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米津玄師の「野心」

カタクナニカタカナニスル、米津玄師の野心とは?

シングル“Pale Blue”リリース時、米津玄師はそれまで口にしなかった二文字を口にしていた。

その言葉は「野心」。


“Pale Blue”リリース時に出演した「星野源のオールナイトニッポン」で

「自分に失望したくない感じというか、なんか、自分の欲求、欲望、ある種、野心と言ってもいいかもしれないけれども、そういうものがある。その欲求に、諦めればいいけれども、こう、まあ。素直に従っていくとそうなってしまう。それを自分自身諦める様な自分でいたくないという感じはありますね。」―星野源のオールナイトニッポン 2020年6月8日―

もう一つは「Pale Blue Radio」で“ゆめうつつ”について語る中で

「自分は結構天邪鬼な人間なんで、エゴもあるし、いろんな野心もあるし。そういうものと折り合いをつけながら、しかし、まあ、自分の音楽を聴いた誰かが何か豊かなものを持ち帰ってくれるようなものを作るべきだっていう、それはまぁ明確にはあります。そのためにはやっぱ今の世の中の倫理っていうのはどういったものなのかを明確にちゃんと知っておく必要がある。倫理的な自分と強かな自分っていうものを両方自分の中にちゃんと持っていて、両方から目を離さない。」―Pale Blue Radio―

「野心」

辞書を繙くとこう説明されている。

①分を超える(ように見える)大きな望み・たくらみ。②人になれ服さないで、とかく害をしようとする心。「岩波 国語辞典」

米津さんが言う「野心」は無論①のことだろう。

米津さんが抱く「野心」は金銭的なものだろうか?社会的地位だろうか?米津さんの作品や言動からすると、そのどちらも違うだろう。

やはり、自身の作る音楽に関することだと思われる。

楽曲の質であろうか?
楽曲は、毎度、毎度、質の高いものを作っている。

では、売上だろうか?
セールス面でも、いつも新記録を打ち立てている。

では、いったい何なのか。


同じく「Pale Blue Radio」の中で米津さんはこうも語っている。

「今ポップスを作る人間として、知名度がどんどん上がっていくというか、まあ大きなものになってきたわけですよ。日本の中では。」―Pale Blue Radio―

「日本の中では」知名度は確実に上がっている。

最近、発表された「タレントパワーランキング2021」の「音楽編」では、サザンオールスターズ、星野源を押さえ初の首位に輝いた。


だが、世界的な大スターかというとそうでもないだろう。今現在は。


「虎に翼」―威をふるう者に更に勢いをそえることのたとえ「広辞苑」―

これは、音楽プロデューサー蔦谷好位置氏が米津さんが現代音楽家坂東祐大さんとタッグを組んだことに対し放った言葉だ。

米津さんと同じ年の坂東さんは東京芸術大学音楽学部作曲科を首席卒業のアカデミックな音楽教育を受けてきた天才だ。見よう見まねで音楽を作り、インターネットの世界から現れた米津さんとは真逆の出自を持つ人物だ。

前述の蔦谷氏は米津さんについて、こう語っている。

「個人的には、世界への扉を開くのは米津玄師ではないかと。(中略)そして、ここにきて坂東祐大に出会った。坂東君は現代音楽家としてアートの側にいる人だけど、ポップスにおいてもその実力を発揮できる当代の天才の1人です。『感電』などを手掛けていますが、僕が驚いたのは『海の幽霊』のオーケストラアレンジ。近年のポップスでは群を抜いていますね。米津は僕に、坂東君に出会えたことを「『ナイジェル・ゴッドリッチ(レディオヘッドを世界的バンドに導いたプロデューサー)に出会った』と話してくれたことがあります。互いに必要な能力を持った者同士が出会ったのだから、虎に翼ですよ。」(2021年1月30日「日経エンタティンメント」「虎に翼」で深み増す米津玄師 世界への扉開くか)

米津玄師と坂東祐大

真逆の出自を持つ天才二人が出逢ったことにより、米津玄師の世界への扉はもうすぐ開かれることになるだろう。

では、どういう形でなのか。

ヒントは“死神”に隠されている気がする。

米津さんの最新シングルに収録されている“死神“

J-POPのトップアーティストと日本の伝統芸能である落語の組み合わせが話題になったが、落語の「死神」は実はグリム童話が元になっているという。

グリム童話の「死神の名付け親」を明治期に三遊亭圓朝が翻案したものとされる。

西洋の童話が日本の伝統芸能とされる落語の中にすんなり溶け込んでいるのだ。

これは、J-POPの成り立ちとよく似てはいないだろうか。J-POPは日本で制作されたポピュラー音楽を指す言葉だが、元々は洋楽で、それが日本で独自の進化を遂げたものだ。

そして米津さんが作っているのはJ-POPの文脈の上にある作品だ。

世界に行く時もあくまでJ-POPとして進出していくのではないだろうか。


「カタクナニカタカナにする。」

これは、2021年6月21日のインスタライブで「歌詞の中に英語を入れない理由は?」という質問に対し米津さんが答えた言葉だ。

これは、米津さんが、あくまで日本語の歌詞を書き、歌っていくということだと思う。

2020年の年間グローバルランキングで米津さんのアルバム『STRAY SHEEP』が日本人アーティスト最高位となる7位にランクインした。だがそれ以外の10位までのアルバムは全て英語による歌唱のものばかりだった。


1位のBTSは母国語でないにも関わらず英語による歌唱をしている。これは、言い換えれば英語でなければ世界で通用させるのが難しいということだろう。

ちなみに、英語を母国語としている人口は文部科学省のHPによると約4億人である。世界人口は約78億人と言われているが、その中の大多数を占めている訳ではない。世界には多様な文化、言語があるのだ。

そして、細やかな心情を吐露するには母国語でなければ叶わない気がする。


「多様性」という言葉が叫ばれるようになって久しいが、あえて英語にすることなく、その国の母国語の楽曲がグローバルランキングに何曲も入るというのが、本当の「多様性」ではないだろうか。

ちなみに、米津さんが自作について語るラジオでは、いつも米津さんの楽曲のインストゥルメンタルが流れる。そのたびに歌詞の良さのために気づかなかった曲自体の良さに驚かされる。

米津さんの作る楽曲は、例え日本語の歌詞のままでも世界に通用する楽曲であると思う。

世界を視野に入れているであろう米津さんであるが、英語歌唱でないと難しい世界進出を日本語のまま果たそうとしてるのではないかという気がする。

それが米津さんの「野心」ではないだろうか?

米津玄師は「カタクナニカタカナ」にしたまま、世界に羽ばたいていくことだろう。

米津玄師が「ああ 面白くなる」(“死神”)のは、これからなのだ。
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