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イーグルス ~ 自由のはためき

アルバム「ホテル・カリフォルニア」まで

イーグルス(The Eagles)の曲を聴くと、いつも、「自由・freedom」という言
葉が思い浮かぶ。

1970年代、いくつものアメリカのロック・バンドの曲が、毎日のようにラ
ジオから流れていたが、その響きに聴いていたのが、自由の雰囲気であった。
その雰囲気は「なんの束縛も受けずに気ままに生きる」といった、空想的で夢
想的な憧れであった。

音楽をはじめ、映画、テレビ、本・雑誌、ファッションなどと一緒に、当時ア
メリカから日本にもたらされていたこの雰囲気は、いわゆる自由の国アメリカ
というイメージとも重なっていた。


                〇


イーグルス(以下、彼ら)がデビューした1972年頃、アメリカではベトナ
ム戦争が激化・泥沼化するなか、志願や徴兵によって、多くの一般市民が戦争
に行っていた。
戦争は人々の内面に深く影響を及ぼした。そしてそれは、広く社会的な対立や
断絶となって、人々の間に顕れた。

この時からすでに彼らは、失われてゆく自由、という境界に立たされていた。
デビュー・アルバム「イーグルス・ファースト」(eagles)の響きには、彼らが
当時の時代の流れに素直に向かい、その共感の中で、自由であることの自然な
感覚がまだ残されていたが。

いつものように、陽光に照らされた悲しみや孤独の影が涼しげに揺れる髪を、
乾いた風が吹きぬけてゆくのを感じながらも、その感性で曲を完結する(歌い
きる)ことはできなくなっていた。
「take it easy」と歌う感性は、風の中で不安げにひるがえる、自由の裏地で
もあった。


デビュー・アルバムから1976年に発売された5枚目のアルバム「ホテル・
カリフォルニア」(Hotel California)までの間の年月の経過、メンバーの脱
退と加入、急速に進むロックのビジネス化の流れの中でのロック・バンドとし
ての成功や彼らをとりまく社会の変化などは、「自由である(あった)」とい
った、彼らがそれまであまり意識することがなかった、彼ら自身の内面の感性
にも変化をもたらした。

内面の感性の変化によってまた、彼らはより自覚的に、自分たちのまわりで、
内面で、それまでの自由が失われてゆくのに合わせるように、立ち現れる自由
らしきものの姿や、その感覚を曲(詞・曲)にし始めることとなる。


1973年、混乱の中、ベトナム戦争は終結を迎えるが、その後アメリカでも
何年にもわたって、戦争の後遺症(帰還兵をめぐる問題など)が、社会問題化
した。

この時代、人々の共感となった、理想的なものとしての自由は、同時にいくつ
もの雰囲気や幻想を、そのまわりに派生させた。
それに引き寄せられた思惑や意向は(世界の)、それを現実の中に細分化、断
片化し、結果的に世界にとっての社会的な変化(の現実化)をもたらした。
既に自由は、失われてゆく自由であったが、それだけに人々の内に、拭い難
い憧憬を留めていた。


1975年には、4枚目のアルバム「呪われた夜」(One of These Nights)が
発売される。
アルバムを象徴する同名の曲は、印象的な仄暗いベースの音から始まる。
ベースの音に、翳りを帯びたボーカルと美しいコーラスが重なり、抑えた切迫
感を孕んだギターの響きが、心地のよい重さと軽さで入り込む。
この重なり合う音の流れの底には、それを震わすように、始まりのベースの音
が、曲の終わりまで静かに響き続けている。

この曲の歌詞では、「Devil(悪魔)」や「Angel(天使)」、「between the
dark and the light(闇と光の間)」や、「between the wrong and the right
(間違った(悪な)ものと正しいものの間)」などの表現が使われている。
(西洋の文化に根差したこうした言葉は、表面的な意味しか理解することがで
 きないが)


重心の低いベースの音に抑制されたサウンドと歌詞の感性が溶け合って、この
曲は、それまで社会の変化の象徴であり、理想的なものであった自由が、いつ
の間にか、誇大・英雄的で、退廃的で、猥雑で、混乱した様相を帯びて、彼ら
の身体にも紛れ込んでいる実感と、そこから彼らのまわりに立ち現れてくる現
実を、その内側に沈みこむように表現するものとなった。

彼らの実感と立ち現れる現実のリアルさは、その時世界が感じていた自分自身
への自然な違和感によるものであった。
身体の中の時間の流れが入れかわる感覚、理想が夢の時間へと入れかわる感覚
の。それまでは「自由の喪失」を歌うことができたが、それももう「失われた
自由」として反復されるだけの。

この世界の中で、「you」という言葉(歌詞)は、自分自身へ問いかけるように
繰返される、

 You got your demons
 And you got desires
 But I got a few of my own
             (「呪われた夜」歌詞より引用)



自由をめぐる、彼らの最後のアルバムといえる「ホテル・カリフォルニア」
(自由を軸に考えると実質的にこのアルバムで終わりを迎える)の響きは、し
ずまりはじめた混乱の様相の中で、より複雑で、あからさまになってゆく、ま
わりの現実の感覚をとらえたものとなった。

彼らが空気のように呼吸し、育ってきた時代の変化そのものであった「自由
である」という実感、「自由である」ことが「自分自身であること」といった
身体にしみついた確信が、とり残されるように失われた後の、醒めた現実の中
で、身をもって思い知らされるようになっていた、現実の新しい感触を。

最終的にたどり着いたところに待っていた、徒労感や向う先の喪失感の背後に
ひろがる不安とともに、「あの頃の自由とはなんだったのか」といった、ほん
の数年前の過去に対する、内省的な戸惑いが入混った感性は、すぐに終わりの
気だるさとなって、彼らは後ろから呼びかけられたように、重い静けさの中で
立ち止まる。

たどり着いたのは、夜、砂漠の中のハイウェイを走っていて、目にしたホテル
であった。横になり、目を閉じるが眠ることができずに(眠りの中で)、夜
中、「以前いた場所」に戻ろうと通路のドアを探しまわる。すると男にこう声
をかけられる、

“Relax” said the night man,
“We are programmed to receive.
 You can check out anytime you like,
 but you can never leave”
             (「ホテル・カリフォルニア」歌詞より引用)

いつからか彼らは、自由から解放されたいが、もう自由から離れることがで
きなくなっている自分と、自由から解放されたと思えたが、もう自由がどう
いうものだったかわからなくなってしまっている自分というジレンマ(出口
のない)を抱えることとなった。


               〇


「自由」という言葉も、記憶のどこかに埋もれてしまって久しいが、当時その
言葉の漂わせる時代の雰囲気を、遠い日本の片隅で、幼く、単純な憧れととも
に、深く呼吸していた身体は、今でもたとえば「ならず者」(Desperado) とい
う曲の

 ・・・ freedom oh freedom  (歌詞より引用)

といったフレーズなどを耳にすると、かすかに胸のあたりを揺さぶられる。



〇あとがき

この文章を書きながら、漠然と考えていた「自由・freedom」という言葉の意
味あいについて、改めて書き留めてみた、

 ・束縛や抑圧的なものから解放されて自由になりたい、の一歩手前にあるの
  は、自分自身の本質的なものを実現したい、という思いである。

 ・個人と世界の関係において、世界は個人にとって、本質的に「生き難さ」
  として存在する。
  この生き難さ(それに伴う息苦しさや苦しみなど)から、「自由」という
  思い(憧れや幻想)が生まれる。個人の本質に根差したものとして。

 ・この世界の中で、人はその時々の、今の生き難さを生きている。
  過去も現在も変わらず、自分自身の本質的なものを実現しようと(したい
  と)。

この意味あいは恐らく、現在の私がいだく限定的なもので、この文章の中にも
含まれている。
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