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愛に言葉を結わえて――pollyがつくりだす遮断と包容の空間

polly『Four For Fourteen』

 参ってしまった。100%好きだ……。pollyによる本作『Four For Fourteen』を何度も聴いているうちにどんどん作品の世界に入っていき、その世界に愛され、その世界を愛した。前作である3rdミニ・アルバム『FLOWERS』について僕は当サイト『音楽文』に文章を掲載していただいている。そこでは、わかりやすく言えば、pollyのフロントマンであり全ての楽曲を手がける越雲龍馬が(『FLOWERS』の前作である)『Clean Clean Clean』(pollyの1stフル・アルバム)に対してやや否定的な立場を取ったのに対して、僕は『Clean Clean Clean』を否定しないという立場を取った。だから、語りやすかった。最初に着くポジションが異なるのだから。だが、今回は筆者として事情が異なる。100%好きだと思ってしまうし、声明的な部分にも同意する。作品を対象化することができない。本作の前で立ち位置を失くしてしまったのだ。
 さて、本稿を書くにあたって気を取り直さねばならない。最初に個人的にではあるが、音楽的に印象を受けたことを列挙してみる。『FLOWERS』の<和製4AD>美麗シューゲイズ・サウンドはもちろん引き継がれている。小林祐介(THE NOVEMBERS)とNatsuki Kato(Luby Sparks)を交えた、タワーレコードのミュージック・レビュー・サイト『Mikiki』のインタビュー(2019)で語られていた<公共物>としての『ANGELS』以降のTHE NOVEMBERS〜インダストリアル〜ポストパンク。幽玄夢幻なサウンドを誇っていたシガー・ロスが『残響』でファンを驚かせたフィジカル感/リズム。メンバーやチームのリクエストもあってファルセットは控え目ながらも変わらない越雲龍馬のメロディー。こうやって並べてみてもあまり論が進まない。だから、インタビューなど資料を多く読んだ。全てを読んだとは言えないだろうが、『FLOWERS』リリース時より明らかにメディア露出が多く、読み込むのは嬉しい悲鳴となった。新・自主レーベルのチームの尽力に感謝したい。
 「前作では光を見過ぎてしまった自分もいて。その光が、今の自分には見れないんですよね、どうしても」。その光は嘘ではなかったと語りながらも、エンターテイメント特化型情報メディア『SPICE』(2020)でのインタビューで『FLOWERS』について越雲龍馬は言う。また、「むしろ暗い場所にいるほうが、そこに差し込む光の明るさや温かさとか、光が照らし出すキレイなものがよくわかる」とも『音楽と人』(2020年12月号)で語っている。コロナ禍、それに連なる負のスパイラル的な情勢もあろうが、確かに『FLOWERS』は1曲目"Starlight Starlight"からハイトーン・ボイスの目眩のするような美しさ/眩しさで入る。眩しすぎる、というのは率直な感想だろう。『FLOWERS』が<和製4AD>というコンセプトを貫徹した傑作であることは言うまでもないが。対して、本作『Four For Fourteen』の冒頭を飾る"Slow Goodbye"は本作を徹底して貫く、<僕らが誰かの作り物である>こと、<かたちあるものに終わりがある>こと、リアレンジされて収録された"言葉は風船(hope)"にもある<僕を狂わせきみを傷つける言葉がある>ことなど、冒頭にしてアルバムを集約したような内容になっており、タイトル通りけして明るくはないが、「僕が誰かの作り物でも ここにいる意味を探すだろう/ひとつだけの いのちだから」("Slow Goodbye")というステートメントで終える。本作リリース前に立て続けに既発曲のリアレンジがデジタル・リリースされてそれらは本作に収録されており、また新曲のクオリティーを考えても、どれが推し曲あるいはリード曲かは決められないが、何とメンバー全員揃ってという意味でははじめて(!)となった『OTOTOY』(2020)のインタビューで、<人間愛>をテーマとした(リアレンジした4曲もその点から選んだ)という本作の方向性を決定づけたのは、『FLOWERS』の時点でデモは完成していた“Slow Goodbye”だと越雲龍馬は語っている。本作をはじめるにあたってベスト、としか言いようがない名曲。
