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(on the)SEATが見せた景色

UNISON SQUARE GARDENがいるから僕の地球はまわる

2020年は未曾有の年となった。

僕らの日常はそれまでと大きく変わり、当たり前のことが当たり前ではなくなった。

それは音楽業界も同様で、ロックバンドが街にやって来る…そんな当然の事象さえ実現困難な出来事になった。

鳴り止まない歓声も、幸せそうな表情も、ちぎれるぐらいに降った腕も、遠い過去の思い出なんじゃないか?

そんな錯覚に見舞われてしまう程、この世界にとって現実味のない話となってしまった。

でも、世界は生きてる。今日も生き続けている。

世の中の事象なんて関係なしに、生きた僕らは好きなものを果てしなく求めてしまう。

そうしないと心が死んでしまうから。

新しいアルバムも、配信でのライブも最高だ。それは揺るぎない。

けれど、生の音楽を浴びること以上の喜びを僕は未だに知らない。

そんな日々のなかで突如届けられた吉報。

UNISON SQUARE GADENが約1年ぶりにライブツアーを行うことを発表した。

今年の4月に行われた自主企画「fun time HOLIDAY 8」は一旦中止となってしまったので、実に久しぶりにロックバンドが生音を引っさげてライブをすることとなった。

ツアー名は「LIVE(on the)SEAT」、文字通り席に着いたまま鑑賞するライブだ。

それはおそらくこのご時世に合わせて考えられた形態なのだろう。

だが、それだけでUNISON SQUARE GADENが終わるわけがない。断言できるのは、今まで勝手にロックバンドの魔法に救われてきたから。

今回もロックバンドは揺るぎない生き様を見せてくれたし、目の前の僕らに生きる活力を与えてくれた。

その一端をこの文章で少しでも届けることができればと思う。





11月19日、待ちに待ったUNISON SQUARE GADENのライブに参加する。

実に約1年ぶりのライブ…ここまで足が遠のくことは稀だったので、高揚感と懐かしさ、戸惑いが混在した不思議な感情が湧き起こっていた。

会場はフェスティバルホール、ユニゾンの3人も大好きだと言っているこのステージは、僕にとっても素晴らしいライブを見せてくれた大切な場所でもある。

チケットは電子化されてスマホに入っているし、入場とともに消毒と検温をするのは今までとは違う光景ではあるが、それ以外は何一つ変わらない。見慣れた景色だ。

もう一つだけ異なる部分があるとすれば、両隣の席が空いていること。

これは隣に無用な心配をしなくて済むので、むしろありがたかったのはここだけの話にしよう。

いつもなら待ち遠しさが上回ってしまう開演前の時間も、生の音を聞ける喜びを噛み締めている間に過ぎ去っていた。

様々な対策を施したライブ故に、珍しく開演前のアナウンスがあった。

それを終えるといよいよ最高のオンステージの幕開け。

暗転とともに僕らの耳に聞こえてきたのは…



"12時 時計塔の下新しいワンピースで 軽やかに、それは軽やかに走り出す"



"風船手にした子供 秘密の暗号に気づかず 離した、それを離した 空に吸い込まれた"



"わかんないのはクローバーに込められた願い 夢ならば思い通りになるのにな"



暗闇のなかで斎藤宏介(Vo.&Gt.)の歌声だけが会場に響き渡る。他には何の音も聴こえてこない。

原曲とは異なるアレンジに、一瞬何の曲かわからなくなってしまった。

ようやく気づいたのは、歌詞に曲名のフレーズが出てきた頃だった。



"君がここに居ないことであなたがここに居ないことで 回ってしまう地球なら別にいらないんだけどな"



"そっと抜け出したパーティーも 大好きだったあの映画も 未来のパズルに続いてる"



"「また、会おう」って言ったフローリア"



1番の終わりのタイミングで、ステージ上の暗幕が上がっていく。

見慣れたはずなのに、どこか懐かしい。

いつも華麗に僕らを救ってくれる3人のロックバンドとの再会だった。

緑色の照明に映るのは既視感のある花びらたち。

そう、「クローバー」だ。

初期から変わることなく歌い続けられているバラードの代表格の様な曲でもある。

UNISON SQUARE GADENのライブの幕開けは驚きに満ち溢れている。

いつ何時も観客を揺さぶるようなパフォーマンスで心に突き刺さる音楽を届けてくれるのだ。

今回のこの久々の対面ライブで選択したのは、おそらく純粋に音を届けること。

混じり気なしの美しい歌声は、確かに余計なことを考える前に僕の耳に入り込んでいった。

ライブが楽しいとか、ユニゾンと再会できて嬉しいとか、それよりも先に浮かんできたのは「音楽が聴けて幸せ」という思いだった。

僕の目の前でロックバンドがライブをしている。

その事実だけで明日も生きていくには充分すぎるぐらいの幸福感だったと思う。



"君がここに居ないことであなたがここに居ないことで 回ってしまう地球なら別にいらないんだけどな"



