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はじめてのヒゲダン

グッドミュージックを全身に浴びた日の話

 「最近さぁ、〝ナントカひげおとこ〟とかいうバンド、流行ってるよねぇ。」

 職場での雑談中、男性社員(40代)が発したこのひとことから、すべてははじまったのかもしれない。

 なんでもテキトーに覚える彼の通常運転に、思わず笑いながら私(30代)は言う。

 「それってもしかして、オフィシャルヒゲダンディズムのことですか?」

 「え、あ、そう読むんだ。それだよ。
プリテンダーって曲?再生回数とか、すごいんだよ。」

 「へぇー、そうなんですかぁ。」

 半年ぐらい前に、ラジオで何度か耳にしていた「Stand By You」という曲が気になって、バンド名だけは調べていた。

 (へー、あのバンド、今そんなに人気なんだ…)

 当時、いいなとは思ったものの、なぜかCDを買うでもMVを観るでもなく、ただその変わったバンド名だけが頭に刻まれ、日々は過ぎていた。

 男性社員のおかげで、名前だけ覚えてほったらかしだったはずのOfficial髭男dismのことが、私は急に気になり出した。
 その日帰宅すると、すぐにPCの前に向かった。
 (プリテンダーって曲だったっけ。MV観てみようかな。)

 「Pretender」だ。印象的なギターのイントロが流れる。
 映画のような素敵なMV。美しいメロディーと心地良いハイトーンボイス。曲全体に漂う切ない雰囲気…

 良いじゃない!!好き。
これは流行るのわかるわー。

 再生回数は…いちじゅうひゃくせん…わ、すごい!!
 (というかこんな超人気曲をスルーできていたなんて、どんだけボーッと生きてたんだ、2019年の自分よ。)

 それから何度か繰り返しこのMVを観たあと、そうだ、あの曲を聴いてみようと、「Stand By You」を検索する。
 初めてきちんとイントロから聴く。MVを観るのも初めてだ。
 うん、やっぱりいい…!!

 これで終わればよかったのだが、おすすめされる関連動画に手を出してしまったが最後。次から次へと出るわ出るわ、お洒落でキャッチーなPOPSの数々!

 ・・・なんなんだこのバンド!!!

 ようやくOffcial髭男dismについて調べてみる。

 山陰発ピアノPOPバンド。ほう。
 愛称はヒゲダン、と。
 グッドミュージックって、自分らで言っちゃうのね。まいいか。
 ボーカルの人はもともとドラマーだったのか。どうりで。

 彼らの曲は、キレがいい。どの曲もリズムが良くて、メロディーが覚えやすくてすぐに歌ってみたくなる。
 洒落た中にもどこか泥臭さのようなものがあって、そこが自分にはグッときた。

 そして、公式にアップされていたライブ映像によって、私はさらにヒゲダンに魅かれることになる。

 4人の、音楽をやれることが何より幸せ!といった感じの、笑顔いっぱいの演奏。観客と一体となった熱いパフォーマンス。
 さっきまで分析のようなことをしていた自分がなんだか恥ずかしくなるほど、ただただかっこよかった。
 そんな映像を繰り返し観ていたら、当然こうなった。

 ・・・絶対行きたい!!
 一緒にスタンバイユ、したい!!!


 さっそく東京近郊で行われるライブのチケットの抽選に応募するも、すべて落選。
 (やっぱりすごい人気なんだぁ…)

 こうなると、ますます行きたくなってしまうものだ。
 なんとか情報をかき集め、名古屋での招待制のライブがあることを知る。
 ライブに遠征などしたことがなかったが、この悶々とした気持ちをどうにもできず、思い切って応募した。すると、数日後にメールが届いた。

 、、、、、当選、、、、!!!

 「わ!!!」
 大きな声を出して、家族をびっくりさせてしまった。

 当たっちゃったよ・・・一枚・・・。

 喜びも束の間、私は急に不安になった。
 ひとりでライブハウス?しかも遠征…方向音痴だし…
 初めてのヒゲダン、初めての名古屋、初めての一人参加ライブ…いっぺんにたくさんの初めてを抱えることになり、私は少し弱気になった。


 いよいよライブ当日。
 思いっきり楽しもうと、この日までにたくさん曲も覚えた。
 あの曲、やってくれるといいな。緊張しながらもそんなことを考えていたら、新幹線はあっという間に名古屋へ到着した。
 たくさんの初めてに不安を抱えながらも、幸いすべてはスムーズに進み、無事ライブハウスにたどり着いた。
 整理番号順で、私たちのブロックは一番最後の入場だった。待っている間に近くの人たちと話したりしていると、これまでの変な緊張がとれ、純粋にライブへのドキドキ感だけが高まっていった。

 ようやく中に入ると、フロアはもう人でぎゅうぎゅうだった。
 (…これじゃほとんど見えないかもな…)


 ドキドキが最高潮の中、いよいよライブがはじまる。

 …本当に、ヒゲダンが演奏してるよ…!!
 当たり前のことに感動して、一曲目はあまり覚えていない。

 「初めましての人も、いつもありがとうの人も、一緒に音楽を楽しみましょう!」

 ボーカルの藤原聡は、確かこう言って私たちを盛り上げてくれた。

 それからはもうグッドミュージックのオンパレード!
 予習してきた、あの曲も、あの曲もやってくれた。
 メンバーのキラッキラの演奏、(きっと)最高の笑顔、想像以上に胸のど真ん中に届く歌声。
 自分の身体がどんどん熱くなっていくのを感じながら、夢のような時間は流れた。


 最後の曲と言って、「宿命」がはじまる。

 迫力あるブラスの音が鳴り響く、圧巻のパフォーマンス。
 前の人の頭と頭の間から見た、ステージを縦横無尽に動き回る藤原聡の姿は、私には神々しいとさえ思えた。

 ・・・かっこ・・いい・・・

 心の声が漏れていた。


 そしてアンコールに戻ってきて、本当に最後の曲、「Stand By You」。
 この曲が一緒に歌いたくて、ここまで来たようなものだ。
 私は、手のひらが真っ赤になるほどクラップをし、喉がちぎれそうなほど声を出し、肩が外れてしまうんじゃないかと思うくらいに腕を伸ばした。

 顔が、姿が見えなくたって、関係ない。

 私は、身体中でヒゲダンの音楽を感じていた。

 家のPCでさんざん観た、素晴らしいライブの一員に、今、自分がなっているのだ…!!


 音楽から元気をもらう、とか、勇気をもらう、という表現は、あまり好きではない。
 けれどこの日の私は、間違いなく音楽に与えられていた。
 まっすぐに飛んでくるハッピーを、受け止めることに必死だった。
 こんなにも、自分が今ここにいると感じたのは、生まれて初めてだったかもしれない。


 夢のような時間が終わった。


 びっくりするぐらい汗だくのシャツ。
 ぬるくなったペットボトルのお茶。
 帰り道の夜風の気持ち良さ。


 これからまた、たくさんの初めてに出会いそうだ。
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