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『夜行秘密』の共有

秘密を歌った、川谷絵音に救われる夜

「経験を音楽にするのは甘えなのではないか」

ライブ終盤に心中を吐露する川谷絵音は言う。すらすら出てくるセリフのような言葉ではなく、何度も自分の頭の中でこねくり回してやっと吐き出された言葉を、会場はじっと見守っていた。その言葉に共感する、なんてことは軽々しくて私にはできない。川谷絵音には川谷絵音の人生があって、何もかもを「わかるわかる」だなんて頷くのは軽率で、嘘だ。そして自分以外には理解できないことを知ったように言われるのは、本人だって嫌なんじゃないか。

秘密を教えるのは勇気がいることだ。誰に何を教えるかも重要である。そして、秘密を明かせば、それを捻じ曲げて伝えられる可能性だってある。とにかく、秘密を自分から誰かに伝えた時点でそれは秘密ではなくなるのだ。
そんな川谷絵音の大切なものが音楽として世に送り出されたのがindigo la Endの最新アルバム、『夜行秘密』である。今作に限らず、極めて私小説的な歌詞を書く川谷絵音の音楽に救われる人がどれほどいるのだろう。indigo la Endの音楽を好んで聴く人は湿っぽい人間だと言われるように、うまくいかない恋愛、失恋、喪失を歌ったものがほとんどだ。にもかかわらず、愛して止まないファンがたくさんいるのはなぜか。それは、美談ではない出来事を歌っていても紡ぎだされる言葉と音色が美しく、切なく、寄り添わずにはいられないからなのかもしれない。

寄り添わずにはいられない、と書いたがここで同時に聴き手に寄り添ってもいるのだ。作品は世に出されると作り手だけの所有物ではなくなる。つまり、作品の解釈は聴き手によって十人十色である。私的なことを書いて歌ったんだなと思いを馳せる人もいれば、詩的な表現が素敵だと感動する人もいる。自分の経験に重ねる人もいれば、疑似体験として涙する人もいる。寄り添わずにはいられない音楽に寄り添ってもらえるというのは、なんだかお互いを必要としているようで嬉しい。このような関係性が築かれているからこそ、秘密の共有が成り立つのかもしれない。

一人で握った『夜行秘密』を教えてくれてありがとう、と川谷絵音に伝えたい。私は秘密を空気に触れさせて酸化させたりはしないし、このアルバムを深い藍のなかで大切に聴き込むから。
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