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サイダーガール自主企画「ぼくらのサイダーウォーズ4」の記憶

They keep moving forward!

深夜3時、ライブに行くためだけに350㎞先の目的地をカーナビにセットした。
早く生の音を聴きたい。
   “口ずさむメロディーは未来地図に 
    掻き鳴らすEコードはコンパスに”
『飛行船』でお気に入りのフレーズだ。
セットリストに入るであろうこの曲を口ずさみながらインターチェンジをすり抜けた。

多くの人がそうであるように私にも遠征するために越えなければならないハードルがいくつかあり熟考して決めている。
それがどうだ、今回は名古屋でのワンマンライブに悩むことなく申し込んだ。



開演予定時間を5分過ぎたあたりで照明が落ち、それまでになかった緊張感が客席を包み込む。
サイダーが注がれ炭酸が弾けるいつもの登場SEを私の耳が期待した。が、流れたのは2020年9月に行われた配信ライブroom726のSEだった。
それに動揺している間にフジムラ(Ba.)と知(Gt.)が下手から入場する。いつもの順番だ。その後いつもの間より長かったように感じた。Yurin(Vo.&Gt.)がステージに登場した。
声が出せるなら「お帰り!ありがとう!会いたかったよ!」と叫びたかった。それが出来ないから精一杯拍手する。

1曲目の『飛行船』もサビに入ろうというのに自分がライブ会場にいる実感が湧かず、サイダーガールが目の前にいる現実を信じられないでいた。
鼓膜に強い圧を感じ軽い眩暈を覚えた。イヤープロテクター装着という開演前のルーティンを忘れていた。
それほどに空白期間は長すぎた。

続けて『エバーグリーン』『ばかやろう』と続く。ここまで中止になったツアーと同じ曲順だ。未練がましく中止になったツアーのセットリストをプレイリストに登録し聴き続けていたから忘れるわけがない。
『エバーグリーン』のイントロで目頭が熱くなった。
今年の夏は生でエバーグリーンを聴けなかった。夏フェスも無い、季節感を感じず過ごした夏はとても味気ないものだったと切なく思う。



話は1年以上前に遡る。2019年10月にアルバム発売と全国15箇所ワンマンツアーのお知らせが届いた。その内容に心が躍り、ツアーファイナルの「新木場STUDIO COAST」の文字に興奮した。STUDIO COASTの外看板に「CIDER GIRL」の文字が入るのかと思うとそれだけで涙がこぼれた
そのワンマンツアー「サイダーのゆくえ-SPRING HAS COME-」が2020年3月14日からスタートする予定だったが、その後どうなったかは言うまでもないと思う。中止ではなく延期として日程を変更していたがそれも叶わず全公演中止になった。
「サイダーのゆくえ-LIVE IS COMIN’BACK-」とツアータイトルを変え延期公演を開催予定だったのに。
どこにぶつけたら良いか分からない怒りを感じ、メンバーや関係者の気持ちを考えたらいたたまれない気持ちになった。
その後東名阪ワンマンライブ「ぼくらのサイダーウォーズ4」開催決定がroom726にて発表される。
初日の名古屋は参加できる日程であるし何より早くサイダーガールに会いたいという気持ちから東京2公演と同時に申し込んでいた。
遠征に向けて準備を続ける中、感染状況は急速に悪化した。後ろめたさを感じつつもキャンセルする気はなかった。
「大丈夫。2週間健康に気を付け検査の結果も問題なかった。感染しないよう過ごし準備してきた。」そう自分に言い聞かせた。



そうして迎えたツアー初日、10か月ぶりのライブハウスに入場すると椅子が並べられたフロアが視界に入る。いそいそとお気に入りのポジションを確保するいつもの入場とは違い、私はゆっくり自分の指定席を探した。
ステージには見慣れない小道具。大きな旅行鞄やランタンにガーランド。room726を思い出させるセッティングに期待が膨らむ。
声は出せない、距離を保たなければならない、制限ばかりのライブ。でも目の前で演奏を聴けるのだからそんなものは我慢のうちに入らない。むしろルールを破って迷惑をかけることの方が怖い、このライブはみんなの協力の上に成り立っているのだ。

そんな気持ちで臨んだライブだからこその号泣、ぐずぐずである。3曲目ですでにマスクの中が暑い。一挙手一投足を見逃すな!乗り遅れるな!そう自分自身を鼓舞した。

フジムラの曲の中で好きな『グッドモーニング』。『飛行船』を初めて聞いた時この曲を思い浮かべた。旅立ちの曲、前に進むための曲という共通点を感じたのだ。2020年ほど実りが少なく停滞を余儀なくされた年はなかったけれど「少しずつ前に進もうじゃないか!」と背中を押してくれる。
   “佇んでいた僕の背中に そっと追い風が吹く 翼を広げてみる
    今ならもっと飛べる気がする”

