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「ノン・フィクション」の音楽が放つメッセージ

渋谷すばる2ndアルバム”NEED”について

フェスのステージで堂々とパフォーマンスする、ソロアーティスト渋谷すばる。そんな未来を2018年の関ジャニ∞脱退発表時にはっきりと想像できた人は決して多くなかったと思う。だが、今年9月に氣志團万博(オンライン)、10月にOSAKA GENKi PARKに出演、年末にはCOUNTDOWN JAPANとFM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZYへの出演が決定しており、渋谷は順調にアーティストとしての活動の幅を広げている。
これはあくまで私の予想だが、最近の活動ぶりは、ひょっとしたら渋谷自身ですら想像できていなかった未来かもしれない。

そんな渋谷すばるは11月11日、ソロアーティストとしての2枚目のアルバム”NEED”を発売した。昨年の”二歳”から約1年ぶりのアルバムとなる今作について渋谷は《色々と環境や状況は変わっていく中で、今の自分の日常から生まれた楽曲を集めた》と語っている。全体を通して聴いてみると、その言葉の通り、この状況だからこそ普段考えないようなことを考えたり、逆にこの状況でもいつもと変わらないこともあったり…一人の人間のリアルが詰まっている一枚だと感じた。

一つひとつの曲について事細かに語りたい気持ちは山々なのだが、あまりにも長くなりそうなので、ここでは特に印象深かった数曲のみ取り上げることとする。

今作の魅力のひとつに、曲調の振り幅の広さがあると思う。3曲目から5曲目、『BUTT』『Noise』『水』の3曲にそれがよく表れており、印象的である。
サポートバンドは前作のレコーディングやツアーと同じメンバーで編成されていて、『BUTT』からはそのバンドの一体感がストレートに伝わってくる。冒頭の軽快なギターソロ、それにピアノが重なり勢いのあるクラスター奏法をかましたところで、わずかなブレイクの後に堂々と入るブルースハープ。ここで一気に掴まれ、曲の世界観に引き込まれる。濃厚な男らしさを感じるビブラートの効いた太い声のボーカルといい、エロティックで独特な言葉選びの歌詞といい、まさに「渋谷すばるらしさ」にあふれたロックな1曲である。

それに対し、『Noise』『水』の歌声は優しく語りかけ、静かに寄り添っているような、自然の音に近い癒し系サウンドである。この2曲で歌い手としても作り手としても渋谷が多彩な色を持つアーティストであると気づかされた。今回は《日常から生まれた楽曲》ということもあって、特にナチュラルな響きを選んだのかもしれないが、こういった引き出しを持っていることで今後生み出される楽曲もどんどん多彩になっていくのでは、と期待が高まった。

そして、私の心に強く刺さったのは最後の2曲『素晴らしい世界に』と『Sing』である。

『素晴らしい世界に』は始めのフレーズから今の情勢を受けてのものだと誰でも想像がつくだろう。だが、それでも「世界は素晴らしい」と渋谷は歌う。それは単に聴く人を元気にするための上辺だけのものではなく、この情勢の「意味」をきっと何度も深く考えて導き出した答えなのだと思う。この歌からはそれがひしひしと伝わってきて、渋谷の思いの強さと大きな説得力みたいなものに心を掴まれるのである。
1番2番にそれぞれAメロBメロサビがあり、そして大サビというような構成であるが、一度として同じメロディが登場しないことは、邦楽としては珍しい曲作りである。普通は不自然に感じてしまいそうな作りなのだが、歌声が表情豊かで聴いていて飽きないからなのか、バンドメンバーの演奏の絶妙なセンスからなのか…すごく自然に入ってくるし、むしろどのメロディも印象的なのが凄い。

最後の曲は『Sing』。アルバム1曲目はこの曲のサビをアカペラで歌っていて、《歌が必要だ》と何度も繰り返されるフレーズには、エコーが僅かしかかかっておらず、空虚な乾いた響きは現代の絶望感の中の足掻きのようだった。しかし、最後のトラックでは溢れんばかりの希望に満ちた音楽に大きく様変わりしている。
ライブが次々と中止に追い込まれ、音楽が、歌が「不要不急」のもののように言われ続けたことに対して訴えかけているような「必要だ」という言葉。渋谷の音楽への限りない愛情が詰まった一曲だと思う。曲の最後、何度も何度も繰り返されるコーラスをバックに歌うように叫ぶ渋谷の声が、曲がフェードアウトした後もずっと心地よい余韻となって胸に残る。

前作はソロとしての自分の意思表示的なものであったが、今作はそこから一歩踏み出して、より音楽の裾野を広げている感じを受けた。
今作でさらなる進化を見せた渋谷だが、彼の表現の根幹には何一つブレがない。それは、どこまでも真っ直ぐに飾らない表現。渋谷の音楽にはいつも嘘偽りない自身の思いが詰まっている。渋谷すばるという一人の人間のひととなりが音楽を通して見えてくるように感じられ、まるで一つのノンフィクション作品のようである。作られた物語ではないからこそ、聴く人の心に強く響くのだ。
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