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ドラムが、リズムが、語りかける声が聞こえるか?

アート・ブレイキーとアルフレッド・ライオンが「リズム3部作」で世に問うた「音楽」の本質

「リズムだよ」

アート・ブレイキーは言う。

「(ドラムにも)メッセージはあるし、伝える事ができる。聴く耳と聴こうとする気持ちを持てばな」



アート・ブレイキーはジャズ史において燦然と輝く超重要人物であり、彼が存在しなければ間違いなくジャズの歴史は現在のようにはならなかったであろう。

だが彼にはロック・ファンが愛するジャズ・ミュージシャンたち、例えばオーネット・コールマンのようなわかりやすい破壊性や、マイルス・デイヴィスのように俺様節でこれみよがしなジャズ外へのアピール、またジョン・コルトレーンのような日本人が好みやすい求道的な印象もない。

その活動歴や知名度に反してジャズ・ファン以外に彼の事が語られる機会は少ない。


そんな彼が遺した膨大な作品群の中に、ブルーノートのオーナーにしてプロデューサーのアルフレッド・ライオンとともに生み出した「リズム探求3部作」と呼ばれる作品がある。

「オージー・イン・リズム」(1554,1555)

「ホリデイ・フォー・スキンズ」(4004,4005)

「ジ・アフリカン・ビート」(4097)

ここに後年発掘された「ホリデイ〜」のアウト・テイク集とも言える「ドラムス・アラウンド・ザ・コーナー」を加える事もできる。


文字通りドラムやパーカッションをメイン楽器に据えた「リズム」を追求する作品である。
もっともこの3部作のずっと以前からライオンとブレイキーはパーカッション・アルバム作成を企てていたらしい。

その証拠としてブルーノートの1953年録音、ホレス・シルヴァー・トリオ&アート・ブレイキー、サブーの「1520」には「メッセージ・フロム・ケニア」というブレイキーのドラムとサブーのパーカッションの曲と、「ナッシング・バット・ザ・ソウル」というブレイキーのドラム・ソロの曲が既に収録されている。

またライオンは1956年録音ケニー・バレルのブルーノート・デビュー作、「イントロデューシング・ケニー・バレル」(1523)に、ギタリストのリーダー・アルバムにも関わらず、ケニー・クラークのドラムとキャンディド(カンディード表記もあり。キャンディド・キャメオ)のコンガのみのセッション曲「リズモラマ」を収録するという暴挙に及んでいる。


一方ブレイキーも「オージー〜」収録直前にコロムビア(レーベル)に「ドラム組曲(Drum suite)」という3部作の前哨戦のようなアルバムを残している。


そのような前段階を踏んでようやく正式な制作へ辿り着いた3部作。
各アルバムのレビューでもしようかと思ったが、ドラムやパーカスでもメッセージは伝わる、と言う目的の元に創られた作品を長々と文章で説明するのはこの上ない野暮な行為である故、簡単なメモのみを。

「オージー・イン・リズム」
密林の奥地で繰り広げられる怪しげな儀式を思わせるオープニングが終われば一気にリズムが溢れ出す。これがライオンとブレイキーがやりたかった事だ。

「ホリデイ・フォー・スキンズ」
3部作中最もジャズ色が強く、80年代末、アシッド・ジャズ・ムーヴメントで沸くロンドンで人気をはくしたのもむべなるかな。

「ジ・アフリカン・ビート」
アート・ブレイキー・アンド・ザ・アフロ・ドラム・アンサンブル名義。
これまで準主役として参加していたサブー・マルティネスが不在。代わりにソロモン・イロリがオープニングから祈りの声を聴かせる等八面六臂の活躍で、アフリカへ最接近した作品。
前2作が「ラテン・パーカッション」の作品と呼ぶなら、本作は「アフロ・パーカッション」の作品と呼べる。


