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Sano ibuki~桜とスクリーンを彩った音楽

FM802 Daiwa Sakura Aid FOR THE GENERATION LIVE

2020年12月10日20時、FM802主催、Daiwa Sakura Aid協賛の招待制の特別な配信ライブが行われた。
国の重要文化財に指定されている大阪市中央公会堂。その重厚な趣のあるホールに集まったミュージシャンは、シンガーソングライターSano ibukiと藤原さくらの2組。
協賛のDaiwa Sakura Aidとは、吉野山の桜の保全と桜の歴史、芸術、文化と後世に残したい音楽を継承するプロジェクトで、その主旨に賛同したミュージシャンが、このスペシャルライブに選ばれている。
ここでは1組目のSano ibukiさん(以下敬称略)のセットリストと映画、そして桜についてのエピソードを絡めながら書いて行こうと思う。

余分な物のないシンプルなセットの中、DJの大抜卓人さん(FM802)に“空間を支配する声”と紹介されたSano ibukiがステージに現れる。袖に花模様がついた黒Tシャツとギターストラップが、さりげなくSakura Aidへのリスペクトと春を待つ心を感じさせる。
厳かな空気の中、始まったのは2020年1月に公開された今泉力哉監督の映画『his』の主題歌『マリアロード』。ゴスペルver.のCD音源よりも、さらに温かみを増すアコースティックギターver.。サビの美しい裏声が物語の主人公、迅の透明感溢れる佇まいに繫がる。『his』はLGBTQの人々の思いとそれを取り巻く社会を描いた映画。難しいテーマでありながら、どの人物にも共感性が高く、自然なストーリー展開が見事な作品だった。結局、法ではなく自分たちなりの結論を出して生きようとする主人公達。そのエンディングを彩ったのが、この『マリアロード』だ。
《神様 どうか 僕のことはいいから ひとつ ひとつだけ聞いてくれよ 苦しみくらいじゃ揺るがない想いと 奇跡の中にいたこと あなたは教えてくれた》
人生は選択の連続だが、人の心だけは誰にも縛れない。不器用ながらも、自分に正直に歩いて行こうとする迅たちの姿と、この誠実な優しさが詰まった曲とが重なり、涙を落としたのが、ついこの間の事のように思える。
2曲目は、2019年12月公開の『ぼくらの7日間戦争』の主題歌『決戦前夜』。高校生達のひと夏の大人への、ささやかで痛快な抵抗を描いたアニメ映画だ。Sanoは同作品に主題歌として『決戦前夜』、『おまじない』、『スピリット』の3曲を提供している。映画では、それぞれ3曲が鍵となるシーンで効果的に、登場人物の一人のような存在感で流れた。
《こんなに寂しいから笑えるように 全てを捨てたから進めるように 呼吸のように過ぎ去る日々だから 抱きしめて 今 この決戦の地に僕は立っている 生きている》
生きる事を肯定してくれる『決戦前夜』はアコースティックver.でも、その爽快な歌の世界観は健在で、アニメーションそのものの様な瑞々しい歌声と、ハードにかき鳴らされたギターが印象的だった。
DJとのやり取りで笑みがこぼれたMCの後は、今回初ライブ演奏となる『紙飛行機』。2020年11月公開映画『滑走路』の主題歌としても記憶に新しい。同じく重いテーマを扱った『his』に共通する部分もある、現代の生きづらさを描いた作品だ。
『滑走路』の大庭功睦監督は『his』の主題歌『マリアロード』を聞いて、Sanoにこの映画の主題歌をオファーしたそうだ。この『紙飛行機』は出来上がった時に大庭監督に弾き語りで聞かせたと言うから、今回は2回目のアコースティック演奏と言う事になる。
歌集が原作の映画は珍しく、話も3つのストーリーが交錯すると知って、見る前からどんな物語なのか期待が膨らんだ。自死を選ばされた者と、その者に縛られる者、勇気ある行動が選べる者、選び損ねた者、一歩が踏み出せる者、責任転嫁する者。様々な人間模様と選択の中で、繫がる過去と未来。『紙飛行機』はラストの重要なシーンで、全ての思いを包み込み流れる。
《あなたは鳥となって、空を今 駆け抜ける 紙飛行機 (中略)どうか恐れないように いつかそこへ行くよ 僕の翼はあなた》
正に歌詞が示すように、言葉が生きる翼になる物語で、この楽曲の映画との親和性の高さを、改めて劇場で聞いて思い知らされたばかりだ。
ここまでは2020年の映画を彩った楽曲達で、それぞれの映画のシーンが、脳裏に鮮やかに蘇るようなライブ構成だった。

ラストの1曲は2018年のミニアルバム『EMBLEM』の最後を飾る『春霞』。『春霞』とは春の空に立つかすみの事を指す。アルバムではピアノ伴奏な為、ギターアレンジで聞かせてくれるのは新鮮だ。
《今日の日を終えてしまえば 思い出になってしまうから 心地いい風に そっと明日を破いて流した 桜の花びらのように》
ステージ背面に桜花の演出も加わり、Sanoの歌声は終盤に向けて更に、伸びやかさを増して行く。ミニアルバムの『春霞』は一発録りの作品で、当時ライブに近い感覚のレコーディングだったと直後のMCで話していた。今回のように楽器が変わっても、音源そのままの緊張感は画面越しに伝わって来る。
現実の春は、もう少し先だが、今寒さに堪えながら春を待つ桜の芽が、数カ月前後に美しい花を咲かせてくれるのは、多分間違いない。今年は、その花を誰と何処で眺めるのだろうか。出会いと別れの季節に咲く花や聞く曲は、いつも鮮やかに心に刻まれる。
最後のMCで桜の植樹の話になり、桜は大きくなる様まで綺麗だ、と語ったSano。歴史や重みを感じる、ここ大阪市中央公会堂で、神聖かつ新鮮な気持ちで歌ったと言う彼が、次のライブでは直接会って音を浴びて欲しいとのメッセージを残した。それは今活動を続けるミュージシャン全ての願いでもあると思うが、まず今出来る形で発信してくれた事が素直に嬉しかった。心温まる楽曲が生の声と音で愛おしさを形作り、満ち足りた余韻を残す冬の夜になった。

今回は、トークも含め約40分4曲のミニライブだったが、特に3曲目の『紙飛行機』は初披露だった事もあり、独特の緊張感と共に、鮮烈に胸に刻まれた。熱くなった。
振り返ってみれば2019年12月から1年間で、3本の映画の主題歌5曲を世に送り出したSano ibuki。時代は転換期を迎えているが、彼の作品に寄り添う姿勢は、これからもきっと変わらないだろう。例え変化が訪れたとしても、それは彼が前に進む為に必要な進化なのだと思う。
激動の2020年。来年の音楽がどんな形になって行くのか、その変化も含めて発信される音を楽しめる、受け取れる余裕のある人であり続けたい、心から願った1年の終わりだった。
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