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reGretGirlに脅かされながら抱きしめる、まぎれもない愛

最初に殴る失恋ソング、“イズミフチュウ”

ぜんぶreGretGirlのせいだ。彼らの“イズミフチュウ”という曲のせいで、恋人の家に荷物を増やせなくなった。

私は恋愛ソングより失恋ソングを聴くことが多い。その一つずつに重ねられるほど過去にたくさんの恋を持っているわけではないのに。
かわいくて瑞々しいよりも、苦く切ないほうが耳に心地いい。特別好んでいるのではなく、気づいたら再生履歴がそれでいっぱいになっている感じ。たぶんそういう性なのだろう。

今お付き合いしている彼とは中距離恋愛だ。彼がひとり暮らしで私は実家暮らしなので、その半端な距離は私が埋めている。会うときはたいてい泊りがけ。
2人乗りのバイクでスーパーまで買い出しに行ったり、深夜手を繋いでコンビニへ行ったり。ちょっとした、でも帰る場所が同じでないとできないデートがうれしい。

キッチンに立つ私に注がれる視線、狭い浴槽にギュウギュウに浸かりお湯があふれてしまう瞬間、ひとつのふとんの中でわざと背中を向けて言ってもらう「こっち向いて」。みんな、あったかくてすき。ひとりでできることをあえてふたりでやるって、どうしてこんなにたのしいのだろう。

しあわせに定義はないが、こういう時間を他にどんなことばで表すのか私は知らないから、しあわせと呼んでいる。口に出すたび高まっていく気がするから、何度でもくりかえす。
でも、満たされるほど失われる日を想像してしまうのもまた、本音だ。


中途半端な遠い距離を埋めてくれる830円で
何度も会いにきてくれたよな

ねぇ どうして


私の最寄から彼の駅までは電車で1本。これまではアクセスの良さを喜んでいたが、それは裏を返せば、1本で行けるのにも関わらず時間のかかる場所ということだ。私は春から東京の会社で働くから、当然、今までのようには会えなくなってしまうだろう。

どんどん遠のいていく非日常に、私は手を伸ばせるだろうか。彼は伸ばしてくれるだろうか。どちらかが手繰り寄せるのではダメで、両側から掴まなければそれは約束にならないのだが、私たちはこれから先ずっと、そういうことに気づきつづけられるだろうか。

いつだったか、彼が部屋を見渡して言った。「俺、もし咲月ちゃんと別れちゃったら、この部屋住めないな」
私は「絶対別れないよ」とか「ずっと一緒だよ」なんて言えるような女じゃないから、もう、彼の家に荷物を増やせない。


連れてきてくれる日もあったのに
今日は連れて行ってしまうの
二度と会うことがないように
荷物を持つ後ろ姿が遠く滲んでゆく
二度ともうここにはこない
それを選んだはずなのに
君は最後に涙を流していたんだ


観光名所もショッピングモールもない、土地が広いばかりの片田舎。改札で手を振るとき、毎回、彼と別れたらもうここへは来ないだろうなと思う。
二度ともうここにはこないと決める日を、あるいはこないでくれと言われてしまう日を想像して切なくなる。彼が何気なく言う「じゃあね」にすら終を感じてしまって、わざわざ「またね」と強調する。

ふたりでいるときの温度を知ってしまってから、余計に、ひとりで眠る夜がさみしくなった。どうしてひとは、恋なんてするのだろう。



ひとが永遠じゃないのだから、そのあいだに生まれる恋や愛だってもちろん永遠じゃない。そういうあやういものを有難がったり傷ついたりして、みんなバカみたいだ。
そんなバカを慰めたり励ましたりするために失恋ソングというものがあるのなら、私はその一つひとつ、殴っていきたい。

いいか?私。 reGretGirlに脅かされながらも、彼と私のしみついた2LDK をちゃんと抱きしめろ。今抱きしめているそれだけが、まぎれもない私たちの愛なのだよ。
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