   “あーあ 何にもやりたくないわ(夢の中でも眠っていたいなぁ)” 
『なまけもの』で緊張が解け完全にリラックスしてライブに向き合えた気がする。定番曲の安心感とこの曲が持つ脱力感にホッとする。

「みんなの憂鬱を吹き飛ばそうぜー」のYurinの掛け声とともに始まる『メランコリー』。いつもは中盤以降に持ってくることが多いイメージのこの曲。このコロナ禍でメランコリックな気分の人は多いことだろう。3人からの(そんな気持ち、さっさと蹴り飛ばしてやれ!)というメッセージなのかな、と勝手に受け止めた。
それにしてもサイダーガールの定番曲は何度ライブで聴いても聴き飽きることがない。

『シンクロ』『落陽』
アニメ、ドラマタイアップ曲が続く。『落陽』は知らしさ、サイダーガールらしさ全開のギターロック。センターに陣取っていたけれどこの曲は上手側の知に魅入ってしまう。
知はライブでピックをよく投げる。近くに遠くに器用に投げる。渋谷WWWで客席3段目まで飛んでいるのを見たときは驚いた。
今回はそんな職人芸もお預け。こんなところにも影響が?と思うと不謹慎だけど少し笑ってしまった。

彼らからしたら親世代であろう私は大人炭酸系楽曲『ナイトクルージング』が大好きである。彼らの代名詞、炭酸系サウンド。爽やかPOPな楽曲をサイダーに例えるならナイトクルージングはきめ細かい泡立ちのシャンパンのようだ。
ワンマンのセットリストに入ることが多い曲をこの日もリズムに身を任せゆらゆら聴いていた。

しっとりした雰囲気から一転room726同様フジムラのベースソロからその曲は始まった。
隣で腕を組み先生のような表情で見守るYurin。あ、終わったかな?と思ったタイミングでYurinも拍手をする。終わってなかった。そしてソロ演奏が終わると「終わってないのに拍手しちゃった。ごめんね。」と。
『フューリー』は2020年1月に行われたSODA POP FANCLUB 3リリースパーティーで披露されなかった。その時は(もうすぐツアーだしすぐ聴けるよね)と思っていた。room726で聴けたがやはり演奏は生に限ると実感した曲。バチバチにかっこいいベース音が六腑を震わせる。

3人それぞれ曲を作っていることがサイダーガールというバンドの最大の魅力で強みだと思っている。
各々が曲を作るからこそ各々がやりたいことを取り入れ、それをすり合わせ、結果色鮮やかな楽曲になるのだと。だのにサイダーガールらしさという芯はブレない。彼らのアルバムはどの曲がシングルカットされても不思議ではない楽曲が詰まった宝箱だといつも思う。

先日のroom726で
「俺ら陽キャだったら今みたいな曲作れてない」(Yurin)
「渇望しているからね俺ら(笑)」(知)
と言っていた通り、決して卑屈ではないポジティヴな“陰”を持ち合わせた曲が多い。私はそこに共感するし彼らの曲のおかげで“陰”を抱えながら進んで行くことが出来るのだ。

room726で聴いたSEに待ち焦がれた曲だと直ぐに気が付いた。やっと生で聴ける。崩れ落ちないよう嗚咽を漏らさないようぐっと耐えた。
   “雨の中一人立って俯いていた 暗い街は今日も冷たくなっていった
    君は空を見上げながら僕の手を取った 光が見えた気がした”
で始まる『アンブレラ』、柔らかい歌声にいよいよ涙腺が崩壊した。
   “世界は勝手だ なあ神様 不完全な僕らは 
    望んじゃいないんだ 今以上も以下も
    本当勝手だ わかんないよ 人生は面倒だ それでも君と生きたい”
『アンブレラ』、SODA POP FANCLUB 3の中でもダントツにこの曲が好きだ。サイダーガールの楽曲の中でも大好きな曲になった。
ピアノの音がキラキラと光って聞こえる。この数か月私を助けてくれたのは間違いなくこの曲だった。ライブという楽しみが奪われ、課せられた責務が苦痛でしかなかった私を救ってくれた。私は我慢することを諦め感情に任せて号泣した。この曲を生で聴けただけでも無理して遠征した価値があったと思う。