果たしてこの壮大で野心的な企てはしかし、周りから「ライオンの凶気」と揶揄される。

第一弾「オージー・イン・リズム」は1957年録音。

ワールド・ミュージックなんて概念はまだなく、ビートルズすら存在していない。

繰り返すが時は50代年末。
パーカッションを中心に据えた作品が売れるわけがあるまい。もっともそれは現代も変わりのない事だが。
加えてシングル盤が主流の時代でありLPは高価であった。

ライオンは「売れる気配すらなかった」と振り返る。
当時は零細インディ・レーベルでありその経営に四苦八苦していたはずのブルーノート。
売れる見込みがあると思って創ったのか、赤字覚悟で創ったのか。どちらにしても凶気の沙汰である事に変わりはない。


閑話休題。
せっかくロッキング・オンのサイトに投稿させて頂いているので、ロック・ミュージシャンのリズムに特化した作品をいくつか。

マニ・ノイマイヤー&ペーター・ホリンガー/「ミート・ザ・デモンズ・オブ・バリ」
グル・グルのマニ・ノイマイヤーがバリ島の打楽器=ジェゴグのグループと共演。


Manitatsu/「リーズン・フォー・トラベル」
マニ・ノイマイヤーと吉田達也の名義。


ブライアン・ジョーンズ/「ジャジューカ」
ストーンズの創始者がモロッコで現地のマスター・ミュージシャンの音楽を録音し、オーヴァーダブを被せた作品。原題は「Brian Jones Presents the Pipes Of Pan At Joujouka」


ヴァン・ダイク・パークス/「ディスカヴァー・アメリカ」
トリニダードのスティール・パンを大々的にフィーチャー。


リズム・デヴィルズ/
「アポカリプス・ナウ・セッション」
グレイトフル・デッドのドラマー、ミッキー・ハートとビル・クレイツマンによるリズム・セクション中心のプロジェクト。
またハートはディガ・リズム・バンド名義でインドのザキール・フセインともアルバムを作成している。


他ジャンルへ目と耳を移せばジャズでもマックス・ローチやバディ・リッチにもドラムとパーカスがメインの作品があるし、ラテン系に至っては三部作参加のサブー・マルティネスやレイ・バレット、ウィリー・ボボ、ジャック・コスタンゾなど、パーカス奏者のリーダー作は星の数ほどある。



本題へ戻る。


今や知識や技術がなくても、携帯やパソコンでシンプルなエイトビートだろうが、複雑な変拍子だろうが、ありとあらゆるリズム・パターンを指先で生み出せる。

そしてメッセージの多くは歌詞と映像によって届けられ、受け取られる。

歌詞と、そこに纏わりつくは精神論。

心 技 体

メロディ ハーモニー リズム


メッセージは歌詞でしか表現されないのか。


「ホリデイ・フォー・スキンズ」のオリジナル・ライナー・ノーツに記されてるブレイキーの言葉が三部作制作の意図を明らかにする。

同時に当時から2021年現在に至るまでのポピュラー・ミュージックの有り様を示唆する。


下記に引用する。

「リズムだよ」

アート・ブレイキーは言う。

「ここアメリカではそんな(リズムの)事はみんなわかっちゃいない」

「若いミュージシャンはハーモニーやメロディばかり必死に勉強してリズムなんて二の次だ」

「すごく複雑なリズムを演奏していてもソロになると単純な4ビートに戻ってしまう。なぜか?リズムについての知識や実力がないからさ。複雑なリズムでのプレイができないんだ」

「ドラムを真剣に聴くのは大変だよ。メロディ楽器じゃないんだから。みんなドラムなんてノイズぐらいにしか考えてないんだろ」


アート・ブレイキーは言う。

「(ドラムにも)メッセージはあるし、伝える事ができる。聴く耳と聴こうとする気持ちを持てばな」



※ライナー・ノーツ訳は筆者による。

※アルバム・タイトル後の4桁の数字はブルーノート・レーベルにおけるレコード番号。
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