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「イケてない」を越えた俺たちへ

武道館のスポットライトに照らされた、Creepy Nutsの生き様

 人は、他人のキラキラした成功談よりも、「イケてない」失敗談に対して共感しやすいという。


 深夜帯での放送にもかかわらず、幅広い世代から人気のバラエティ番組『アメトーーク!』。そのなかの人気テーマのひとつに〈中学の時イケてないグループに属していた芸人〉というものがある。
 友達がいない、部活は補欠、学校行事では活躍できない…地味でちょっと残念な「イケてない」エピソードを、それを受け入れ乗り越えてきた人気芸人たちが、自身の体験談としてユーモアたっぷりに語って爆笑をさらう。そのさまが、観ている「イケてない」を経験した・現在進行形で経験している人たちを勇気づけ、強い共感を生んでいるのだ。
 この初回放送が、優れた放送作品等に贈られるギャラクシー賞(月間賞・2009年1月)を受賞したのも、この「イケてない」がまさに、多くの世代が共感できる”普遍的なもの”であることを表す結果ではないだろうか。


 そんな〈中学イケてない芸人〉と同じく、「イケてない」エピソードに深い共感を集め、ここ数年で爆発的な人気をさらったヒップホップユニットがいる。他でもない、Creepy Nutsのことだ。

 勉強も運動も、ついでにお酒も苦手。
 学生時代の部活は補欠で、ベンチにすら入れなかったこともある。
 恋愛経験は(ほぼ)ゼロ、そもそも女性が怖い。不良も怖い。

 ヒップホップというジャンルに、ダーティで男社会的な「イケてる」人の音楽というイメージを持っている人は今でも多いだろう。実際、そういう一面もある。でも、Creepy Nutsの2人——R-指定・DJ松永が語る学生時代や私生活は、そんなイメージとは真逆の「イケてない」ものばかりだ。
 しかし、2人のラップとDJのスキルは折り紙付きで、それぞれ〈バトルMC日本三連覇〉〈バトルDJ世界一〉の称号まで勝ち取っている。意外性と痛快さにあふれる、まるで少年マンガの主人公のような経歴だ。
 この経歴と、そこから生まれる内向的でユニークなリリック、クセがあるのにキャッチーで聴きやすいトラック。さらに、まるで”近所の兄ちゃん”のような親しみやすいキャラクターとくれば、ヒップホップと馴染みの薄かった世間も、2人を放っておかなかった。ケンタッキーも、『情熱大陸』も、木村拓哉だって2人に振り向いた。

 Creepy Nutsを初めて紹介するメディアを見ると、この「イケてない」経歴と確かな実力とのギャップにフォーカスされているものがとても多い。やはり、多くの人の共感を誘うこの部分が、今の2人の爆発的人気の根源なんだなと感じる。
 でも、そんな紹介を見ながらふと思う。Creepy Nutsは本当に、今でも「イケてない」代表なのだろうか。
 そして思い出すのが、画面越しに観た、2人が武道館のスポットライトに照らされていたあの姿だ。


 地上波バラエティの冠番組、R-指定のドラマ出演、DJ松永のエッセイ連載…と、2人の活躍の幅が驚くほど広がった2020年。「ヒップホップの記念日」でもある11月12日に、Creepy Nuts初の武道館ワンマン『Creepy Nuts One Man Live「かつて天才だった俺たちへ」日本武道館公演』2日目公演が行われた。ヒップホップアーティストとして、武道館のステージに立つのは史上15組目。2人が影響を公言しているRHYMESTER、般若らと並んだことになる。
 現地チケットは即日完売。私は残念ながら手に入れられなかったが、配信があったおかげで参加が叶った。
 Creepy Nutsにとって記念すべきライブ。そして私にとっても、2人の真の魅力を見つけられた大切な思い出となった。


 1曲目を飾ったのは『スポットライト』。
 Creepy Nutsのリリックにおいて、1つ目のターニングポイントとなっている曲だ。

 この曲のリリースまで、特にインディーズ時代においては、Creepy Nutsの本領といえば”コンプレックスの塊”ともいえる卑屈なリリックだった。『たりないふたり』はまさにそんな卑屈と自虐にまみれた1曲だし、Creepy Nutsと名乗る前からの楽曲『トレンチコートマフィア』も、現状を打ち破ろうというメッセージではあるが、その根底にあるのはルサンチマン=「(弱者から強者に対する)憤り、怨恨」だ。自身を弱者と認める、負のパワーが原動力になっている。

