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役に立たなくてかけがえのないもの

XIIX『USELESS』に寄せて

 既にバンドという組織に属しているミュージシャンによるソロ・プロジェクトや新バンドの結成というのは、良くも悪くもファンをざわつかせるのが常だ。ただあくまで個人的な主観で言うと、XIIXに関してはそういった不安感をほぼ覚えなかった。というのも結成と始動を発表した2019年の終わり頃はUNISON SQUARE GARDENの結成15周年イヤーもそろそろ幕引きという時期で、1年間の活動を通じてこのバンドの足元はそう簡単に揺らぐことのない確固たるものになっているという実感があったし、斎藤宏介本人も今なら始められる、どちらのバンドにも100を注ぎ込んでこれからは200頑張るんだと決意表明していたことが大きかったと思う。憂うことなどない、純粋な楽しみと期待を私たちに感じさせながら、XIIXは1stアルバム『White White』からその歩みを開始した。バンドの名刺代わりとも言えるその1枚は、通勤時に沈みがちになる私の心を少しだけ温かく、軽くしてくれる大事なアルバムになっていた。

 2020年の3月頃から徐々に、新型ウイルス感染の拡大に伴い、大勢の観客が1か所に集まるライブやイベントの類は中止や延期を余儀なくされるようになった。幸いチケットが当たって楽しみにしていた6月のXIIXの東名阪ツアーも例外なく延期(のちに中止)となり、私は悲嘆に暮れた。心から楽しいことなんて数少ない日々の中にぽつぽつとあったライブの予定が、如何に自分を生かしてきたのかを痛感した。政府は、世間は、世界は、私の心を救っていたものを「不要不急」と言った。仕方ないことだ。たくさんの人命がかかっているのだから。何をするにも、どこへ行くにも、何もかも、健康に生きていることが大前提なのだから。ただ、そうだと解っていても私は、こんな風に何も感じず、死んだように生きてることに何の意味があるんだと日々布団の中で鬱々としていた。

 2020年12月21日、私は新木場STUDIO COASTに居た。待ち望んだXIIXのワンマンライブが、たった1本だけではあるが、年内に観客を入れての開催が実現した。色々な制限こそあるものの、生で彼らの存在と音楽を体感できることに違いはない。それ以前にもそれこそUNISON SQUARE GARDENの配信ライブや有観客ツアーにも足を運んでいたが、なんだかXIIXのライブに臨む自分の心持ちはそれらとも少し違っていたように思う。如何せん、まだライブ自体がほんの数本しかできていない新人バンドだ。ステージにおいて何が起こるか、多分、メンバーすらも掴み切れていなかったのではと思う(勝手な想像だが)。

 その公演の終盤で、2ndアルバムのリリースが告知された。タイトルは『USELESS』。口頭でそれを聞いたときの第一印象は、「uselessって不便とか不要とかそういう意味だよね? なんか意図があるんだろうけど、ネガティブな言葉だな」だった。そのアルバムからは「おもちゃの街」、「ユースレス・シンフォニー」、最後に10月に先行してMVが公開されていた「Halloween Knight」が披露された。「ユースレス・シンフォニー」に関しては今この場でMVに使う画を撮るとのサプライズもあり、観客は声にこそ出せないもののきっとみんな内心では沸き立っていた。当然私もその1人だが、同時に、アルバムタイトルの意味とか、同じ単語を冠したその曲の歌詞や詳細が早く知りたいとうずうずしていた。

 年は明けて2月下旬現在、手元にXIIXの新譜『USELESS』とその歌詞ブックレットがある。「ユースレス・シンフォニー」の頁を開く。「使えないくだらない毎日」というワードから始まり、「なんの役にも立たない」「つまらない終わらない毎日」、「役に立たないもの全て」といった一見ネガティブな言葉が目を引くが、それらを締めくくるのは「かけがえのないもの全て 最高だ」という晴れやかな言葉だ。私のようなただの音楽ファンでさえ、音楽を不要不急と一蹴されて徹底的に落ち込んだ。それなら、それを生業としているミュージシャンたちはどれほど戸惑ったのだろう。それでも大事な「音楽」を「役に立たない=USELESS」とはっきり言い切ったうえで、だけどかけがえのないものなんだ、最高なんだと腐らず胸を張って歌うXIIXの姿勢を目の当たりにすると、嗚咽で喉が詰まってしまいそうになる。ネガティブなものか、このバンドはとんでもなく真っ直ぐ前を向いている。反面、私はこんなに背筋を伸ばして堂々と生きられない。それどころかふたりの姿が眩しくて、後ろ暗い気持ちにすらなる。だけど、その凛々しい生き様に圧倒されてもっと追いかけたくなってしまう。あの日の映像を使い完成した「ユースレス・シンフォニー」のMVにも溢れている斎藤宏介と須藤優の楽しそうな笑顔がもっと見たくなる。その為に、生きていかなくてはと思う。

 またこのアルバムを境に、私の中では明確に「UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介」と「XIIXの斎藤宏介」が別人のようにそれぞれがそれとして確立した、なんだか不思議な存在になった。XIIXのライブを観ていても、「何度も観てきて知っている、あのUNISON SQUARE GARDENの斎藤さん」という前提を思い出すことがないのだ。XIIXはXIIXでしかない。どっちが良いか好きかという話でもない。斎藤宏介はこの世に1人だけど、多分概念としては2人いることになってるんだろう。無茶苦茶なことを言っているが、今はそうとしか表現できない。今後もし、XIIXに興味を持った人がいたとして、「UNISON SQUARE GARDENの人のバンド」だと思って彼らの音楽やライブに接していると、じきにこの奇妙な、不思議な、面白い感覚を味わえるだろう。

 誰かにとって役に立たなくても、私にとってはかけがえのないもの。『USELESS』には、そういう愛すべき音楽がぎっしり詰まっている。

 最高だ。
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