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繫がる同じ空の下で

米津玄師カナリヤMV公開に思う事

米津玄師のアルバム『STRAY SHEEP』のラストを飾る曲、『カナリヤ』のMVが発表から3か月後の11月に公開された。
楽曲の発表から時間が経てば、聞き手側にも、それなりに曲に対するイメージが生まれる。だが、MVの監督、是枝裕和氏は、その聞き手のイメージを覆すばかりでなく、今のやるせないコロナ禍の世界とそこから広がる美しい世界を見事に繋ぎ、このMVをかつてない程の切ないヒューマンドラマに仕立て上げている。そこには過去の米津MV作品には見られなかった、今の時勢と空気を生々しく映した、映像の世界があった。
そして参加している俳優陣から少し距離を置いて、米津玄師が物語の語り手として登場しているかのような演出。例えるなら黒い服の彼が死(闇)、白い服の彼が生(光)の二役を演じ、登場人物達の視線の先には命の象徴である、カナリヤの気配を感じ取る事が出来る。

《ありふれた毎日が 懐かしくなるほど くすぶり沈む夜に揺れる 花を見つめていた》
暗い誰もいない一室で、歌い始める黒服の米津玄師。歌い出しの《ありふれた毎日》とは、ここではコロナ禍以前を指す。MVには年齢のバラバラな3組の男女が登場するが、コロナの影響下で、いずれも幸せな時間を奪われてしまう。
《カナリヤが鳴きだす四月の末の 誰もが忘れていく白いプロムナード》
誰もが(コロナで)忘れていく光に溢れる白い道=人生。MVは歌う米津さんの映像を交えながら、それぞれの男女のふれあいと別離を描き、その3つのストーリーが絡み合って行く様は、まるで短編映画のようだ。

変化する事を肯定しようとする楽曲『カナリヤ』。
米津さんは是枝監督が手掛けた映画『誰も知らない』を繰り返し見て、同曲と共通する部分を感じたと言う。MVについてのインタビューで彼はこう語る。
「映画は些細な日常を、些細なまま切り取っていく」(2020.11.26 読売新聞朝刊記事より)
家庭の機能不全がありながら、当たり前に生きている人々を描いた『誰も知らない』という作品に米津さんが感じた映画観。このMVにも、人々のひたむきな日常が時間の経過と共に変化して行く様子が飾る事なく切り取られている。
そして
「この時代に人は人と否応なく隔てられるけれど、空は繫がっている」(同記事より)
『カナリヤ』とその作り手の話を聞いた是枝監督は、その感じたイメージのままに『カナリヤ』を映像化したという。
そのイメージとは「希望」だ。

MVの中では、米津さんが限りない受容を歌い続ける。先の見えない今、漠然と「希望」と言われてもはっきりしないかもしれない。だが仮に今、希望を持たずに生きて行く事が出来たとしても、果たして本当の意味でそれは生きていると言えるのだろうか。
《いいよ あなたとなら いいよ 二度とこの場所には帰れないとしても》
例え、コロナ以前の世界にすぐには帰れないとしても、私たちは生きる為に新たな希望を見つけるし、探そうとするだろう。
《あなたとなら いいよ 歩いていこう 最後まで》
最後まで命を全うする事。人間の最終的な目標は多分そこにあるのではないだろうか。
MVは皆が空を見上げるシーンで終わっている。是枝監督はやるせない思いの先に希望と命の象徴であるカナリヤの存在を示した。カナリヤの飛翔ではなく、気配だけを感じるラストシーンは、登場人物が見上げた空の下に、それぞれの人生が続いて行く事を暗示している。視聴者が希望を持てるような終わり方が、是枝さんが『カナリヤ』に希望を感じた事に繫がっているようで、心が救われた。
MVの人々が、ラストで追ったカナリヤの行方。その先のストーリーは視聴者それぞれが作って行くしかないのだと思う。

5:55の短い時間の中に凝縮された人生の甘味と苦味。
米津玄師を主ではなく登場人物の一人として映像化した事が、その存在を際立たせ、曲の世界感をさらに広げたのだと思う。6分弱の制限の中で幾つもの人生を描いたのは、この『カナリヤ』MVが今を生きる全ての人のものであって欲しいという願いがあってではないだろうか。米津さんが曲の制作中に偶然見ていた映画に共通性を見い出し、監督にならMVを託せると感じた事が全てなのだと思う。かつて彼が『灰色と青(+菅田将暉)』というコラボ曲を一緒にやるのは菅田将暉氏しかいないと決めたように、このMVの方向性も、おそらく彼の中ではもう決まっていたのだろう。奇跡のコラボを視聴出来た事を幸運に思う。

人生は続いて行く、思うようにも思わないようにも。会いたい人と繫がっている、この大空の下で混沌とした時代を一緒に生きようと。
米津さんと是枝監督からの切実なメッセージを、命を繋ぐ黄色の鳥が伝えてくれたので、これは、その返事だ。
常に変動している世界に生きている私たち。
コロナ禍で変わってしまった日常は受け入れなければならないが、会いたい人に会える明日を信じて生きる。
この生々しさと、そこから繫がる希望を描き切った、勇気ある作品に精一杯の敬意と感謝の念を込めて。
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