耳にしたこのフレーズに、自分たちがいたからこそ今日の空間が実現できたのかもしれないという、ちょっとした高揚感で思わず顔がほころんでしまった。

でも、それは逆かもしれなくて。

UNISON SQUARE GADENがいるから、僕の人生という名の地球はまわっているのかもしれない。

音楽という魔法で数ある苦難から救われてきたからこそ、そう強く感じることができた。

音を浴びない人生なんて考えらない。だからこそ、ここから僕の人生は本当の意味で再スタートしたんだと思う。

その始まりに「クローバー」を聞けたことがとても嬉しかった。




ライブは静かな熱量を保ったまま続いていく。

聞き慣れた「ようこそ!」…思えばこれもかなり久しぶりだった。

ドラムの音から始まるのは「フルカラープログラム」、ユニゾンの代名詞の様な曲だ。

ライブでは2曲目に登場することがとても多く、何ならアルバムに収録されているのも2曲目だ。

そんな定番の位置に定番の曲が披露される。

当たり前の景色ではあるが、それが途方もなく嬉しくなってしまったのは、きっと僕だけではないはずだ。

昂って序盤から立ち上がって演奏してしまう鈴木貴雄(Dr.)を見て、この場所に帰ってきたんだ…と何だか温かな気持ちも芽生えてきた。




短めのMCの後の「誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと」も、散りばめられた大切なフレーズに心を掴まれる場面がたくさんあった。

"愛している それだけ それだけで十分です"

"だってまだ息をしているんだよ 僕も君も"

"不安もあるけど希望もある"

「ロックバンドの生存報告」の延長線上である今回のライブで、とても意味のある言葉たちだと感じた。

負の感情に支配されがちな現代に、こう言ってのけるロックバンドに思わず称賛を送りたくなってしまう。


何より特筆すべきは「Phantom Joke」、発売から1年を越えてようやく直接披露する場が与えられた。

もちろん配信での形態でもその魅力は充分伝わっていたが、やはり生で聞く音は格別だった。

"まだ世界は生きてる"

何度聞いても、いつの時代に聞いても、人生に立ち向かっていくために十二分すぎるぐらいの活力をもらうことができるフレーズだ。

"だからこの空の先を見たい"

もしかするとそれは案外遠くない未来なのかもしれない。


1時間という時間は本当にあっという間だった。

ライブのラストを務めたのは「harmonized fimale」、"finale"という名を冠しながら、なかなか最後を任せられることはなかった曲だ。

美しいピアノの旋律から始まるメロディは、それまでの激しい熱量を一旦内に秘め、曲の性質でもある終わりを名残惜しむような感情を呼び起こした。

きっと会場にいるたくさんの人が同じような思いを感じ、それらを乗せて演奏された曲だと思う。

"ずっと続けばいいな けど 終わりが近づいてるのもわかるよ"

物事には終わりがあるから美しいし、だからこそ日々の大切さを享受できる。

この終わりはきっと始まりにもなるはず。

当たり前じゃなくなったことが再び当たり前になる。そんな大切な一歩に。

"今日が今日で続いていきますように"

このフレーズでの、田淵智也(Ba.)の笑顔が今も鮮明に思い出せる。

形態としては特別なものかもしれないけれど、ライブとしては"通常営業"のかたちで行われたはずだ。

バンドにとって普段と何ら変わらないパフォーマンスを行ったはずだし、長い歴史から考えれば数あるうちの記憶のひとつでしかないのだと思う。

だからこそ続くのだ。

来年も再来年も、はたまた4年後も。

今日と変わらない姿で音を鳴らし続けている。

そんな確信に満ちた思いが隠れていたのかもしれない。

最後は暗転とともに、齋藤だけがステージに残り、一礼してライブの幕は閉じた。





ライブに参加する前は正直不安もあった。

充分対策しているとはいえ、人が集まる場所に行くことはリスクもあるし、何より座ったままで声も出せずにライブを楽しめるのか…そんな心配も含まれていた。

けれども、終わってみればそんな心配は杞憂だった。

今ならこう断言できる。

ロックバンドは座っていても楽しい。

声が出せなくても楽しさは十二分に感じ取れるし、席に着いたままでも体は縦横無尽に動かすことはできる。

むしろ結果的に良いことばかりだった。

歓声がないからこそボーカルやコーラスの歌声ははっきり聴き取ることができるし、座っているから見える景色もいつも以上に鮮明だった。

いつも感じていることではあるが、いつも以上に自分とユニゾン3人の空間であることを意識することができた。

言ってしまえば、雑味なくライブの本来楽しむべき部分を楽しめたのだと思う。

それはこの時代の制限を制限と捉えずに、新たな発見として、自信を持って楽しめるツアーに昇華できたユニゾンならではの視点があったからこそだろう。

時代に左右されないバンドは本当に強い。改めてそう感じた。

2月からは満を侍して、普段行われている形態でのライブツアーが始まる。

もちろんそれはそれで楽しみだ。

だけど、今回みたいな(on the)SEATのツアーがあっても良いじゃないか。

そう思うことができたので、きっとこれからの僕の人生はもっと楽しくなる。

だからこそ、生きることがどれだけ大切なのかを噛み締めることができる。

これだからロックバンドを追いかけることはやめられない!
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