弱ではない。バンドスタイルならばピアノにとどまらず、エレクトリックピアノにクラヴィネットも使いながら、ザ・バンドにさえ通じるようなグルーヴをはっきりと打ちだしているのが印象的だ。

このアルバムに参加している関係者は何かと名だたるメンバーだったりする。バックヴォーカルにはゴスペルコーラスのグループ、ザ・ジョーダネアーズ(The Jordanaires)が数曲に、ブラスサウンドが導入されているところにはサンフランシスコのファンキーなロックバンド、サンズ・オブ・チャンプリン(Sons of Champlin)がいる。プロデュースはElliot Mazer(エリオット・メイザー)という人。ニール・ヤングの1970年代からのアルバムのいくつかは彼によるプロデュースだ。その関係なのかエリオット・メイザーがプロデュースで関わってきたミュージシャンの、たとえばRab Noakes(ラブ・ノークス)という人がリズムギターで何曲も参加している。1曲ではマイク・ブルームフィールドがエレクトリックギターを弾いていたりする。ブルームフィールドの鳴らす音は、けっして弾きすぎなくとも、繊細さを見失わず、ほとばしる熱い演奏だ("Broken Rainbows")。この曲でのなめらかなオルガンはブルームフィールド関係からマーク・ナフタリンが参加して弾いている。一番ロック風で、もしかしたらウイングスみたいなポール・マッカートニー風情の熱情ロックバラードを感じさせるのはこの曲かもしれない。全体的に明らかにイギリスのロックと思える音で、曲の展開もブリティッシュだ。他にたとえばカントリー風味に聞こえる曲があるとすれば、ペダルスティールを弾いているBen Keithの演奏によるところか。この人はたぶん同じ時期のニール・ヤング人脈からの参加なのかもしれない。全体で多くエレクトリックギターを弾いているのは、Teddy Irwinという人で、ラブ・ノークスのアルバムに参加していた人らしい。調べてみて気になったのは、ジョン・レノンのアルバム「イマジン」にTeddy Irwinが参加しているらしいこと。それはまた今度確かめてみよう。何気に個性派ミュージシャンが参加しているマイケル・ダボの「BROKEN RAINBOWS」だけれど、成功はしなかったのか、彼の残したソロアルバムはあまりに少ない。この後、1976年に「Smith & d'Abo」という共作アルバムが出ている以外に活動はなくなっていくようだ。

そういえば、「BROKEN RAINBOWS」を紹介するときに一番に言われていることは、ロッド・スチュワートがソロアルバム1作目で唄った名曲"Handbags and Gladrags"の作者が、マイケル・ダボだったという話だ。「BROKEN RAINBOWS」にはその作者自身の歌唱でこれが収められている。マイケル・ダボのしなやかなピアノと共にグラハム・ナッシュのハーモニカが切なくひびく。こういう泣きのソウルバラードはイギリスならではの感触かもしれない。この曲の初期バージョンを探して聴いてみると、ザ・バンドの影響を感じられるような気がしてくる。しかしそもそもこの曲の最初はアメリカからザ・バンドが登場するよりも1年前、1967年にイギリスのクリス・ファーロウがシングルとして発表しているのだった。英国仕様の哀愁とクラシカルな雰囲気のサウンドのなかで堂々たるソウルを響かせるこのクリス・ファーロウの"Handbags and Gladrags"を聞けば、もともとはモッズの名曲であったのかもしれないと思えてくる。これをたとえばミック・ジャガーが唄ってもスティーヴ・マリオットが唄ってもスティーヴ・ウィンウッドが唄っても別に違和感はないような気がする。2000年代にはウェールズ出身でイギリスで活動するバンド、ステレオフォニックスがこの曲をカバーしている。"Handbags and Gladrags"がモッズアンセムになりうる曲だとするなら当然ポール・ウェラーが唄ってもさまになるにちがいないと思う。この話は余談。"Handbags and Gladrags"を有名にしたのはロッド・スチュワートだろう。このロッドバージョンでピアノを弾いているのが作者のマイケル・ダボだったというのを今さらになって発見していろんなことが巡っていく。

しかしマイケル・ダボの「BROKEN RAINBOWS」はこの曲をメインにしているようにはけっして思えない。アルバム全体を聴けばあっという間に終わる作品であり、何度も何度も聴いて耳に残る響きは、マイケル・ダボのピアノの弾き語りだ。たとえば"This is me"たとえば"Papa didn't tell me"を聴いていて思い浮かべるのはハリー・ニルソンかもしれない。そしてノスタルジックでオールドスタイルなラグタイム風のポップソング"My Lord"を聴くにつけ、ハリー・ニルソンの1960年代の作風を想い起こしてしまう。アルバム最後にもやはりニルソンやランディ・ニューマンを想わせる"Hold on sweet darling"があって、それこそとっても良い曲だ。この余韻は大切にしたい。何度聴いても良い。