 しかし、『スポットライト』の歌い出しはこうだ。

【俺は今決して替えの利かない存在 矢面に立って浴びるスポットライト】

 自らを「決して替えの利かない存在」と肯定し、これまでの卑屈な姿勢をさっそく否定しているのだ。

【使えない奴らトレンチコートマフィア たりないふたりか?所詮脇役か?】
【身の程知らずと笑われようが I’m a No.1 player 元ベンチウォーマー】

 過去の曲名、さらに『助演男優賞』では”正統派”とまで名乗っていた「ベンチウォーマー」という言葉をセルフサンプリングし、【もうやめようや、もう胸張ろうや】と自ら否定する。まるで過去の清算だ。
 でも、どんなに前向きなことを言ってみても、卑屈な自分と完全に決別することは難しい。だから「元」をつけてこれからも背負いながら、先に進もうという前向きなメッセージが込められている。

 この曲が流れ始めたとき、ステージ上の2人には、ラジオやTVバラエティで見せるような「イケてない」代表の面影は全くなかった。ただ、卑屈な自分を受け入れて堂々と憧れの舞台に立つ、1人のラッパーと1人のDJの姿がそこにあった。


 そしてライブ本編の最後を飾ったのは、公演タイトルにもなった『かつて天才だった俺たちへ』。
 この曲こそ、Creepy Nutsの2つ目のターニングポイントにして、今の2人の姿勢を表す1曲だ。

【破り捨てたあの落書きや 似合わないと言われた髪型
 うろ覚えの下手くそな歌が 世界を変えたかも…】

 誰しも自ら、他人の目を気にして「可能性の芽を摘んで」しまった経験や、あのときああしていれば、と後悔した経験があるのではないだろうか。この曲で提示しているそんな「イケてない」経験は、これまでのCreepy Nutsの楽曲で描かれたエピソードの、どれよりも普遍的だ。

【かつて天才だった俺たちへ 神童だった貴方へ 何にだってなれたanother way まだ諦めちゃいない】
【風まかせ どっちみちいばらのway 俺らは大器晩成 時が来たらかませ】

 先の『スポットライト』では、これまでの卑屈や自虐への否定を【他の誰でもねぇ俺に言ってんだ。】と、”過去の自分”に対するアンサーという形で表現していた。そして『かつて天才だった俺たちへ』では、その自分を拡張し、同じコンプレックス——「イケてない」を抱えてきた人たちへ、「俺たち」「貴方」という言葉を使って、自分自身も含めたアンサーを送っている。同じ目線からの、どこまでも優しくて力強いエールだ。
 卑屈な気持ちを抱えていると、他人のキラキラした成功談は「背中を押される」というより「鼻につく」と感じてしまう。2人の「イケてない」部分に深く共感してきたそんな私たちにとって、こんなにも勇気づけられるエールがあるだろうか。


 ヒップホップはその「アーティスト自身」のことが、楽曲へと特に色濃く表れるジャンルだ。自身の考えや経歴を反映し、偽りのない”リアル”な自分の言葉で語ることがルールとされる文化があるためである。だから、聴くだけでそのアーティストの人間性、生き様をダイレクトに感じることができる。
 Creepy Nutsはこれまで、『たりないふたり』で語る自虐的な「イケてない」部分から、『未来予想図』で吐き出した不安、そして『スポットライト』で表現した意識の変化、『生業』で滲ませた自信と覚悟…と、その時々の自身の考えや生き様を、楽曲を通してとことん世間へとさらけ出してきた。
 さらに音楽はもちろん、一見「なんでここにCreepy Nuts?」と思うような分野での活動にも、いつだって全力だ。この生き様をもって、2人はまさに「何にだってなれる」ことを証明している。
 これらの文脈があるからこそ、2人の前向きなメッセージはリアルなあたたかさを持って、心の奥深くへと刺さってくるのだ。

 『スポットライト』で始まり、時折昔の卑屈さものぞかせながら、『かつて天才だった俺たちへ』で結んだこのセットリスト。そして武道館のステージの上で、汗と涙と共に、キラキラと輝いている2人の姿。
 私はこのライブを観て、Creepy Nutsは今「イケてない」を越えた先に立っているんだ、と思った。


 武道館公演後の活動を含めて振り返ってみても、今のCreepy Nutsからは、もう『たりないふたり』の頃のような卑屈さはすっかり影を潜めている。でも決して、かつての自分たちと同じ卑屈さを抱えたリスナーを置いてきぼりにしてはいない。
 「イケてない」経歴は欠点じゃない。抱えたまま悩めるだけ悩んで、時が来たらかませ。
 このことを自らの生き様をもって、今だって、どこまでも「イケてない」側の目線から伝えてくれているのだ。


 「イケてない」を越えた俺たちは、いつからでも、何にだってなれる。
 それを証明してくれるCreepy Nutsの音楽と生き様に、”俺たち”は今日も、挑戦する勇気をもらっている。
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