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ゴスペラーズは“バラバラ”だから

異質が生み出すハーモニー

人といることは面倒くさい。
それを実感するばかりな日々だと思う。
例えば職場で、エアコンの設定温度を何度にするか、ファイルの置き場所をどこにするか、そんな些細なことですら私たちは同じ意見になれない。
いつだってあらゆる意見は食い違い、そのたびに不満を心中に隠し合い、腹の探り合いを繰り返す。
面倒くさい。人といるのは心底面倒くさい。人と人が一緒にいる意味とは一体何なのか。全てが一人で完結したら楽なのに。面倒くさくて、嫌になる。

仕事に肩を掴まれているような日々の中、追いすがってくる業務を振り払うようにゴスペラーズのコンサートに行った。
コロナ禍での公演ということで、当日が近づくごとに感染状況は厳しさを増し、果たして開催されるのか、自分自身は本当に彼らが歌う場所に辿り着けるのか、不安と緊張にじりじりしながら当日を待っていた。

人と人が一緒にいる意味を、それでも信じられる。
静寂の中、5つの歌声だけでハーモニーを生み出す彼らの姿に、打たれたようにそう思った。

なんてドラマチックだろう。彼らの歌声に身を浸すとき、いつも感嘆のため息が出る。
まるでバラバラな5人で、互いを認め合い、尊重し合い、だからといって決して溶け合わず、バトンを渡すように大切な言葉を、音を、代わる代わるつなぐ。バラバラな歌声が重なり合い、追いかけ合い、分かれ、混じり、ぶつかり、自在にハーモニーを生み出していく。
なんて奇跡的だろう。彼らが歌っている姿を見ていると、畏怖すら覚える。
四半世紀以上もずっと同じメンバーで、何度も何度も同じ歌を歌って、何度も何度も新しい扉を開けて、新風に身を浸し、それでもグループの独自性を保持したまま、この世界のあらゆるものとハーモニーを生み出してきた。

“バラバラである“ことは、本当は素晴らしい。彼らを見ているとそう思う。
ゴスペラーズはそもそもバラバラな人たちの集まりだ。全員がリードボーカルとコーラスを自在に行き来する5つの歌声はすぐに誰の声か聞き分けられるぐらいにバラバラで、全員が作詞作曲・アレンジまで手掛ける彼らが生み出す楽曲はあまりに幅広く多彩である。
彼らが生み出した楽曲の幅広さから考えただけでも、5人それぞれの思考やバックグラウンドがまるで別々で、お互いに異なる世界観を持ったまま、長く共に歌ってきたグループなのだとよくわかる。実際、個々人の活動を紐解くと、その広がり方はあまりに多岐に渡り、交わる点などないのではと思ってしまうほどだ。もちろんそのバラバラさ加減が、このグループの魅力であることは疑いようがない。
それでも、はっきり言って、よくもまあこんなにバラバラな人たちがこうも長いこと一つのグループとして一緒に活動してきたものだと、ふと思い至っては何度でも驚いてしまう。
なぜなら彼らの歴史は共に調和を生み出し続けてきた歴史でありながら、全員が互いに異質であり続けた歴史でもあるからだ。
それはもういっそ奇跡としか言いようがないのではないか。
そんな奇跡が実現できたのは、一人では生み出せないハーモニーというものを探求し続けてきた彼らだからこそ成せた偉業だと思うのだ。

2021年3月に18年ぶりにリリースされた彼ら史上2度目のアカペラアルバム「アカペラ2」でも、彼らは個々の才能と個性を爆発させている。心が陽だまりに包まれるような美しいハーモニーはもちろん、彼らがケンカアカペラと呼ぶ、互いの声をぶつけあい、戦わせるようなアグレッシブな一曲があったり、最新のテクノロジーを取り入れて、本当にこれは人間の声だけなのかと疑うほどの緻密な一曲があったりと実に多彩なアルバムだ。
さらにはこの多彩な曲たちは公募という初の試みや気鋭のクリエイターとの共作など、多くの音楽家とのコラボレーションによって生まれており、グループ内に留まらず、グループ外のあらゆる才能とも積極的にハモリにいくという彼らの探求精神が詰まった作品になっている。それが5人それぞれの主導のもと行われており、デビューから27年経った今でも、5人それぞれが新しい扉を開け続け、それぞれにハーモニーを追求し、グループを更新するための武器としてそれを還元し続けている様が如実に表れている。
18年前の焼き直しにしないという気迫、進化したテクノロジーや収録手法だけに新鮮さを任せるのではなく、グループ自体がアップデートしていることを疑いようがなく見せつけている作品だと思う。

