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さよなら、どうか元気で

ヨルシカ「又三郎」と重なった友人との思い出

友人が亡くなった。末期癌だったそうで、判明した頃にはもう手遅れだったらしい。訃報を聞いたとき、「しばらく会っていない間にそんなことになっていたなんて」という驚きと、「もっと会っておけばよかった」という後悔の気持ちで、心の整理がつかなかった。

木の葉の緑が鮮やかな夏の日、たくさんの人に見送られて彼の葬儀が終わった。僕は雲ひとつない青空を見上げながら、彼のことをひとり思い出していた。

彼は、なんとも強引な奴だった。
街中で会ったら「これから飲みにいくから一緒に来いよ!」とこちらの都合をお構いなしに誘ってくるくせに、いざ一緒にお酒を飲むとすぐに酔いつぶれて寝てしまう。思い返すといささか勝手な奴だったかもしれない。

彼は、なんとも声がでかい奴だった。
商店街の端から端まで声が響き渡っているんじゃないかというくらい、声がでかい。内緒話が一回も成功したことがないと言っていたが、きっとその声が原因だろう。

彼は、なんともデリカシーのない奴だった。
初めて会ったバーでは、「なんのお酒飲んでるの?」「俺こういうお酒が好きでさー!」「こっちで一緒に飲もうぜ!」などなど、グイグイ話しかけてきたことを覚えている。「この人の距離感どうなってるんだ?」って思ったのが懐かしい。

でも、彼との出来事を思い出すと、不思議とどれも楽しいものばかりだった。

自分勝手なやつに見えて、彼は周りの人たちのことを誰よりも深く考えていた。飲んでるときに寝てしまうのも、周りの人の話をたくさん聞いて盛り上がってお酒が進みすぎたからだった。声がでかいのも、表裏が無い性格だからこその特徴だった。初めて会ったバーでグイグイに話しかけてくれた時も、人見知りしていた僕に楽しんでもらいたくてやってくれたことだった。真夏の街中でふっと吹き抜けるビル風みたいに、普段は暑苦しいのに、時々なんだかとても爽やかに感じてしまう奴だった。

こんなこと、あいつに言っても「そんなことないよ、買い被りすぎたよ」ってぶっきらぼうに言うんだろうな、きっと。あなたと一緒に過ごした日々は、嵐のようにいろんなことが起こって、雨上がりのように爽やかな気持ちになった。

そんなことを考えていたときに、ふと最近聴いたヨルシカ「又三郎」の歌詞を思い返した。

"風を呼ぶって本当なんだね
目を丸くした僕がそう聞いたから
ぶっきらぼうに貴方は言った
「何もかも思いのままだぜ」"

宮沢賢治の小説「風の又三郎」から着想を得たと言うこの曲は、現代の閉塞感を打ち破ってほしいと言う気持ちが込められていると聞いたことがある。歌詞を見る限り、この曲で登場する又三郎は、ぶっきらぼうで自分勝手な印象を受ける。しかし、"風を呼ぶって本当なんだね"と問いかけた主人公に対し、"何もかも思いのままだぜ"と返している又三郎は、ぶっきらぼうの中にもどこか温かな気遣いを感じた。

主人公の知らない世界を見せてくれる感覚。それは、人見知りだった僕の世界を広げてくれた彼と重なった。

この曲は、彼のことを歌っているのかもしれない。そう思い浮かんだとき、どうしようもなく涙がこぼれてきた。

"行けば永い道
言葉が貴方の風だ
誰も何も言えぬほど
僕らを呑み込んでゆけ"

彼は、僕らを残して行ってしまった。そして、僕らはこれから彼がいなくなった世界を生きていくことになる。でも、あなたが周りの人たちにかけた言葉や心遣いは、ずっと僕らの心の中で生きている。

ありがとう。あなたのおかげで、たくさん大事なものができたよ。そして、さよなら。どうか、元気で。あなたのことだから、そっちでも友達がたくさんできるんだろうな、きっと。
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