雨音のSEとともに始まった『雨と花束』をYurinがゆったりと歌い上げる。
『アンブレラ』のピアノとは対照的にバスドラムのリズムが雨音を連想させる。
先のアンブレラと同じYurin作の『雨と花束』。もともとこの曲が大好きでライブで演奏されれば涙なしでは聴けない曲である。『アンブレラ』を初めて聴いた時から『雨と花束』のアンサーソングではないかと思っていた。それくらい対な曲だと。SODA POP FANCLUB 3発売当時に「雨と花束からアンブレラで続けての演奏あるのでは?」と予想していた。
   “「またね、君がどんな風な大人になっていくか知りたいな。」
    それが叶わないとしてもいつまでもあなたのままで” 『雨と花束』

   “人生は面倒だ それでも君と生きていく”
   “一緒の傘で明日は歩んで行こう” 『アンブレラ』
別れをイメージさせる曲『雨と花束』から前向きな曲『アンブレラ』の順で演奏されれば嬉しいな、という素人考えだった。
   “過ぎていく時の中 あなたは変わっていく
    それでも立ち止まって振り返れば花は咲いている
    寂しさはどうか捨てないで 雨音と寄り添って生きるなら
    花束を贈ろう いつか会う日々へ”『雨と花束』
彼(彼女)は変わっていく“あなた”とは対照的にその場を動けないで佇み時が止まっている。いつか会う日々は訪れないだろうし“あなた”が振り返ることもないだろう。自分が経験した別れを思い出しては胸が苦しくなり絶望すら感じるがそれでもこの曲が大好きなのだ。だがせめてこの曲の後には光と希望を感じる『アンブレラ』を聴かせてくれ!と心が叫ぶ。
この曲順についてはライブ後しばらく私の頭を悩ませた。もしかしたら大好きな曲なのに今まで解釈違いをしていたのか?とも考えた。(その結論は未だに出ていない)
全公演中止になったSPRING HAS COMEツアーでもこの曲順の予定だった。そこにこめられた拘りを知りたいと今でも思っている。

Yurinの「またいつか皆で歌える日を願って」というのは私たち観客が任される『ドラマチック』のサビの事であろう。
耳に心地よい低音のAメロから高音でサビへと一気に駆けあがる。
   “響いて 絞り出した声だけど”
高い天井へ突き抜けるようなその声に心が震える。

『これから』は5月にYouTubeで限定公開された新曲だ。
一瞬曲名が思い出せなかった。公開されたときはあんなに聴いていたのに。
  春の全国ツアーが全公演延期になってしまいました。
  その代わりと云っては何ですが、自分自身の目線で、等身大の歌を作り
  ました。
  そんな歌から、感じて受け止めたものがあるならば、それをあなた自身の
  思いに変えてもらえたらいいなと思います。
  サイダーガール
  (YouTubeサイダーガール公式チャンネルより引用)
名古屋・新木場・渋谷でこの曲を聴き、次第に完成度が上がっていくのを感じた。
楽曲というのは生で演奏されてこそ命が吹き込まれるし、生で語り掛けるからこそ聴き手の心にダイレクトに響くのだ、と実感した瞬間である。

フジムラが「少し泣きそうになった」とのMCを受けてYurinが話し出す。
「ライブが始まっても泣くまではなかったんですけど、お客さんで汗かもしれないんですけど泣いているのを見たらさすがに泣けてきました。まぁ汗かもしれないんですけど」
客席前方センターで汗を拭きながら号泣してた私は少し恥ずかしくなったが、それほどに皆このライブを喜んでいる、その気持ちが少しでも伝わったならそれでいい。

後半戦という寂しさからかここからの記憶があいまいである。誰のライブでもそうだ。終演が近づくにつれ寂しさが勝ってしまう。

いつもはゆるい、悪く言えばぐたぐたとしたMCが特徴でそれが良いのだが、今回は重く聞き手の心に響くMCが多かったと思う。
「直前にこんな状態になって開催するのも躊躇われたんですけど。でもそんな中、無理をされたり危ない中来てくれてありがたいです。」(知)
「これからもライブが出来るように頑張ります。でも「早く満員の会場でライブがしたいです」って毎回言わなきゃいけないのつらいなぁ」(Yurin)
冗談に聞こえなくて鼻の奥がツンとした。今思い出しても涙が出る。

昨今無観客配信ライブが新しいライブの形として認知された。配信ライブのメリットも多々あるので有料配信ライブはアフターコロナの世にも存在してほしいと思っている。だが演者にとってはどうだろうか。ステージから最高の景色を見ながらパフォーマンスできる世の中に早くなってほしいと思う。

