4296 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

“ちっぽけ”を調べようとして、【大橋ちっぽけ】に辿り着いた。

こんな素敵な音楽と巡り合えるなら、調べ物で寄り道するのも悪くない。

この前、文章を書いていて調べ物をしたら、思いがけぬ方へと導かれ
ていた。
頭に急に“ちっぽけ”という言葉が浮かび、今更だがその意味をきちんと
調べてみようとネット検索を始めたら・・・

ふいに【大橋ちっぽけ】というワードが目に留まる。
いつだったか、ラジオでこの名前と音楽を耳にした気はする。その程度の
認識だった。なのにこの日は何故だかYouTubeのリンク先に飛び、ふらっと
視聴した『僕はロボット』を皮切りに、そこから抜け出せなくなった。
これが私とミュージシャン、大橋ちっぽけの音楽との出合いである。

愛媛県松山市出身の22歳。中学生の頃から動画サイトに歌唱投稿を
始め、高校でオリジナル楽曲を制作し始めたというから、この流れは最近
の【Z世代】ミュージシャンの定番だろう。大学進学で上京し、2019年に
メジャーデビューを果たしたようだが、動画で観る限り都会の色に染まる
ことなく初々しさに溢れている。
けれども、そんな素朴な青年には、既に聴く者の心に響く確かな腕前が
あるってことが、オリジナル曲やカバー曲を見聞きしているうちに判ってきた。

私が大橋ちっぽけの魅力だと思う点は、二つある。

最大の魅力は、ボーカリストとしての素質。
清らかさと温もりが混じり合う鎮静効果の高い声質は、歌い手としての
強みと言える。例えば若手実力派・三浦大知の声をダイヤモンドの輝きと
するなら、大橋ちっぽけの声は牧歌的で実直な国産真珠のよう。その
耳触りの良さは、不純物のない軟水が喉を通る感覚に近い。だから何杯
でも飽きずに飲める。

また、“ケルト音楽”にも通じる神秘的な雰囲気を感じる。
一昔前、日本ではアイルランド系ルーツを持つ歌手や音楽が大流行した。
程良い湿度と懐かしさを纏う歌声や音色は、日本人の耳に合っているの
だろう。ただ、あの時流行ったのはどれも当然唄われるのは日本語詞では
ないから、イージーリスニング的に扱われたりもして、一過性のブームで
終わった。
その点、大橋ちっぽけは美しい日本語と描写を心地好いメロディにのせ
ダイレクトに届けてくれる。モイスチャー効果たっぷりの瑞々しい歌声は、
心身への浸透力抜群。するりと肌に馴染み、じわじわ全身を温め、
かさつく心を癒やす。(※ボディクリームの説明書きではない)

もうひとつの魅力は、詞の言葉選びとセンテンス構成の巧さだ。
私小説や恋文にも似た選りすぐりの言葉が並ぶフレーズは、“歌詞を
読み込みながら音楽を聴きたい”私の想像力を大いに刺激する。
特に感心したのは『マツヤマ』だ。
『ふみの日』と同じく本人が上京後に故郷に思いを馳せた内容のようだが、
『マツヤマ』は詞に書かれていない余白部分の感情や土地の空気感まで
伝わってくる。私自身が大橋と同じように故郷を離れ進学で上京した
経験があるから、強く共感してしまうのかもしれない。そうだとしても情感
こもった唄い方、メロディー、フレーズ・・・それらが絶妙なバランスで
配置されているせいで、心の琴線にいちいち触れる。


<平和通りに夜の風
もう会えない ただそれたけ
幼さを隠せないまま
間違ったり 許したりした街>


The Beatlesの『Strawberry Fields Forever』という名曲がある。
『マツヤマ』は、そのオマージュなんじゃないかと。メロトロンのような
あの音色を聴けば、思わず胸がキュンとする中高年は多いはず。
ジョン・レノンが故郷リヴァプールの想い出を歌にしたように、大橋
ちっぽけもまた、松山への想いを歌に託したのだろうか。
それにしても詞の構成がお見事。
<平和通りに夜の風>を冒頭に置くことで、彼の故郷だけでなく
聴く者それぞれの“ふるさと”の夜へといざなう。その後、<松山駅>、
<銀天街>、<東雲色>とゆっくりと街を歩き続けるように静かに
場面を展開させる。
言葉数は少ないシンプルな歌。なのに実在する固有名詞をちりば
めることで、聴き手の目の前に広がる景色に、こんなにも奥行きが
生まれるとは・・・。


<この街はさ 何にもないから
思い出すんだ ただそれだけ

平和通りに夜の風>


<何にもないから 思い出すんだ>この言葉の意味も深い。遙か
彼方に“ふるさと”があり私の中で時が止まったままのその場所も、
本当に<何もない>から解りすぎて泣けてくる。
そして極め付きが、ラストに再び置かれた<平和通りに夜の風>。
このワンフレーズの後に感嘆の声を添えて締め括る、その心憎い演出と
表現力には最高にシビれた。

『マツヤマ』は、私を一聴で魅了したように“幅広い世代”に刺さる歌
だと思う。
近年の電子音や畳み掛ける詞が主流の音楽についていけない大人
達はモチロン、ストレス社会を生き抜くどの世代にもしっかり響く力を
感じる。決して派手さはないが、繊細で純粋で懐かしい。陰鬱とした
こんな時代にこそ、この歌が多くの人の耳に届いてほしいものだ。

現に私は救われた。
油断すると“くすみがちで冴えないゆらぎ期”の日々に、またひとつ潤いと
彩りが加わった。本来の目的から横道を逸れたあの日、【大橋ちっぽけ】
がナニモノであるか、たまたま知ってしまったお蔭で。

(※<>内はすべてアルバム『ポピュラーの在り処』収録『マツヤマ』
より引用)
  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい