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プライマル・スクリームは残酷に彩る。

「ジェントル・チューズデイ」を忘れない。

プライマル・スクリームのファースト・アルバムに「ジェントル・チューズデイ」という曲がある。その中に「コンフュージョン・カラーズ・クルエル・デザインズ」という一節がある。「混沌は残酷なデザインを彩る」という意味だろうか。この曲、というか「ソニック・フラワー・グルーヴ」というアルバムじたいが、ボビー・ギレスピーのセンスある、そしてイカした歌詞で詰まっている。「サン・シャイン・フォー・ユー」なんか、「春夏秋冬はエヴァーグリーンに感じられる」という歌詞もあり、幼稚ととられるかもしれないけど、初々しいボビーの感性が素敵に見て取れるのだ。

過去のベスト盤「ダーティー・ヒッツ」には「ソニック・フラワー・グルーヴ」「プライマル・スクリーム」からの曲はオミットされていた。メンバー(というかボビー)が「スクリーマデリカ」以前の曲を認めていなかったのだろう。最新の「マキシマム・ロックンロール:ザ・シングルズ」には「ジェントル・チューズデイ」も「アイヴィ・アイヴィ・アイヴィ」も収録されており、自分たちの過去を肯定しているようで、嬉しかったが。「スクリーマデリカ」以降に比べればそれ以前の作品はままごとのように見えるかもしれない。けど、私は「ソニック・フラワー・グルーヴ」も「プライマル・スクリーム」も忘れることはできない。「スクリーマデリカ」のように万華鏡のごとき煌びやかさはないかもしれないが、紛れもなく「ソニック・フラワー・グルーヴ」は彼らの古典であり、原点ではないか。2008年の「ビューティフル・フューチャー」、2013年の「モア・ライト」を聴けば、ボビー自身が「スクリーマデリカ」以前をしっかり覚えており、初心を忘れず、パンクスであることを自覚している。

もう二度と「スクリーマデリカ」は誰にも作れないだろう。ロックとテクノの結合があれほど素敵になるとは本人たちも予期していなかった。以後、プライマルズは試行錯誤を重ねていたかもしれない。時代の流れを常に意識していたといえば、彼らの大先輩であるローリング・ストーンズがそうだった。ストーンズが1968年に作った「ベガーズ・バンケット」は彼らの原点回帰にして、さらなる進化だろう。プライマルズの近年の「カオスモシス」は、相変わらず、彼らの過去のどのアルバムにも似ていないが、俺たちは老け込まないぞ、という現役アピールが呆れるほどなされていた。たしかに「スクリーマデリカ」の水準には達していないかもしれないが、我々ファンは、いつものボビーだな、と安心してしまう。

もうテクノの時代ではないし、プライマルズじたいも年寄りが聴くバンドかもしれない。ついこの間、ケルアックの「オン・ザ・ロード」(「路上」)を読み返していたけど、1950年代のビートニクにとってセックスとドラッグが自由を得るための武器だったかもしれないが、愉しい時期はいつまでも続くわけではないのだ。「路上」はじつは楽しいばかりの小説ではない。「三週間で書かれた」と言われている「路上」だが、それはほら話だという。マリファナを吸うのは傍から見ればカッコいいのかもしれないが、ドラッグ自体が巨大な権力者の罠だという描写は「暗闇のスキャナー」(何度も書くが、「スキャナー・ダークリー」とは書きたくない)でも書かれていることだ。

もうロックもダサくだったかもしれない。Spotifyの時代になって、音楽は完全にタダになった。マリファナも国によっては合法である。プライマルズのキャリアも「産業」に組み込まれてしまうのかもしれないが、当時に発表されたディスクには、いつでも触れられる。初めて「カム・トゥゲザー」を聴いたときの感動は、今でも覚えている。バリー・ニューマン主演のB級映画にインスパイアされたという「ヴァニシング・ポイント」の鋭いセンスは、今聴くと懐かしさしか感じないが、「エコー・デック」と一緒に聴くと、ついリピートしてしまう。

プライマルズの「ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ」は近年リイシューされた。これも年寄り向けビジネスかもしれないけど、彼らの作品のなかでは凡作扱いだったこの作品も、不思議にクラシックに聞こえる。常にパンクスであろうとしたプライマルズらしくない作品だけど、発掘された音源を聴くと、かなり聴けるので驚いてしまう。後に、「エクスターミネーター」や「イーヴル・ヒート」もこうなるのかもしれない。太古のローリング・ストーンズの発掘音源にも、無視できない音源が山ほどある。

「ソニック・フラワー・グルーヴ」には、古臭いことに変わりはないが、今でもうっとりしてしまう曲がある。「トレジャー・トリップ」「インペリアル」といった過去の傑作は、ファンが覚えている。ライブで「ジェントル・チューズデイ」が演奏されなくとも、忘れることはできない。いくら「スクリーマデリカ」が歴史的作品でも、ファンは自分の好きなものを覚えている。「コンフュージョン・カラーズ・クルエル・デザインズ」は80年代のボビーにしか書けなかった歌詞だ。ボビーがパンクスであり続ける限り、かれは同じことの繰り返しは行わない。
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