ラスサビ前Yurinの「歌えますか?」がない『パレット』。
“あなたの目に映る この姿が 消えることがこんなにも苦しいとは”マスクの下で声を出さずに口を動かした。

いよいよ楽しい時間の終わりを感じ『約束』でいつもより強くこぶしを突き上げた。このこぶしに込めた力が貴方達に届けば良い。そう願っていた。

「自由に身体動かそう!」の掛け声で『週刊少年ゾンビ』のイントロが流れる。
寂しさも忘れ気づけば飛び跳ねていた。久しぶりのジャンプに軽く疲労を覚え本編が終了した。

大きな拍手を受けて3人が舞台袖に帰る。アンコールの拍手は鳴りやまないが私は脱力して座り込んでしまった。声出しがNGだからではない、フロアにいる誰もがサイダーガールに圧倒されて声を出せなかったように思えた。
惚けているとツアーTシャツに身を包んだメンバーが戻ってきた。

知が鍵盤ハーモニカを抱えたことでアンコールの曲を察し目頭が熱くなった。
   “帰っておいでよ 帰っておいでよ 歩き疲れたら帰っておいでよ”
   “風の朝も雨の夜も いつだって僕は此処にいるから
    おなかがへったら帰っておいでよ”
昨年1月に発売されたSODA POP FANCLUB 3に収録されている曲だが、今日にこれほどマッチすることになるなんて作ったフジムラも予想していなかったのではないか。前のお客さんがすすり泣く様子が見えた。「僕はライブがしたくてバンドをやっているから本当につらかった」というフジムラのMCが思い出される。辛いのはチケットを払い戻した私たちだけじゃないのだ。
 
   “ただ過ぎる日々は 僕のことなんて
    見向きなどしてはくれないことでしょう
    ねえ瞼の裏に焼きついた夢を見させてよ”
アカペラで始まった『ラスト』。
スタンドマイクをガッと掴みいつもより前のめりで歌うYurinに胸が熱くなる。
   “希望を持っていい その瞳に 不安もいつかきっと明日のための光になる”
力強く客席に気持ちを飛ばして歌う姿。この曲だけではない。何かと戦わざるを得ないファンへのエールを終始歌詞の端々に乗せて歌っていたのが印象的だった。
最後の最後までサイダーガールに元気をもらえたセットリスト。

「お体を大事に、またみなさん元気な姿で会いましょうね。」
2時間弱のライブは締めくくられた。

「声が出せないとか制限が多いので、せめて目で楽しめるようにセットに拘りました。秘密基地みたいでしょ?ぜひ終演したら写真撮って帰ってください」(知)と話があったのでありがたくステージを撮影し会場を後にした。



そして12月17日の新木場STUDIO COASTと年が明けた1月7日のLINE CUBE SHIBUYAに私は参加しこのツアーを終えた。
1月7日は再度一都三県の緊急事態宣言が発令された日だ。
その日のMCで「今日来た方も来ない選択を取った方もどちらも正しい。」と話していた。また「(今日のライブに来ることで)後ろめたい気持ちもあったでしょうが、楽しい気持ちで帰ってくれると嬉しい。」とも。
「感染が拡大している中、皆さんが来てくれなけばライブが出来なかった。ありがとうございます。」の言葉も今ツアーで何度も聞いたが私はそっくりそのまま感謝の気持ちをお返ししたい。

この数か月でアーティストの活動休止や解散、ライブハウス閉店のお知らせを見てきた。ライブハウスに通うようになって30年以上経つがこれは危機と言えると思う。
サイダーガールもライブ終了後に次のツアーやお知らせが発表されることが多いが新木場までその告知が一切無かった。
私はそのことで胸中がざわついていた。
ツアーファイナルで「このステージが最後かもしれないって思った。」と聞いた時にはたとえ話だと分かっていても気が遠くなる感覚を覚えた。
だからこそアンコール後、暗いままの会場に再度拍手が響く中、スクリーンに映し出された全国ツアー「CIDERGIRL ELEVEN DAYS KITCHEN TOUR 2021」の文字に涙がこぼれた。
次の約束があるということ、これが生きる糧になるのだから。

こんな世の中でバンドとして存在し活動を続けてくれる、こんなに有難いことはない。ファン側のエゴかもしれないがいつまでもいつまでもサイダーガールの音が続きますようにと願ってやまない。

最後に、彼らはメディアに顔を出さずに活動している。ライブ会場でだけ彼らの顔を見ることができるのだ。
ぜひ3人の表情を、生の演奏を、歌声を体験してほしい。やり直しが出来ないライブならではの魅力を、音源だけでは伝わらないサイダーガールの魅力をあなたもきっと感じるはずだ。
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