この時代にイギリス関係やイギリス風情のシンガーソングライターのアルバムを探っていけば、ハリー・ニルソンの影響力は見逃せなくなってくるといつも思っている。たとえば僕は、いつかレコード屋で偶然に発見したALLAN CLARKE(アラン・クラーク)のアルバム「Allan Clarke」をこの人が誰なのかよく分からずに買ったのだけれど、この人はグラハム・ナッシュと同じく1960年代のホリーズのメンバーだった。そうしてグラハム・ナッシュが抜けたその後のホリーズが70年代まで続いた時、アラン・クラークがメインのメンバーだったらしい。それはよく知らないのだけれど、1974年作品「Allan Clarke」のレコードを内容も知らずに買った理由というのは、このアルバムで演奏した参加メンバーに違いなかった。まず目についたのがベースのハービー・フラワーズ、ドラムのトニー・ニューマン、エレクトリックピアノのピーター・ロビンソン、ブリティッシュロックファンなら気になる名前、ジョン・グスタフソン、アン・オデル、トニー・ハイマス、録音エンジニアの一人のなかには、ビートルズで有名なジェフ・エメリックがいるじゃないか。凄いと思って手にした。実際に聴いてみるとブリティッシュロックというよりはイギリスの1970年代のポップアルバムだと思う。ハービー・フラワーズとトニー・ニューマン組によるグルーヴが効いたファンキーな曲もある。プロデュースはロジャー・クックという。イギリスのポップグループというのかロジャー・クックの居たブルー・ミンクの関係が強いアルバムだ。ハービー・フラワーズといえば、ルー・リードやデヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョンのアルバムにも参加した名ベースプレイヤーだが、並行して在籍するグループとして活動していたのはブルー・ミンクだったのだ。ホリーズのメンバー、アラン・クラークのアルバムにこのブルー・ミンク人脈が参加したのは、ロジャー・クックがホリーズに曲提供していた関係なのだろう。この話は脱線かもしれない。いや、そういえばハリー・ニルソンの1970年代のアルバム「Nilsson Schmilsson」のベースプレイヤーはハービー・フラワーズだったのだ。そして「Allan Clarke」のジャケット裏側にはこう記されている。inspiration from Harry Nilsson Randy Newman Little Richard Bruce Springsteen Buckingham Nicks Roger Cook 実際にここに書かれているリンジー・バッキンガムやブルース・スプリングスティーン、ランディ・ニューマンの曲をアルバムで唄ってもいるのだった。そこで思い出すことがある。1975年に発表されているハービー・フラワーズのソロアルバム「Plant Life」というのがある。ここで期待するのは彼のベースプレイであるのはしようがない、が、みえてくるのはトータルの音楽性を追求する一人の音楽家としてのハービー・フラワーズの世界だ。それもハリー・ニルソンが1960年代にやったような物語のある作風だった。ここにもニルソンがいた。

話はまた変わる。最近、1960年代のロックバンド、アニマルズのオルガン奏者だったアラン・プライスの1974年のソロアルバム「Between Today and Yesterday」を聴いてみたら、ここでも展開されていたのはハリー・ニルソン的なノスタルジックなポップだった。そもそもアニマルズを脱退して以降のアラン・プライスはランディ・ニューマンの系統で、イギリスのミュージックホール風の音楽をやってきたと言えるのかもしれない。ランディ・ニューマン作曲の"サイモン・スミスと踊る熊(Simon Smith and The Amazing Dancing Bear")という歌がある。それはハリー・ニルソンが1969年のアルバム「ハリー・ニルソンの肖像」で唄っているのだけれど、探してみればランディ・ニューマンの自演バージョンや、1960年代のバーバンクサウンドを代表するハーパース・ビザールのバージョンがあるところに、アラン・プライスのバージョンだってあるのだ。僕はどれも大好きだった。"サイモン・スミスと踊る熊"が流れてきたらそれこそすぐに首を左右に振ってはなうたでも唄ってしまうだろう。音楽は希望であってほしい。笑みがこぼれる音楽。そういうのが1曲でも人生にあればいい。

