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冥界の王、帰還。

見事メジャーに返り咲いたSUPER BEAVERというバンド

あれは2020年の春頃だった。
「SUPER BEAVER」というバンドの名を様々な音楽メディアで目にした。

《SUPER BEAVER メジャー再契約》

バンド名は知っていた。
ドラマの主題歌を担当していた事もあったから、知っている曲もあった。

「メジャー再契約ってことは、インディーズだったのか…」

少し驚いた。
ゴールデンタイムのドラマ主題歌も担当していたり、ライブもアリーナクラスの会場を埋めているイメージがあったから、メジャーでバリバリやっているバンドだとばかり思っていた。

気になって調べてみると、メジャーデビューは2009年。だがメジャー在籍期間は2011年までのたったの2年で、その後は2020年まで約10年間、ずっとインディーズで活動してきたという。
しかもインディーズに移ったのも自らの意思ではなく、契約切れ。いわゆる「メジャー落ち」というヤツだ。

もちろん「メジャーはプロ」で「インディーズはアマチュア」という事ではない。それぞれのメリット・デメリットはあるし、自らの意思によりインディーズでの活動を選び、その結果メジャー以上の実績を残すアーティストもたくさんいる。
だが、「メジャーは夢の舞台」という認識は未だに強く根付いていて、しかも一度メジャーというフィールドに立った人間にとって、メジャー落ちは死刑宣告にも値する。さぞ悔しかったであろう。

しかし、これほどまでの長いインターバルを経て、メジャーに返り咲くという話はあまり聞かない。
かつて若かった彼らが、夢のメジャーデビューを果たした末に突きつけられた現実。相当な辛酸を舐めたであろう事は想像に難くない。

だからこそ、この「SUPER BEAVER メジャー再契約」というニュースには胸のすくような爽快感をおぼえた。おそらく同じような想いを抱いたのは僕だけではないだろう。

ここまで読んでくれた人達は薄々、というか完全に気付いているとは思うが、僕はSUPER BEAVERというバンドの事をよく知らない。ライトなファン…いや、ファンを名乗る事もおこがましいレベルの人間だ。
しかし、いち音楽好きとして、「約10年を経てのメジャー返り咲き」というこの何ともドラマチックな物語を無視する事ができなかった。
2021年2月3日にはメジャー再デビュー後初のアルバムがリリースされた。気付いたら買っていた。こんな前代未聞のウルトラCを成し遂げたSUPER BEAVERというバンドがどんなバンドなのか、それを少しでもわかりたいと思い購入に至った。


さて、SUPER BEAVERのメジャー再デビューアルバムの名は『アイラヴユー』という。
全11曲中、シングル曲が5曲収録され、タイアップ曲も多い。メジャーレーベルからの発売ではあるが、インディーズ時代のシングル曲も含まれていて、まさにメジャー再契約前後の彼らの歩みを地続きで感じさせる内容となっている。

まず全体を通して聴いた印象として、「随分とストレートでポジティブな歌詞だな」と思った。いい事を言っている。しかも一片の照れもなく。
演奏もそれらの言葉に呼応するかのように明るく、ギターロックの王道を行くプラスのエネルギーに満ちた気持ちの良いサウンドだ。
おまけにルックスもキマっている。

様々な要素をふまえて「これは人気出るのもわかるよな」という感じなのだが、やっぱりこのバンドの良さというのは、この歌詞なんだろうなぁと確信した。
「よくもまぁ…」というほどの綺麗事が満載なのだ。
これほどまでに不遇の時期を長く過ごした彼らなのに…である。

〝おかげで今がある だから今日も生きている
 そう言いたくなるような ハイライトを〟/『ハイライト』

〝証明するよ もう前例になるよ やめなかったから 笑っている僕らが〟/『突破口』

〝あなたからの期待が 誇らしくて 嬉しい
 僕は あなたの 自慢になりたい〟/『自慢になりたい』

〝原動力はずっと ひとりで生きていないこと〟/『ひとりで生きていたならば』

文字に起こして改めて見てみると、思わず赤面するほどの歌詞だ。
だがこれが彼らの音、声に乗って届けられた瞬間、それはもう異常なまでの説得力なのである。しかも彼らの経歴を知った上で聴くから尚更だ。

普通ならもうとっくにグレて、ルサンチマン的精神状態に陥ってもおかしくなかったはずだ。
だが彼らはそうはならなかった。たぶん、一貫して信じ続けたのではないだろうか。自分、ファン、明るい未来といったあらゆるものを。

