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手を伸ばし、デペッシュ・モードに触れるんだ。

DMの作品は四年に一度のお楽しみ。

私は長いこと、日本の音楽雑誌は読んでいても、日本で流行っている音楽そのものには、諸手をあげて迎合できなかった。自分の好みのミュージシャンが日本で流行っていなかったり、逆にあまり好みでない人が、日本でデカく扱われてきたからだ。もっとも、自分の好むアーティストが、みんな日本で受けている、という状況のほうがヘンかもしれない。そういうことは経験上、仕方のないこととして受け入れている。十代のときと違って、私もある程度大人になったので。

デペッシュ・モード。彼らほど、欧米での人気と日本での受け入れられ方に乖離がある人たちもいないだろう。1990年以来、彼らはバンドとして日本でライブをしていない。1990年といえば、『ヴァイオレーター』の年である。「パーソナル・ジーザス」「エンジョイ・ザ・サイレンス」以降のデペッシュの曲は、日本で演奏されていないのだ。北海道での私みたいな後追いファンも、これにはずっと不満である。日本ではあまり売れないバンドだから仕方ないのかもしれないが、釈然としない思いであった。

たしか『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』で彼らを知り、『ヴァイオレーター』『エキサイター』で彼らを知った。西暦2002年のことだった。札幌市内の中古店で『ミュージック・フォー・ザ・マスィズ』『ブラック・セレブレーション』の国内盤CDを見つけて買った。そのなかで、「ネヴァー・レット・ミー・ダウン・アゲイン」を知った。「ベストフレンドと一緒にドライブしている。二度と落胆させられたくない」という、軽めのポップソングだが、成熟してかつポップなシンセサウンドがツボに入ってしまった。それと「ビハインド・ザ・ホイール」「ナッシング」、これは特に好きになれた。マーティン・ゴアの作る曲は、いわゆる欧米のポップスではない。東欧のことについてはまったく知らないが、ドイツ的武骨さがある。それに欧州的な陰影が加わっており、十代だった私にはたまらなく魅力的だった(我ながら嫌なガキだったと思う)。

『デルタ・マシーン』以降、彼らはセールスという概念から、完全に足を洗って、完全に内輪でデペッシュ的価値観を作り出しているように思う。『サウンズ・オブ・ザ・ユニヴァース』は辛うじてポップスだったが、彼らも老練してきて、世の中に迎合するのをやめてしまったのではないか。ついこの間、マーティンのEP『ザ・サード・チンパンジー』がリリースされたが、全5曲、純粋な欧州の音楽で、売れ線とはかち合わないものだった。私のようなファンは喜んで聴くが、今の若い人は聴かないだろうな。

マーティンの作る音楽は、ある種のクラウトロックではないだろうか。統一以前のドイツで、クラスターやクラフトワークが作っていたものだ。クラスターはブライアン・イーノとコラボしていたこともあったが、音響が暗く、東ドイツの人間に向けて作っていると言わんばかりのものだった。ついこの間逝去したジョン・ル・カレに『寒い国から帰ってきたスパイ』という作品があるけど、ロシアや東欧は寒い。米原万里の本にもその凄まじさは書いてある。私の住んでいる北海道もかなり寒いが、厳冬のロシアほどではないだろう。ともかく、ハンスやディーター、そしてクラフトワークのつくる音楽は、陽気な西欧ポップスではない。寒い国の人間に向けて作ったものだ。マーティンについてもそれは言えるのでは。

デペッシュの音楽の奥深さがわかるものとして、『Remixes 81-04』『Remixes 2: 81-11』がある。過去から現在の曲がリミックスされているが、リミックスする側もDMの奥深さを楽しみながら行っているとわかる。「パペッツ」「パーソナル・ジーザス」「アイ・フィール・ラヴド」がポップになっている。クラフトワークの曲をテクノポップ化したら、こうなるのだろうとわかる。「Remixes 2: 81-11」に関しては、国内盤が出ていないが、我々デペッシュのファンには、国内盤など必要としないのだ。

ストリーミングの世の中になっても、彼らは2017年に『スピリット』を発表。未だに健在である。同じイングランドのニュー・ウェーブ、ニュー・オーダーやペット・ショップ・ボーイズらも高齢化し、あまり活発ではなくなっている。マーティンもデイヴもアンディも、還暦近くなっている。以前のようにはいかないと思う。いつまでも「リーチ・アウト・アンド・タッチ・フェイス」ができるかは、ファンとしても不安だ。一昨年、ペット・ショップ・ボーイズが老いたにも関わらず『ホットスポット』を発表した。未だに彼らが「ウエスト・エンド・ガールズ」をやっているのには感嘆する。これを書いている私も、ストレッチをして標準体重をキープしようとしている状態だ。

80年代風のニュー・ウェーブも、90年代グランジも、PSBが嫌っているEDMも消滅している状態だ。デペッシュはライブで「ヒーローズ」を歌った。そもそもデイヴはオーディションでこれを歌っていたのだった。それを考えると、デヴィッド・ボウイの功績のデカさにたびたび敬服するばかりだ。ボウイがデペッシュを生み、デペッシュ・モードらがグランジの起爆剤になったことを考えると、あらためてロックというものは偶然の重なりで発展していくのだと思う。今、廃れたと思っている文化も、確実に次代の何かの芽吹きになっているのだ。
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