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轟音の美学。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの再発に寄せて。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下マイブラ)のアルバムがリイシューされる。それに加え、エイプリルフールでなければ、新作も出るという。2013年のことだった。アルバム『m b v』が発売された。正直なところを書くと、悪くはないが、期待外れ感があった。どこまでも耽美なのだ。作り手が、ひたすら自己の演奏に独り善がりになっている感が拭えない。それでもそんなに悪くなかったから、リイシューCDは購入するかもしれない。2012年にも『ラヴレス』等が再発されて、出る出るといって出なかった新作も出たのだったし。

マイブラは、ストイックである。シューゲイザーと呼ばれるバンドで、ここまで自己の表現に忠実なバンドは、そうはいない。厳密にはシューゲイザーではないかもしれないが、ジーザス&メリー・チェインも、2017年に新作を出した。『ダメージ・アンド・ジョイ』、評判は良くないが、あれはいい出来だったと思う。1985年の『サイコキャンディ』のレベルではないが、古のシューゲイザーとしてのプライドを持っていた。マイブラも、1991年の『ラヴレス』から30年になるが、果たして公約通りアルバムを出すだろうか。ジザメリはマイブラよりもポップで、聴きやすい。マイブラは、聴き手の感性など知ったことではなく、ひたすら一点のみを見つめている。

『ラヴレス』は完璧だった。同じ1991年のプライマル・スクリーム『スクリーマデリカ』級、いやそれ以上の水準である。轟音のなかに美学があり、それが独り善がりにならず、「ポップ」なのだ。『スクリーマデリカ』はちと、快楽に寄りかかって、危ういところがあるアルバムだったが、『ラヴレス』は11曲、どこにも落ち度のないアルバムだった。1991年は、ポップミュージックの当たり年だった。ニルヴァーナ、レッチリ、マッシヴ・アタック、パール・ジャムらが傑作を残した年であった。と同時に、ロック・ポップスが「産業」に傾きはじめた時期でもあった。闇夜のグランジやパンクが終わりを迎え、ブリットポップの黄金期が待ち構えていた。自分のApple Musicのプレイリストに、90年代のポップスのリストがある。悪くないが、これは単なる「ポップス」じゃないか、と訝しく思う曲もある。素敵なアルバムがたくさん出た時期でもあったが、同時に、薬にも毒にもならないような「産業」としか呼べないお子様ランチ的アルバムもあった。

マイブラは、そこまで売れ線に走るほうではない。作ろうと思えば、『ラヴレス』の二番煎じ、三番煎じをリリースできただろうが、そうはしなかった。『ラヴレス』という究極のアルバムを作ってしまったあとは、沈黙したままだった。実際、売れようとしたがらないバンドはいる。『ネヴァーマインド』を作ってしまったニルヴァーナは、『イン・ユーテロ』を残して、消えてしまった。ジョン・スペンサーも、頑なにポップになろうとせず、一般受けするアルバムといえば『オレンジ』くらいだ。スティーヴ・アルビニはシェラックとして長いことアルバムを出していない。売れようとすれば、ブラーやオアシスのようになれるのだろうが、彼らはそこまでセールスというものに興味がないのだ。

マイブラのアルバムは、CDとアナログレコードで聞こえる音が違うらしい(確認はしていない)。うちにレコードプレーヤーはあるが、さほど性能は良くないので、確認はしないだろう。リイシューのほうも、CDを買うくらいになるだろう。『ラヴレス』発売当時、私は10歳にもなっていなかった。『m b v』発売の際、聴いて、これはリスナーを試しているな、と思った。聴き手の感性を信じているのだ。ブラーやオアシスのような金太郎飴ではない。聴き手にそれなりの感性が備わっていなければ、『ラヴレス』は楽しめない。90年代以降、ロックが「産業」になり、マイブラもそれに抗うのは難しかったのだろう。自己の美学に忠実な人間は、売れることを拒否するのだろう。実際、『イン・ユーテロ』を残して、カート・コバーンは死んでしまった。

彼らはどこまでも自己の美学に忠実で、売れることを拒否する。ポップに流れることも拒むのだろう。拒み続けてリリースした2013年の『m b v』も、彼らにとって会心の出来かどうかは、疑問である。それこそスロッビング・グリッスルのようになるのかもしれないが、彼らには一点のみを見つめて、マイブラにしかできないことを続けて欲しい。プライマル・スクリームが二度と第二の『スクリーマデリカ』を作れないように、彼らに第二の『ラヴレス』は作れないかもしれない。出る出ると噂されている新作(二枚あるらしい)も、買うかもしれない。マイブラには、「ポップ」には流れて欲しくない。メインストリームなるものには流れなくていい。今度の新作が『m b v』に劣るものであっても、彼らは轟音を鳴らし続ける。『ラヴレス』以上のものを作れるかどうかは、もう問題ではない。彼らは、もっと大きなものに突き動かされ、歩いているのだ。彼らには、彼らにしか見えないものがある。一点のみを見つめて、今日も彼らは轟音を鳴らす。
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