この最新アルバムから感じるように、いつだって彼らは守りに入らない。
個性派揃いの才能を5つもグループ内に持ちながら、決してグループの内に籠ることなく、幾多の音楽家と共に新たな楽曲を生み出し、数え切れないほどの歌手と共に歌い、時には音楽以外のものとも積極的にコラボレーションする(ハモる)ことで、常に新たなハーモニーを生み出し続ける。
ハーモニーを主軸に置いたグループだからこそ、グループの独自性を保持したまま、積極的に世の中の森羅万象とハモリにいく。
ハモリにいったからには、諸手を挙げて相手を歓迎し、称え、互いの違いを見つめ、互いに異質であるからこそ、それぞれの強みを出し合って、素晴らしいと思えるものを新たに生み出しにいく。
彼らを見ていると、ハーモニーとは同質になっていくことではなく、異質さを保ったまま手を取り合うことなのだと、そう思う。
もはや彼らのパフォーマンスや作品はもちろん、彼らの活動、彼らの存在そのものがハーモニーを証明する行為に思えてならない。

コンサートの終わりに、静寂の中、肩がくっつきそうな距離で互いの声だけを頼りに歌声を重ねる彼らの姿に思わず涙が滲んだ。
彼らが共に歌っている。その事実だけが、その事実こそがこんなにも素晴らしい。
他ならぬ彼ら5人が共に歌っている。その事実が、そのハーモニーが、これほどまでに素晴らしいのは、今その瞬間、彼らがバラバラな個性を磨き、拡張したうえで、互いの異質さを分かり合い、一人では成し得ない圧倒的な調和を生み出しているという奇跡の実現であるからだ。同時に、彼らがこれまでこの世の中のありとあらゆるものとハーモニーを生み出してきた歴史の上に、彼らの今日のハーモニーが成り立っているからだ。
いつも彼ら5人が生み出すハーモニーの先に、例えば彼らの衣装を担っている人、ステージの照明を担っている人、演出を担っている人、音響を担っている人、彼らのマネジメントを担っている人、そういった彼らを支える多くの人の存在を感じる。それはいつも彼らのハーモニーが紛れもなく素晴らしいからで、彼らを取り巻く全てのものはハーモニーを主役にするために考え抜かれたものだと感じるからだ。
彼らのハーモニーは、そういった彼らに関わる全ての人と彼ら自身が、異なる領域から最大限に力を発揮して、互いにハモりにいった結果であるとも感じる。
彼らが5人きりでステージに立ち、ハーモニーを生み出すことは、それすなわちこれまで彼らを支えてきた人々の、彼らと一緒にステージを作っている人たちの、彼らとこれまで共にハーモニーを生み出してきた人たちの、彼らのハーモニーを望む人たちの、そういった彼らのハーモニーを信じる全ての人たちの気持ちの上に成り立っているものだと、無条件に信じられる。
だからこそ、彼らが歌声を重ねる瞬間を目の当たりにすると、強く思う。
それでも、人と人が共にいる意味はきっとあるのだと。

私が母の影響でゴスペラーズに出会ったのは20年前。それから、年月を重ねるごとに、同じメンバーで共にハーモニーを生み出し続ける彼らに尊敬の気持ちが増していくばかりだった。
なぜなら日々、つい簡単に諦めそうになるからだ。
どうせ他人とは分かり合えないのだから。どうせ意見が同じになることはないのだから。そんな風に諦めに心を占領されてしまう。
あるいは、簡単に他者を非難してしまう。どうしてあんなに訳が分からないことを言うのだろう。私の意見が正しいに決まっているのに。そうやって、ついつい他人との違いを絶望だと決めつけてしまう。
それでも、彼らを見ていると思う。本当は“違う”ってことは、“異質である”ということは、希望なんじゃないか。本当はお互いの異質さを見つめ合った瞬間にこそ、ハーモニーを生み出すための根源が隠されているのではないか。
“世界には、ハーモニーが足りない”
2018年、彼らがグループ史上初となる意見広告によって打ち出したメッセージだ。
このメッセージの通り、彼らはグループ内をハーモニーで満たし、同時に世の中のあらゆる人やものと諸手を挙げてハーモニーを生み出してきた。
望む世界を自ら体現することによって、その実現は引き寄せられると、彼らが証明している。

当然、彼らが辿り着いた境地はもはや誰もが倣えるようなものではないと思う。
それでも、だからこそ、彼らのハーモニーは私にとって灯台となる。
忙しない日常で、他人との揃わなさに歯噛みしながらも、難しいことは承知の上で、それでも人が人といる意味を私も諦めないでいられる。彼らの存在を灯台にして、意見を揃わせることや闘わせることだけが大切なのではなく、互いに異質であることを尊ぶ気持ちを持っていたいと思わせてくれる。
彼らはカウンターだ。
彼らが今日もグループとして在ること、今日も一緒に歌っていること、それこそが、この分断の絶えない世界へのカウンターであり、希望だと心の底からそう思う。
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