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心に強く、そして穏やかに吹き抜けるような

藤井 風という一つの音楽

我が家で猛烈に流行っている。藤井 風。
「我が家」と言ったのは意味がある。シェアハウスなのだ。
10年来のフォロワーと昨年春に住み始めて1年、元々音楽をきっかけに共通の趣味から展開した2人の交友関係は、いつの間にか家族同然の付き合いになり、同じ家に住むまでになった。
人によってはごく普通のように思われるだろうが、それでも最初は物珍しさから好奇の目で見られたものだ。
「友達と住むなんて続かないだろう」「そこまでして一緒に住む必要ある?」と、悪意のない言葉であろうと答えるのが面倒な場合も多々あった。
しかしなんと言われようと所詮他人の言葉は当事者には関係のないものだった。
そしてこのコロナ禍と地震続きのご時世が味方して、いつの間にかその他人の評価は心細い一人暮らしよりも、遥かに豊かな暮らしであると周りが気づき始めた。
そう、家に帰って誰かが居るって、嬉しいのだ。

話は戻るが、藤井 風はそんな我が家に一つの大きなブームを起こした。たまたま特集されていた番組を見て、私たちは声を揃えてこの人、いいね、なにこれ、と呟いた。
音楽、声色、知れば知るほどアラサーの我々にとって気持ちの奥底に響くものばかりだった。
もちろんビジュアル面もである。全く飾らない、ありのまま不器用そうにテレビに映る彼の姿を見るたびに私たちはハラハラしながら、笑顔になっている。

そんな藤井 風の武道館のBDが出た。ちょうど私の誕生日に近かった事もあり、プレゼントという事でありがたく頂いた。そうは言っても私はこの家のだいたいの物は共通財産だと思っている。
まずその武道館のライブ構成に驚く。カバー曲から始まりオリジナル楽曲が続く2部構成なのである。
本来であればオリジナル楽曲の合間にカバー曲のコーナーがあり、最後にまたオリジナル楽曲で終わるものが多いと思うが、藤井 風は完全に頭から全力で向かってくる。

しかもまず1曲目に「アダルトちびまる子さん」。
いやいや、それおどるポンポコリンでは…と突っ込む隙もなく、至って彼は真剣に、とてつもなくムーディな雰囲気でご機嫌に歌い始めれば聞き手側は一度、情緒が歪む。

藤井 風という人は、長年YouTubeで自分の実力を試し続けた正に今の時代のアーティストである。
まだ20代前半でありながら、ノスタルジックな音を絶妙な温度で提供してくる稀代の存在であると思う。
あんなに好きだった音楽がなんとなくつまらなくなったと感じるアラサーの全てに聞いてほしい。胸を張って、彼をお勧めしますと言える。

そんなカバー曲はもちろん魅力だが、やっぱりオリジナル楽曲が際立つ。
音源だけで聴いていたものを彼の口から、拙いながらも真っ直ぐに説明してくれる様子に、心を揺らしてしまう。そうか、この歌はそういう意図だったんだ、と、耳から聴いていた音だけでは見えなかったストーリーがそこにプラスされる事で、また一つ音楽を好きになれた。
非常に話題性の高い1stアルバム「HELP EVER HURT NEVER」だが、何度も聴いていたはずなのにライブで見る事でまだこんなに知らない曲だったのかと衝撃を受ける。私はまだまだ音楽を好きになれるんだなと気づく。

敢えて挙げるならば「さよならべいべ」がとても好きだ。
まるで現代版【尾崎紀世彦の「また逢う日まで」】を聴いた時のような、別れの中に希望を感じる曲であり、昨今ではまあ聞いたことのないべいべという語感の良さにも、どこか悲観しない主人公のやるせない前向きな気持ちが出ているような気がして心地いい。
何事も始まる時には終わりが何時なのかなんて考えもしないだろう。幸福は永くは続かない、でもその時間は確かに幸福だったんだろうと感じる曲でもある。
「また逢う日まで」を例に挙げたのは、主人公が相手に投げかける言葉がタイトルに来ている事も注目したい。
主人公はこの言葉は心の中での、連れ添った相手への別れ際の餞の一言なのだろう。
それが口に出して伝えられたのか、主人公の胸中なのか。
なんとも胸の痛い気持ちにさせられる。

そして「帰ろう」という曲で、武道館は幕を閉じる。
この曲は夕方の家に向かうまでの情景、そこにある人の暮らし、人生という終着と執着を全て重ねたような壮大なテーマが根底にあり、自分の中にある死生観、特にマイナスな死への想いを少しずつ軽くしてくれるような、そんな気持ちになる。
夕方5時は人生で言うとどの時期を指すのだろう?
そして、それは老若男女を問わず、誰にでも平等に訪れるものなのだろう。
自分にその時が訪れた時は、どうか穏やかであってほしいなと願いたくなる。

自然と流れる涙と、ふと思い出す人たちが、同じ気持ちであれば嬉しいなと思いながら、曲は終わる。
「帰ろう」は、どちらの意味なのかな、と考えたりする。
誰かに向けての帰ろうなのか、自分に言う帰ろうなのか。
想像の余白と歌詞の中に織り込まれた優しさに新しい発見を見つけるたびに、私も我が家を想う。
こういう時代だからこそ、藤井 風のような心地の良い音楽に、人間のぬくもりを感じるのかもしれない。
やっぱり、帰る場所があるのは、嬉しいのだ。
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