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まだ霧の中で夢を見ている

She, in the hazeがくれた非日常

 音楽を愛する方々へ。あなたにとってライブとはなんだろうか。時には頭を振り拳を突き上げ、爆音に身を委ねる。時にはうっとりとアコースティックギターやピアノの音とお酒に酔う。ライブの楽しみ方はそれぞれだけれども、どれも日々の生活では味わえない非日常な空間。コロナ禍で様々な制限がかかり、自由にライブが開催されなかったり行けなかったりする故に、余計にその場所が恋しくてたまらないのではないだろうか。そんな中、私に唯一無二の「非日常」をくれた、とあるバンドに対する気持ちを残しておきたくて今これを書いている。そのバンドをShe, in the hazeという。

 バンド名を知ったのはTwitterだった。邦ロックを幅広く好んでいる知り合いの作家さんが「気になるバンド」だと呟いていてなんとなく頭に残っていた。後日行ったレコード店のインディーズ試聴機コーナーに、当時の最新音源であった「Paranoid」がたまたま鎮座していたので聴いてみたところ、ひとつのジャンルに収まりきらない独特の雰囲気を持つサウンドの上に、性別の曖昧なハイトーンボイスが乗ってうつくしく響いていた。しかし間奏中には唸るようなデスボイスが不思議と違和感なく埋め込まれており、ボーカルは男性であることがわかる。ホームページを見るとメンバーの写真はあるものの、逆光の中少し俯いていている状態で顔は不鮮明だ。全員彩度の低い金髪と、真っ白な衣装で神秘的な印象だった。彼らは一体どんなライブをするのだろう。あの音を、ライブハウスでどのように表現するのだろう。興味は尽きることなく、私は「Paranoid」ツアーの最終日である東京公演に足を運んだ。

 ライブは、音源から予想できていたものを遥かに超えてきた。スモークが濃く焚かれたステージ、その後方から射す光、現れる真っ白い衣装のメンバー。1曲目の「Doubt」ではMVのとおり仮面をつけており表情は見えない。2曲目以降は仮面を外して演奏されるのだが、光源が全てステージ後方のため、やはり顔は見えない。まるでずっと後光が射している様で神々しい。ボーカルのyu-kiさんはMCでこそ柔らかな普通の男声だが、歌いだした途端透明なハイトーンボイスと荒々しいデスボイスを使い分け、まるで何かが降臨したのではと思う程だった。キーボードのanさんは時にサウンドを弄りながらかつギターをも掻き鳴らし(後にサポートベースの方がいない公演ではベースも弾く多才ぶり)、それをtomoさんの安定した力強いドラムが支えている。幻想的な映像と光を背に響く生音は重く、気を抜くといい意味で卒倒しそうなほどだった。非日常。非現実。今までもいろいろなバンドのライブを観て、大好きな音を味わって、ストレスの多い毎日から離脱することで救ってもらってきた。だけれど、彼らの場合はそれと全く違う。まるで神様にひょいとつままれて、見知らぬ森の中へ置き去りにされたような感覚。そして森にかかった霧が晴れたと思ったらライブハウスのフロアに立ちすくんでいた、大袈裟ではなくまさにそんな状態になるのだ。

 また、She, in the hazeはそのジャンルレスな音楽性故かどうかはわからないが、様々なタイプのバンドと対バンしていた。対バンのメンバーやそれを観に来ていた他のバンドマンが、「彼らのようなバンドは観たことがない」「世界観が素晴らしい」「ファンになった、自分のバンドとも対バンしてほしい」などとSNSを中心に各メディアで発言するのを何度も目にした。音楽的知識がある人々が観てもそう感じるのだから、素人の私が観たら卒倒しそうになるのも無理はないと思う。

 いつの間にか私はShe, in the hazeの虜になっていた。毎日のように音源を聴き、できる限りの公演に足を運んだ。いつだってライブの瞬間はあっという間だった。霧深い森に連れて行かれて、非日常を揺蕩っているうちにどんどん時は過ぎていく。She, in the hazeのライブにおいて、最後の曲として定番であった「Teddy」。私はこの曲がとても好きだったが、この曲の演奏=ライブの終わりなので、キーボードのanさんがイントロを奏で始めると、毎回嬉しさと寂しさが綯交ぜになっていたことを思い出す。でもまた来よう、と胸に誓って、毎回次の予定が楽しみだった。

 が、突然She, in the hazeは解散した。この上なく悲しく寂しかったけれど、彼らの決断したことであるからファンとしては受け止めなくてはならない。コロナが収束したとしても、解散してしまった彼らのライブを観ることはもう叶わないのだけれど、あれから1年以上が経過した今も、YouTubeに残されているライブ動画を時折観ては、あの非日常を反芻している。目を瞑ればあの美しく厳かな世界が蘇ってくる。

 私の心はきっとまだあのうつくしい"in the haze"(霧の中)にあるのだろう。She, in the haze。あなたたちのくれた世界は、今も私を唯一無二の「非日常」に連れ出してくれる。
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