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楽曲に恵まれることのジレンマ

アイドルグループ・サンダルテレフォンが超えていく「楽曲派」アイドルの宿命

移り変わりの激しい女性アイドル業界の中で、新進気鋭の4人組グループが静かに注目を集めている。
音楽文を読まれる方々にはあまりなじみが無いジャンルであろうが、彼女らは地下アイドルという区分に分類される。
その名も、サンダルテレフォン。

明らかに不釣合いな「サンダル」と「テレフォン」という単語をくっつけたグループ名は、一見イロモノのコミックアイドルを思わせる。

が、彼女らはものの見事に正統派のアイドルである。
くせがなく、「全員がエースレベル」というビジュアルの完成度もさることながら、なににもまして彼女らを正当派たらしめているのが、楽曲の質の高さ。

2019年4月のデビュー以降、コンスタントなペースでリリースされる楽曲は「楽曲派」を名乗るアイドルファンを中心に話題となっていた。

“離れてても僕ら繋がってる”

「電話はつながらなくても、大切な人とは心はつながっていたい」というグループコンセプトとも通じるところのある曲「コーリング」は、サンダルテレフォンの名刺代わりの曲である。
電話が鳴り響くような伴奏にメンバーのハイトーンが重なる音はあきれるほど綺麗だ。
時代が時代なら着メロのCMソングにでもなっていたのではないかとさえ思う。

2ndシングル「Magic All Night」はきらびやかなディスコを思わせる世界観で、醒めてほしくない夢の中にいるかのように幻想的かつハイな気分になれる曲である。

3rdシングル「Follow You Follow Me」は、ハウス調な雰囲気で洗練されたメロディでありながら、ファンでも容易に真似ができる特徴的な振り付けがあったり、Music Videoではそれぞれのメンバーとのデート風映像となっていたりと、アイドルらしさも印象付けている。

2020年8月には、これらの集大成ともいうべき1stミニアルバム「Step by Step」がリリースされた。
これは、ミニアルバムと呼ぶには質的、量的にもったいないほどの完成度であった。

先述したようなシティポップ、ハウス、ディスコ調、そして目が覚めるようなゴリゴリのダンスロックなどなど....
収録されている多彩な楽曲は、それぞれの質の高さによって粒だち、その一方で兼ね備えるキャッチーさによって聴くものを置いてけぼりにしない。

全8曲がおしなべて良曲で、まるで目玉や皮、頭まで調理対象となるマグロのごとく、「捨てるところがない」名盤であった。

楽曲のリリースを経るごとに楽曲派アイドルとしての知名度を得ていく彼女たち。

しかしこれは同時に、曲の評価ばかりが先行してしまうという、不思議なジレンマも生み出すこととなった。
自らが曲作りに携わるアーティストであれば、曲の良さというのはそれ自体がアーティストへの評価に直結するが、基本的に作曲をせず受け身にならざるを得ないアイドルの場合、「曲の評価」とそのグループへの評価は必ずしもイコールでは結ばれない。

サンダルテレフォンの現状はまさにそれで、グループに関する絶賛のコメントは多いのだが、あくまでその対象は「曲の良さ」。
この評価のみに留まってしまっているところがどうしてもあった。

もちろん、アイドルであろうが、グループを知る入口として曲の存在は不可欠である。
ただ、そればかりの評価ばかり先行してしまうというのも微妙なところで、どうしても「入口止まり」な感は否めない。

かねてから、サンダルテレフォンのメンバーはツイッターで頻繁にエゴサーチをし、関連ツイートを見つけてはめざとくいいねしている。

だからこそ、ファンや興味を持った人達の生の声は多く目にしているのだろうし、評価される対象に偏りがあることの実感が強くあるのだろう。

メンバーが抱えるジレンマは、音楽メディアによるインタビューの際に残すコメントの、微妙な変化によっても見て取れた。

"とにかく楽曲を聴いてほしい"

2020年の夏頃、くだんのミニアルバム「Step by Step」のリリースを前にしてメンバーはこう口を揃えていた。

だが、同年秋頃のインタビューにて、あるメンバーから吐露された思いはこうだった。

"曲もいいけどもっとメンバー4人のことも見てほしい"

曲も、メンバーも、そのパフォーマンスも、全てひっくるめて好きになってほしい。
もどかしさが見え隠れするようなコメントである。

そんな葛藤を抱えつつも、サンダルテレフォンはCDリリースのペースを緩めず、2021年の年明けには1st EP「SYSTEMATIC」をリリースした。

表題曲のテーマとして打ち出されたのが
”ニュージャックスウィング(NJS)調とレトロ歌謡の融合”
これまでのグループの曲には無いジャンルだ。

NJS調が何たるかは分からないが、80~90年代の古き良き時代を思わせるような、セピア色が似合いそうな曲だ。
それでいて辛気臭さは感じない良い曲であり、初めて聴いたときから引き込まれるものがあった。

Music Videoの世界観も秀逸である。

天窓からうっすらと光が差し込む以外には光のたよりがなく、どこまでも深そうな地下のイメージのセットの中、チェック柄のロングコートのような、前開きの衣装を着たメンバーが踊っているカットが半分程度を占めてる。

衣装には、身体の中心を通り、腕や首周りへと伸びていくオレンジ色のラインが施されていて、地下に潜ったような薄暗いセットの中では痛いほどに際立っている。

それはこれまでリリースされた曲の「デート風」とか「ディスコの雰囲気」といった雰囲気とは明らかに一線を隠すものであり、ニコニコな笑顔ではなくかすかに微笑みながらパフォーマンスするメンバーの表情も印象的であった。

MVも含め、これまた出来が良いゆえに、またしても曲だけの評価に終始してしまうのかという懸念がよぎる。
しかし、そろそろその風向きも変わるのではないだろうか。

先ほど引用したインタビュー記事には続きがあり、くだんの

"曲もいいけどもっとメンバー4人も見てほしい"

というコメントのあとに、このような決意表明の言葉をメンバーは残している。

"曲に自分たちのスキルが負けないようにしたい"

実際、その誓いを行動で示すかのように、サンダルテレフォンはこのコロナ禍にあっても、コロナ以前と変わらないのではないかというペースでライブをこなし続けている。

イベント後にはメンバー4人で必ずその日のステージングを見返し、反省とともに次回ライブに繋げているという。

イベント数を縮小しつつあるアイドルグループがほとんどである中、地道に活動を続け、会える機会を作ってくれていることはありがたい。
目にする機会が多いことは、単純な接触効果としてみてもファンに対する間口の広さにつながる。

そして、メンバーの誓いと、こなしてきた活動の数々は、ライブチケットの売れ行きという形で結果を伴って現れてきてもいる。

コロナの関係で、平日の比較的早い時間に開演予定となっている定期公演や周年ライブは、まだ売り切れてこそいないがどちらも「△」や「残りわずか」な枚数となっている。

私が「風向きも変わるのでは」と書いた背景には、こうしてじわじわとサンダルテレフォンが浸透してきていることを実感しつつあるということもあった。

思えば、曲だけが注目されてしまうジレンマというのは、楽曲派アイドルが抱えざるを得ない宿命なのかもしれない。

しかし、ひとたびその葛藤を乗り越えた先には、今以上に素敵な景色が広がっているのではないだろうか。
あともう少しだ。

SNSにて彼女らが逐一エゴサする内容が、曲をさしおいてメンバー個人個人についてやパフォーマンスに関するコメントでいっぱいになるころには、彼女らは今よりもはるかに大きい舞台に立っているだろう。

近い未来に、そんな景色が見えるような気がしてならない。
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