 本作で個人的に最も驚いたのが2曲目の"残火"だ。今回、多くのインタビューを読み気づいたが、インタビュアーに対してか媒体を選んでかはわからないが、かなり言葉や内容を選んで慎重に本作を伝えようとしている姿勢を感じた。それは、人の顔色をうかがっているということではなく、自作に対する誠意と自信だと思う。中でも、『SPICE』(2020)――上で引用した記事とは別の記事において――で実現した、飯田瑞規(cinema staff)との対談は印象深い。他の媒体ではほぼ触れられていないがアルバム・ジャケットのクレジットにある通り、本作においてはボーカルのディレクションを飯田瑞規が一手に担っている。その対談において、越雲龍馬は「本当、絶対に俺が選ばないところをことごとく選んでいくから、本当にびっくりしましたね」(『SPICE』, 2020)と語っていて、本作におけるボーカルの質感の変化に飯田瑞規の仕事が如何に影響しているか感じさせる。また、"残火"においては、デモ段階で既に「僕は「人は何故に」と「同じ絵を」が奇数ブロックだとしたら、「群がりながら」は偶数ブロックみたいな、そうやって間隔を開けながらブロックごとに録っていけば良いなと思って(後略)」(『SPICE』, 2020)といった膨大なトラック数になる録り方を採用しており、偶数奇数のブロックの最初と最後が微妙に重なる結果、通常のボーカルとはもちろんラップとも異なる絶妙なタイム感/グルーヴを醸し出しており、「自己否定のモラルに 支えられた孤独は/誰かの真似で魅せた 間抜け面の私欲だ」("残火")などよく書き切ったと思わされるリリックとともに、越雲龍馬のエッジーな才能が爆発している楽曲である。
 『Clean Clean Clean』からのリアレンジで最初に持ってきたのが次の"狂おしい(corruption)"だ。インダストリアルなテイストが強く、バンドのフィジカル面の強度の増加が示されている。"狂おしい(corruption)"とは全く質感は異なるが、シガレッツ・アフター・セックスやシガー・ロスに影響を受けているというドラムの高岩栄紀の趣向なのだろうか、引き算の効いたドラムが共通するインスト曲"14HOUSE."を挟んで、これもまたリード曲と言いたいほどの名曲"ヒカリ"へ。「愛せなかった幼き僕を/愛したいんだ/いまの僕の願い」という歌詞が刺さる。上で述べたように、本作のインタビューでは語られている内容が媒体で異なり、音楽誌『MUSICA』(Vol. 164, 2020年12月号)でまさに<幼き僕>の体験について越雲龍馬は語っている。他では言及されていないこともあり、ここでは詳細は割愛する。個人的には同じような体験をしており、胸が熱い。そして、リアレンジされた"知らない(somewhere)"へ。『Clean Clean Clean』に収録されていたオリジナル・バージョンとの違いが際立つ。埋もれていたボーカルはぐっと前に出て、声もサウンドも温かくなった。歌詞が響く。
 "Slow Goodbye"のボーカルをリバースさせて不穏な時代の空気を象徴するインストの佳曲"ROOM"――本当に本作のターニングポイントだと感じる――をはさんでじっくり聴かせる2曲"刹那(canon)"、"言葉は風船(hope)"、そしてフィジカルな曲調ながらも実は越雲龍馬の哲学と詩情という精神性も同時に爆発する"CREA"、バンドの現在地をしっかりと聴き手の心に沈めてくれる"点と線"の2曲という後半のセクションは圧巻だ。"ROOM"をはじめとして、本作には環境音やノイズを多く用いている。「今作に入ってるノイズは楽器ではなくて、全て生活音から作ってるんですよ」とShoegaze Web Media『Sleep Like A Pillow』(2020)のインタビューで話しており、「生活音から作ることで、自分の生活の延長線上にある音楽になった」とも語っている。個人的にはこれが最初とは考えていなくて、『FLOWERS』に収録されたラスト曲"遠く"(本当に名曲だ!)にもフィールド・レコーディング的な要素はあり、これはサウンド・アーティストとしてはもちろんだが、詩人・越雲龍馬の目か。