僕は今まで、マイケル・ダボ(Michael d'Abo)の1974年作品「BROKEN RAINBOWS」を聴いてきたのだけれど、つい最近、それの前作にあたる72年の「DOWN AT RACHEL'S PLACE」を聴くことが出来た。ずっと聴きたかったのに聴いていなかった。これも今はレコードで持っている。しかもまたもアメリカ盤のプロモーション盤なのだった。イギリス盤はあまり見かけないがアメリカ盤は時々ある。たぶん買ったときは割に安いほうだった気がする。マイケル・ダボのレコードはあまり知られていないのかもしれないと思う。本当は「DOWN AT RACHEL'S PLACE」の方がシンガーソングライター作品としては耳触り良い感じかもしれない。
マイケル・ダボのアルバムがCDで発売された今から約20年くらい前、その時も「DOWN AT RACHEL'S PLACE」を手にしなかった。手にしなかったというのは正しくない。その当時よくタワーレコードに通っていた。店にある試聴機で聴いてみるのが好きだった。このアルバムが試聴で入っていたのを聴いた覚えがある。もちろん素晴らしい感触だとすぐに判った。その時に実はそのCDを買ったのだった。でもそれは人にあげたのだ。働き始めた最初の時期だった。初めての職場で、なんにも分からない自分には頼れる人もいなかった、が、ただひとりこの人に憧れるという慕う先輩がいた。仕事がだんだんたのしくなって、という一年後、たった一年でお別れの時がきた。会社というのはこんなにすぐに異動があるものなのか。その先輩に学んだのは仕事の基礎だ。仕事に向ける強さと優しさかもしれない。それは今も活きていると自分では思っている。僕はなぜか、そのときその人に、自分がちゃんと聴いてもいないマイケル・ダボのアルバム「DOWN AT RACHEL'S PLACE」を餞別にしたのだった。彼が音楽を好きでもないと知りながら。自分が心を込めて贈れるものは音楽しかない。けれど、先輩はこころよくそれを受け取ってくれたのだった。聴いたか聴いていないかはともかく、どこかで覚えていてほしいと思う。これは今さらながら良いアルバムだ。ここで聞こえてくるマイケル・ダボの歌声は、次作「BROKEN RAINBOWS」よりも繊細に伸びやかだ。感じるのはポール・マッカートニーのポップさ、あるいはポール・マッカートニーを完全に標榜した1970年代のエミット・ローズの感触、そしてハリー・ニルソンによるビートルズサウンドへの憧憬を想わせもする。アルバムの音響と録音が良いように感じられるのは、エンジニアがケン・スコットだからかもしれないと思う。Ken Scottはビートルズのエンジニアからデヴィッド・ボウイのエンジニアとしても知られている。気になるバンドメンバーはベース奏者にMo Foster、ドラムにGrant Serpell、この二人はイギリスのロックバンド、アフィニティのメンバーだった。AFFINITYのロックはジャズロックとたとえられていることもあるが、マイケル・ダボのここでの音楽がすこしばかりジャズ風に展開されていくのはそういうところからかもしれない。そしてジャズのサックスプレイヤーでLyn Dobsonという人が参加している。リン・ドブソンといえばイギリスのジャズロックグループ、ソフト・マシーンを思い出すけれど、よく見ていくと、かつての1960年代にマイケル・ダボがいたグループ、マンフレッド・マンに参加していた管楽奏者がこの人だったのだ。その関係での参加なんだろう。それが何?と言われたらなんでもないと答えるしかない。より英国的なサウンドや、英国ポップを感じさせるのは「DOWN AT RACHEL'S PLACE」だと思う。

ポール・マッカートニー風の音楽といえば、いつもエミット・ローズを思い浮かべていたけれど、実はエミット・ローズに通じるマイケル・ダボは発見だった。そして最近、気になった音楽は、アメリカ生まれのアメリカらしくないイギリス風情のアルバム1973年のチャンキー・ノヴィ&アーニー「CHUNKY NOVI & ERNIE」だ。これもエミット・ローズから通じるビートルズを感じさせる音楽かもしれないと思った。ここで一番気になるのは、元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの重心、ジョン・ケイルの共同プロデュースという事実だ。ジョン・ケイルの同年1973年のアルバム「Paris 1919」がアメリカのロックバンド、リトル・フィートのメンバーの協力によって作られているところからの流れなのか、「CHUNKY NOVI & EARNIE」にはリトル・フィートのリッチー・ヘイワードがドラムで参加しているのかもしれない。ジョン・ケイルと共にプロデュースにあたっているテッド・テンプルマンが元ハーパース・ビザールのメンバーだったこと、そしてヴァン・ダイク・パークスの名作に関わっているカービー・ジョンソンが編曲しているところ、このアルバムの音楽にアメリカのバーバンクサウンドの系譜を思ってしまうが、どうだろう。

まだまだ分からない事が多すぎる。
情報がどこにもないのが困る。
自分が分かるのは良い音楽どうかだけだ。それもよく考えればあやしいのだけれど。
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