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エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開を前にして

「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」
 碇シンジ役の緒方恵美がナレーションする「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の本予告が解禁になってひと月半。コロナ禍における緊急事態宣言により二度目の公開延期となり、未だその全貌は不明、そして宇多田ヒカルの新曲もお預けを食っている状態である。昨年春の公開延期の時点ではテーマソングを宇多田が続投することは発表されていなかったため、今回はその最新曲「One Last Kiss」の存在は明かされつつのお預け状態だ。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の完結編にして「エヴァンゲリオン」シリーズ最終作となる「シン・エヴァ」に宇多田が書き下ろした新曲、というだけでファンやリスナーの期待値は尋常なものではないだろう。それほど、宇多田ヒカルとエヴァンゲリオンのつながりは根深い。

 宇多田は2017年に初めて出した歌詞集「宇多田ヒカルの言葉」の中で、その時点までの自分の楽曲を3つの活動期に分類している。第1期が1stアルバム『First Love』(1999年)~2ndアルバム『Distance』(2001年)まで、第2期が3rdアルバム『DEEP RIVER』(2002年)~5thアルバム『HEART STATION』(2008年)まで、第3期が『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』(2010年)以降、という分類だ。
 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」テーマソングとして書き下ろされた楽曲は3曲あり、2007年の「Beautiful World」は第2期に該当、2012年の「桜流し」は第3期に該当するが、第3期の2011年~2016年春までは一時活動休止期間であり、「桜流し」はその休止期間中に書かれた楽曲で、どちらと言うより第2期と第3期をつなぐミッシングリンクとなる歌のように感じる。そして今年2021年の「One Last Kiss」は、まだワンコーラスのみの解禁だが、第3期も成熟が進む中で(もう既に第4期と言えるかもしれない)“今の宇多田ヒカル”を象徴するテイストを感じさせる楽曲だ。

 「エヴァンゲリオン」シリーズは、物語の構成や展開こそ難解としても、それぞれが抱える問題やトラウマ、直面する事態は、セカンドインパクトや使徒、エヴァのいない現実世界においてもなんら変わらないテーマを映している。宇多田ヒカルの曲もそうであり、アプローチこそ異なっても楽曲の中で歌われる人物やテーマ、背景は普遍的であり、人間同士の繋がり・孤独、生きることの辛さ、それでいて生と死は表裏一体で成り立っていることをいつも歌っている。そして宇多田自身が音楽を作ること・歌うことを選ばざるを得ないカルマそのものが、シンジがエヴァに乗らざるを得ないエヴァンゲリオンのテーマとも共通している。

 2007年の「Beautiful World」は、過去の「新世紀エヴァンゲリオン」のファンであった宇多田が、それまでのエヴァの登場人物や世界観を表現した楽曲であり、テーマソングとしては「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」に起用されているが、「エヴァンゲリオン」シリーズを通してもテーマソングとなり得る楽曲。「もしも願い一つだけ叶うなら 君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ」という歌詞で始まる楽曲だが、このワンフレーズだけでも「エヴァ」の主人公・碇シンジが、記憶にもない死んだ母親の姿を探し続けて葛藤する姿に重なるだろう。と同時に、個人的には「伊勢物語」の「葎の宿」と呼ばれる「思ひあらば葎の宿に寝もしなむ ひじきものには袖をしつつも」という歌を思い出す。かなり意訳をすると、「あなたが私を想ってくれているならば、雑草の生い茂ったあばら家でも一緒に眠りたい」というような内容。「Beautiful World」は極めて古典的、かつ究極の「人を想う」歌であり、それが「エヴァ」のテーマを凝縮していることがよく分かる。

 2012年の「桜流し」は、宇多田の一時活動休止期間に発表された唯一の楽曲。もちろん「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」への書き下ろしで、その背景には2011年の東日本大震災がある。「もう二度と会えない なんて信じられない まだ何も伝えてない まだ何も伝えてない」という歌詞は、明らかに現世にいない人へ向けて歌われており、「Beautiful World」のように「君の側で眠る」ことなど叶わないのが決定的となっている。それでも歌詞は「全ての終わりに愛があるなら」と締めくくられ、「愛」の存在を確信していることが歌われている。テーマソングとして起用された「新劇場版:Q」においても、それまでの新劇場版2作品とは打って変わり、不可逆的な絶望の世界で、それでもそこに生き、希望を見つけようとしている人々を映す。震災の翌年に発表された映画・楽曲として、おそらく未来から見ても当時の世相を閉じ込めた異質な空気感を感じさせることだろう。

 あれから9年ものブランクが開き、いよいよ「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズが完結する。近年の宇多田ヒカルの楽曲は、フルサイズで聴かないと曲の展開が全然分からないという特徴があり、今回の新曲「One Last Kiss」もまだ聴けてない後半がどういった展開になっているが楽しみでしょうがない。第2期の「Beautiful World」、第3期の「桜流し」、そして「One Last Kiss」と、単に「エヴァンゲリオン」のテーマソングとしてではなく、プライベートでも音楽家としても様々なフェーズを経た彼女の変遷を感じられるに違いない。活動再開後の彼女の音楽としては、歌唱テクニック云々だけでなく、よりクリエイターとしての「遊び」を感じることが多く、それでいてシンプルであることに重きを置いているように思う。「One Last Kiss」のワンフレーズを聴く限りも、あからさまに派手であったり凝っている印象は持たさず、しかし聴きこんでゆくとこんなコーラスもあるんだ、こんな音も入っているんだと宝探しのような気持ちになれる。それは昨年発表された「Time」や「誰にも言わない」の系譜でもあり、エヴァのテーマソングでありながらもしっかりと“今の宇多田ヒカル”としての楽曲になっていることに感服させられる。

 果たして「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開、そして「One Last Kiss」をフルサイズで聴けるのはいつになるのか。新しいモノに触れるのはいつも怖くなるくらいドキドキするが、デビューから20年以上を経てなお変化を続ける宇多田ヒカルの姿を、全身全霊で捉えていきたい。
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