 "ROOM"に続く"刹那(canon)"については言葉がない。個人的には2020年のベスト・ソングだ。僕は、THE NOVEMBERSがアリーナ・ツアーをやるような国に日本はならないといけないと考えているのだが、pollyの"刹那(canon)"を聴くに、<歌番組>に出て欲しいと真剣に考えている。もっと大きなフィールドで歌って欲しい。"言葉は風船(hope)"は2016年の『哀余る』からリアレンジしての収録となった。この曲を今歌うから、"残火"がより鋭利で覚悟を伴ったものになる。適切な言葉を適切なタイミングで発することはできるのか。発した方がいいのか、発しない方がいいのか。かたちあるものが終わるまでに伝えられなかった言葉。かたちあるものを終わらせてしまった言葉。「言葉は風船のように/丸くて綺麗だななんて思えることもある」("言葉は風船(hope)")。それにしても――。本作を貫くテーマとしてだけではなく、人間の永遠のテーマとして、心に残る。
 「実際、僕以外のメンバー三人は"CREA"をリード・トラックにしたいって言ってました」(『Sleep Like A Pillow』, 2020)という"CREA"は、ポストパンクな質感やフィジカル感があるが、実は越雲龍馬の詩情が爆発していると言いたい楽曲。"Slow Goodbye"から連なる、「神の創造物」としての人間の存在。作り物でも借り物でもこの感情は本物だと信じる。
 本作ではリアレンジ曲に英題が付されているが、本作のラストを飾る"点と線"がアルバム・ジャケットの裏表紙の英字表記で"KATACHI"となっていることに気づいてはっとしてしまった。<点>と<線>で結ぶ<かたち>。「歌詞もボクシングでいうストレートを自分が当てたいところに当てられた歌詞を書けました。特にBメロの「いとおしいことがむなしい/愛の形は三角です」っていうところですね」(『Sleep Like A Pillow』, 2020)と語っているが、個人的にはそれに続く行の「尖った先で突いて ぼくらを生かすけど」("点と線")も引きたい。"言葉は風船(hope)"と通ずる、愛するだけでなく、<傷つけ/傷つけられる主体>としての自己認識が一行で書かれていて、心を打つ。痛みさえも生の実感にしてぼくらは生きていくのか。かたちあるものは終わる。悲しいことに、命のようにかたちのないものも終わる。ぼくらは弱い。かたちだけズルズル残る。だから、ぼくらは亡骸を焼かねばならない。別れを告げるために焼かねばならない。でも、かたちあるものは焼かれ、立ち登る煙のようにかたちなきものとして残ることもあるかもしれない。記憶として、思い出として、愛として、光として。音楽のように、メロディーのように、リズムのように。その一縷の望みに託して、今日も願う、祈る。心の奥底で、そっと風船を飛ばす。名曲。
 結局、全ての楽曲についてコメントしてしまったが、1曲も聴き漏らすことのできない作品になっていると思う。前作『FLOWERS』において小林祐介(THE NOVEMBERS)をプロデューサーに迎えて、彼を触媒として生まれ始めた、越雲龍馬による独裁政権ではない、4ピースのバンドとしてのpollyがこの2ndアルバム『Four For Fourteen』においてまさに<Four>としてはじまるのだから本作で1stアルバムの楽曲を<4人で>録り直す必要があった。そして、ネクスト・ステップとしての新曲がこれ以上ない形で収まった傑作になっていると思う。愛が<三角>のように尖った先を持つものならば、そこに祈るように風船(=言葉)を結びつけよう。鋭利性を増したノイズとリズムにかつてないやわらかくつよい言葉と声を結わえた新生・pollyの音楽は遮断と包容に満ちた空間(<ROOM>)をつくりだす。今、静かに震えている魂へ。14歳へ。<幼き僕>へ。前作『FLOWERS』に僕が書いた文章の結びの言葉を確信をもって繰り返す。ぼくらはここにおいて、そろそろ出会っていいころだ。
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