それがまさに今回のアルバムの表題曲『アイラヴユー』の歌詞に表れているように思う。

〝今僕らに 必要なのは 想う気持ち 想像力
 今あなたに 必要なのは 想われてる その実感〟

あえていろんなものに当てはまるように書かれた歌詞であると推測できるが、これはそのままバンドとファンの関係性にも当てはめられそうだ。
きっとこのSUPER BEAVERというバンドは、想い想われ、愛し愛される事でここまで歩んでこられた事を、心の底から理解している。
だから、一見恥ずかしいほどの綺麗事とも取れる歌詞でも、照れも迷いもなく歌い上げられるのではないだろうか。

混じり気なしに、宇宙の果てまで真っ直ぐ伸びて行く光ようなその歌声を聴いていると、夢物語でも信じてみたいと思えてくるから不思議なものだ。


ふと、僕は冥王星の事を思っていた。

「冥王星」
かつて太陽系第9惑星と呼ばれていた天体である。

2006年、冥王星は惑星から「準惑星」に格下げという憂き目に遭った。
「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」という、ある年代以前の世代には馴染み深い呪文のような言葉は打ち砕かれる事となった。
言わば「冥王星のメジャー落ち」である。

太陽系内の天体が惑星とみなされるための条件は3つある。
1つ目は「太陽の周りを回っている事」、2つ目は「ほぼ球形の重力平衡状態になるための十分な質量を持っている事」。
そして3つ目は「自分の軌道領域から他の天体を排除している事」である。
つまり、同程度の大きさの天体が軌道領域内に存在せず、その領域における重力を支配できる天体である事が求められる。

残念ながら、冥王星はこの3つ目の条件を満たしていなかった。その軌道は隣の惑星である海王星の重力の影響を受けていたのである。

その軌道領域=「ジャンル」における、重力を支配=「リーダー」的存在…

1度目のメジャー活動時、SUPER BEAVERはその条件を満たしていたのだろうか…?


思い返せば2010年代を迎えたあの頃の邦楽市場、2000年代に隆盛を極めたギターロックバンドのブームはひとまず落ち着き、一部のパイオニア的バンドを除いてそのほとんどが淘汰されていったように思う。

例えば「音楽」という大分類が太陽(または太陽系)であるならば、その中で細分化される「ジャンル」というのは惑星の軌道領域であると言い換えられないだろうか。
そして「ギターロックバンド」というジャンルの重力を支配する惑星のようなリーダー的存在がいて、それに続いたとみなされたバンド達は皆、惑星の周りを回る数ある衛星のようなものだったのではないか。

もちろん、ファンにとって応援するバンドはそれぞれ唯一無二だ。換えは効かない。
だが音楽だってビジネスである。思うような成果を上げられないと判断されれば、何かしらの肩叩きが待っている。

SUPER BEAVERはあの時、まるで惑星から準惑星に格下げされた冥王星のように、「メジャー落ち」の烙印を押された。


他のどの惑星よりも小さく、太陽から最も遠い場所にあった冥王星。その表面温度は摂氏マイナス220度にもなり、氷に覆われた極寒の世界である。その姿はまさに、死後の世界を意味する冥界の王の名に相応しいと言える。

だが近年における冥王星探査により、表面の氷の下には海がある事がわかってきた。
摂氏マイナス220度の世界で、水が凍る事なく存在している…。それはつまり、冥王星内部には何らかの熱源がある事を意味している。

冥王星は全てが凍結する死の星ではない可能性が出てきた。
冥王星は、生きている。

SUPER BEAVERはメジャー落ちという死後の世界から見事に蘇った。
それは彼らの中に、決して絶える事のない音楽への情熱と、応援し続けてくれるファンへの想いという熱源があったからに他ならない。

1度目のメジャー活動時、確かにSUPER BEAVERは数あるギターロックバンドのひとつに過ぎなかったのかもしれない。
でも彼らが成し遂げた「メジャー返り咲き」という物語は唯一無二のものだ。そしてこの物語は、きっとバンドとファンが生涯抱きしめるべき宝物になるだろう。

「メジャー返り咲き」なんて芸当は、ちょっとやそっとでは真似できない。
SUPER BEAVERは自身の歩んだ道のりをもってして、ついに重力を支配する唯一無二の存在となって帰ってきた。

冥界の王、帰還である。


2020年4月にメジャー再契約のニュースが報じられてから、本来ならアリーナ会場を含む過去最大規模のライブツアーが予定されていたそうだが、残念ながら今現在に至るまで新型コロナウイルスの影響を思いっきり受けて出鼻をくじかれたかたちになってしまっている。
だからSUPER BEAVERの快進撃があるとしたら、まだまだこれからだろう。

応援してます。SUPER BEAVER。

そしてグレるな冥王星。
いつかまた、君が惑星に返り咲く日がやってくる。

…かもしれない。


※SUPER BEAVER作品より、『』内は曲名およびアルバム名、〝〟内は歌詞より引用
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