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恋愛の終わりのあなたたち

メガマソ『脂肪の塊』によぎる疎外

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何か悪態つく考え、まあ訪れるのです。
頭をよぎる鬱陶しい華茸。
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どきりとした。恋愛の終わりは何時だって相手と私の世界を横断する何者かによってはじまる。
それは魅力的な他人かもしれないし、学業や仕事かもしれない。たったひとつの相手の発言かもしれない。しみを溢してしまったところからじわりじわりと侵食するように、崖がぼろぼろと崩れ落ちるように、〈私とあなた〉だけで構築された世界から私の足の踏み場をなくしていく。


メガマソの『脂肪の塊』(2006年12月06日発売『涙猫』所収)は、モーパッサンの小説から題をとっている。
小説のあらましはこうだ。
時は普仏戦争の真っ只中。
"脂肪の塊"と呼ばれる娼婦は、戦火を逃れるため馬車に乗り、乗り合わせた人々に食事を分け与える。聖職者や貴族、革命家。階級の異なる人々が乗った馬車は道中敵軍により足止めされ、一行は宿屋に抑留されてしまう。
馬車を動かす条件は、"脂肪の塊"が敵軍の兵士と寝ること。"脂肪の塊"は一行に説得され、敵軍の兵士と一夜を共にする。
出発を許可され無事宿屋を出た一行は"脂肪の塊"を穢らわしい存在として眼差し、抑留されている間に入手した食事も分け与えない。"脂肪の塊"はただ涙をこぼすのみである。


〈私とあなた〉の世界があるのなら、それは幸せなことなのかもしれない。"脂肪の塊"は〈私とあなたたち〉の世界に生きている。
〈私とあなた〉の、うっとりとするような盲目的な対比は"脂肪の塊"にはない。はじめから〈私とあなたたち〉の間で断絶されているのだ。
〈私とあなた〉であれば二人しか知り得ないことは、"脂肪の塊"と敵軍兵士が行う公然の事実として扱われ、それゆえ忌避される。
〈あなたたち〉を救いあげる手は汚れている。
たった一夜の出来事。
〈私とあなた〉が思いあう夜と何が違うのか。

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何か素晴らしいヒントが、いつも得られるのです。
頭をよぎる鬱陶しい華茸。
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恋愛のはじめ、メガマソはこう歌詞を紡いでいた。
終わりがはじまるときには「悪態つく考え」にすりかわってしまった、「素晴らしいヒント」。

"脂肪の塊"は、立場に関係なく、食事を分け与えていた。
与えられた一行は、"脂肪の塊"に食事を分け与えない。

〈私とあなた〉の構造は、夜を過ごすうち、〈私とあなたたち〉にすりかわってしまったのだ。

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百夜を過ごした二人は、用意されたシナリオをうけて、両思いの期限を数え始めているのです。
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相手と私の世界を横断する何者かが訪れて、「鬱陶しい華茸」を受け入れはじめた〈あなた〉は〈あなたたち〉になっていく。
変わってしまった〈あなた〉の姿が見えなくなる。両思いの期限を読みちがえた私は、もはや群衆のひとりとなった〈あなた〉に呼び掛けることができない。私は疎外される。
与えた食事は、与えられることはなくなってしまった。

"脂肪の塊"の声を聞く者は誰もいない。同じ馬車に乗り合わせていても、「用意されたシナリオ」は終わったのだ。一夜を過ごしたことによって。

夜が明ければ、"脂肪の塊"の行いは人々にとって蓋をしたいものになる。
"脂肪の塊"を敵軍兵士に捧げるという「素晴らしいヒント」は、朝陽が昇ればあの穢らわしい行いを覆いつくすための「悪態つく考え」に顔を変えてしまう。

私を与え、あなたが与えてくれたいくつかの恍惚の夜は、とどのつまり、光を浴びて「醜嘆に祀ろ」い世界の外に追い落とされてしまうものに過ぎなかったのだ。
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