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コロナ禍に音楽は必要か

健やかな精神の維持に音楽は必須であることを米津玄師が証明した

コロナ禍の世界に於いて、米津玄師は本人がなりたいかどうかはともかく、ポップソングを作る人だけではなく、オピニオンリーダーにもなった。

毎日記録が更新され、自由な行動が制限され、コロナと共存しなくてはならなそうな世界の中、私は生活に劇的な変化があった方ではないが、音楽を聴くという行為が以前よりいくらか増えた。世間では音楽に人々が救われる場面もたくさんあったように思う。
いま絶対的に必要なのは間違いなく医療だ。一方で予防に勤しむことしかできない私たちに必要なのは、無闇に怯えたり騒ぎ立てたりせず、心穏やかに過ごすことで、そのために必要なもののひとつが音楽なのではないか。

夏のアルバムリリースで久々にメディアに登場した際に、厳選されゆっくりと語られる彼のことばは、無駄な飾りがなくとても自然で、大雑把に言ってしまえば全て納得がいった。多くの人が自分の心のうちを代弁してくれていると感じたのではないか。
誰もが体験したことのない世界を生きていく術をみんなが手探りしながら過ごす中、彼のことばは非常に的確で、ぼんやりしていた思いをはっきり気付かせてくれたり、色々なことを教えてくれたり、考えさせられることも多い。彼の年齢がひとまわり以上若いことなど関係ないなとつくづく思う。しかも日々の生活の中で、興味をもったり関心が広がっていく源泉を辿ると、だいたい米津玄師がいるという具合だ。

昨年の私のスケジュールを見返すと、米津氏関係では一月からのトレード、二月のライブ、それ以降の自粛生活、祭りのような夏の熱気が思い出され不思議な感覚になる。あれは夢ではなかったのか。
仕事に支障がでないギリギリの睡眠時間で臨んだ終わりなきトレードの日々から自分の執念を知ったり、涙が止まらないライブをする米津玄師に心奪われ魂を震わせたり、暗号解読をするTwitterの中の人々の実力に感心したり、Fortniteをやってみたり、やばい数のTシャツ保持者になったり、迷える子羊になったり、カロリーメイトでせっせと栄養バランスをとったり、もう米津玄師に振り回されっぱなし、ではなく振り回されてる風を装って一人踊っていた一年だった。しかしあの静かな熱狂がなければ乗り越えられないような過酷な一年でもあった。

米津玄師発の関連事項も私の世界をより豊かに広げてくれた。アルバム「STRAY SHEEP」が聖書に手を伸ばさせたのち、夏目漱石「こころ」を、「感電」がボリス・ヴィアンの「日々の泡」を、「カムパネルラ」が「銀河鉄道の夜」や中原中也を、「カナリヤ」が泉鏡花や是枝監督を、読んだり観たりする機会をくれた。改めて読み返すことで感じるものもあったし、初めて触れる楽しさを味わったものもある。
過去の曲が今でも突然新しい発見をもたらしてくれることもある。「amen」は暗い雰囲気の曲だが、朝から聴きたい日もあるし、落ち込んでいるときも励まされたいときも聴く大好きな曲のひとつで、思い浮かぶ風景はまあ暗く黒っぽい。この世に生まれた意味を考える人、どん底を見た人、今どん底にいる人、これからどん底に落ちていく人にとって、地獄の中の僅かな光がどんな救いになることか。amenはそんなときに遠くに一条見える光のような曲。明るすぎたら眩しくて目を開けないから、丁度良い塩梅の暗さがいい。適当な暗さに愛を感じるし、この曲の存在が愛。「カナリヤ」を聴くのと同じ気持ちで聴く。

曲を聴きながら思い浮かぶ風景とリンクするものがあって、今までただいいなぁと思っていた、ほのかな光が心を安らかにしてくれる絵を描くイギリスの画家、ジョン・アトキンソン・グリムショーが私は好きなんだと自覚したのも、米津玄師の仕業だと思っている。

もはやそれは関係ないだろうと思う範囲にまで彼の影響は及び、日々を豊かにしてくれることに感謝している。
最低限生命を維持する状態になっても、人に心がある以上、心にも栄養を与えなくてはならなくて、やはり彼がどんなに謙遜したとしても、音楽がないと、芸術がないと私たちは生きる屍になってしまうと感じた2020年だった。彼の紡ぐ「ゆめうつつ」で毎日のニュースが締めくくられる2021年に普通が戻ってくることを祈ります。
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