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Steely Dan 響きの匂い

感性の傾き

今でも時々、思い出したように聴きたくなるアルバムのひとつに、スティーリー・ダン(Steely Dan)・・・1970年代に活躍したアメリカのロックバンドのアルバムがある。

アルバムが制作されてから、もうかなりの年月が経過しているが、聴いていると曲の響きにあわせて、ニュアンスの息づく新鮮な感覚が蘇ってくる。


スティーリー・ダンは1972年のデビューから1981年の解散まで、7枚のアルバムを発売した。

アルバムは作詞・作曲を行う2人のメンバー・・・ウォルター・ベッカー(Walter Becker)とドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)にプロデューサーのゲイリー・カッツ(Gary Katz)を加えた3人を中心にして制作された。(他のメンバーは入れ替えを繰返した)

アルバム
1972年 キャント・バイ・ア・スリル (can't buy a thrill)
1973年 エクスタシー (countdown to ecstasy)
1974年 プレッツェル・ロジック (pretzel logic)
1975年 うそつきケイティ (katy lied)
1976年 幻想の摩天楼 (the royal scam)
1977年 彩(エイジャ) (aja)
1980年 ガウチョ (gaucho)


1970年代に入りロックの表現は、さらに様々な音楽の要素を取り入れ多様化したが、その内的感性はしだいに内向性を強めていった。

当時のロックの雑多な響きの底に共鳴する感性や感覚・・・
感じやすく粗削りで、戸惑いながら自在(軽やか)で、苦悩(重さ)をにじませながら痛切で、危うさを抱えたままで気怠く、猥雑でありながら孤立していて、思いがけず洗練されていて、といった、世界の側に現れた感性や感覚は、スティーリー・ダン(以下、彼ら)のアルバムにも色濃く反映している。


ジャズ、R&B、カントリー、レゲエなど様々な音楽の影響を受けたといわれる、心地よい明確なリズムに裏打ちされたサウンドと簡潔で象徴性の高い言葉で表現された歌詞の溶け合った曲(詞・曲)の響き・・・

彼らのこの響きを表現として際立たせているのは、その背後に匂いのように漂う感性の放つ乾いた感覚・・・反語的で、自嘲的な、ねじれてゆくような感覚であるが、それはアルバムという曲(詞・曲)の響きの連なりと重なりのなかで、より複雑で緻密な表情と陰影を浮き上がらせる。


1960年代から1970年代にかけてアメリカでは、公民権運動、暗殺事件、ベトナム戦争、オイルショックなどの様々な危機的な問題が顕在化する一方、カウンター・カルチャーなどの自由や解放といった動きが続いていた時代であった。

それらは人々に、外的にも内的にも身近な危機、危険となって実感された。
「なにかが狂しいのではないか」と。それは時代の実感であった。

彼ら3人もそうした時代のなかにいて、時代の空気を深く呼吸していた。
ただ、彼らにとってより切実で深刻だったのは、自分自身の内面のささやきであった。「どこか狂しいのかもしれない、おれは」といった。

このささやきは、彼らの内面のものであったが、それはまた彼らの生きる、彼ら自身もその一部である、まわりの身近な社会の抱える困難さ(狂しさ)を映し出すものであった。

彼らはあくまでも、自身の内面のささやきを曲(詞・曲)として表現したが、彼らにとっては狂しさを狂しさとして言葉にすることは、同じように困難を伴うものであった。
それは偽りや誤りの感覚となって、彼らの内面で直感的に反響し、言葉にすることを躊躇わせた。


時代のなかで、必然的に、ある意味自然なこととして、その内的感性の傾きを深めてしまう自身の存在の困難さ・・・
こうした困難さを抱えながら、彼らが開かれた響きを持つ作品(アルバム)というものを結晶させることができたのは、世界との錯綜という、それ自体が焦げつくような彼らの存在の在りようと時代からの切迫した要請によってであった。

世界に開かれた彼らのアルバムの切実な感性の響きは結果的に、飽和と閉塞へと向かう時代の感受性の響きとして、多くはなかったが確かな共感を生むこととなった。


音楽の世界も含めて、1970年代後半から始まったデジタル化のもたらした「処理する」という感性と方法は、高度化と平易化を繰返し、現在では身体性にまで深化している。

スティーリー・ダンのアルバムを聴いていると、その響きの流れのなかにうっすらと漂う、あきらめと悲しみを含んだうつろう感覚は、現在の日々処理される日常に、かすかな異和と変調をもたらしてゆく。
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