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何処へも行かないで。でも何処までも行って

米津玄師へのアンビバレントな思い

平成30年12月31日

私は平成最後の「紅白歌合戦」を映し出すテレビを固唾を飲んで見守っていた。

その理由は「紅白歌合戦」には出場しないだろうと言われていたにも関わらず、直前の12月26日に突如として出場を発表した米津玄師を観るためだった。


初のテレビ歌唱。シンガーソングライターの場合、CDで聴くと素晴らしくても、実際本人が歌うと、そんなに上手くないことがある。その上、米津さんは以前ライブで声が出なくなってしまったことがあるという。大丈夫だろうか?

ドラマ『アンナチュラル』で前奏の無い“Lemon”の始まる前に流れた荘厳な音楽とともに何百、何千と灯された蝋燭の中カメラが進むと厳かに扉が開き蝋燭の灯りに囲まれた米津玄師が現れた。

その姿は、どこかこの世の理から外れた場所からその場所に降り立ったかのように見えた。


場所は大塚国際美術館のシスティーナ・ホール。バチカンの礼拝堂を再現しているそこはこれ以上ないほど“Lemon”に相応しかった。

私の心配は杞憂であった。

声は伸びやかで、終始、目を瞑ったまま、祈る様に歌う“Lemon”は、CDよりも格段に素晴らしかった。

米津さんは「歌詞を間違えないように気をつけたいと思います。」とtweetしていたが、勿論歌詞を間違えることもなかった。

そして、あれ程、完璧に歌ったのにもかかわらず、曲の後の「ありがとうございました。」という声はひどく嗄れていて、テレビ初歌唱の彼の緊張が見てとれた。

「紅白歌合戦」では米津さんの実力と魅力が日本中に十二分に伝わった。そのせいもあってか、歌手別の視聴率は2位だった。1位は40年近くトップアーティストの座を誇るサザンオールスターズ。それを考えれば初出場で視聴率2位というのは大成功といっていいだろう。

「紅白歌合戦」を境にして、米津玄師の人気はさらに加速することとなる。

そして、その時から私はアンビバレントな思いに囚われることとなる。

それは

「何処へも行かないで。でも何処までも行って」

というものだ。

始まりは“Lemon”だった。

米津玄師を好きになったのは、野木亜紀子さん脚本のドラマ『アンナチュラル』が終わってしばらくしてからだ。「不自然な死」をテーマにしたこのドラマ、毎話「人の死」がドラマに登場する。「人の死」への傷みと悲しみを浄化するような主題歌が“Lemon”だった。

ドラマに溶け込んでいた“Lemon”。曲自体にそんなに惹き付けられていたとは思っていなかったのに、いつのまにか、まるで囚われるかのようにこの曲が好きになっていた。

そして、その頃ちょうど“LOSER”が自動車のCMで使われていた。“Lemon”とは、全くテイストの違う、だけど惹きつけられる曲で、こんな多様な曲を作ることのできる「米津玄師」とは、どういう人なのだろうと、米津さん自身に興味が湧いていった。

米津さん自身は、ほとんどメディアに登場しないが2018年“Lemon”は社会現象と化していった。その様子を横目に見ながら、私は米津さんの過去のインタビュー、MV、楽曲を遡っていった。

〝MAD HEAD LOVE“、〝ポッピンアパシー“、〝Flowerwall“のMVには、儚げな少年の様な骨格を持った米津さんがいた。

そして、インタビューの中には、MVで感じた儚さを裏付ける様な、成功したミュージシャンとは思えない孤独を抱えた米津さんがいた。

巨大な才能と知性に裏打ちされた優しさを持った青年が、高機能自閉のうえに鬱をも患っていた。孤独の中でのたうちまわっていた。叶うことなら、そんな孤独な時代の米津さんに傍に行って支えてあげたい。孤独に寄り添ってあげたい。それは言い換えれば、米津さんの孤独が私自身が持つ孤独と近しい気がしたということだろう。会ったこともない米津さんが自分の心の傍にいてくれるように思えたのだ。

そんな中、米津さんの紅白歌合戦出場が発表された。その時は本当に嬉しかった。その後、複雑な感情を自分が持つことも知らずに。

何処へも行かないでほしい。

私と同じ孤独な米津さんでいてほしい。

でも、何処までも行ってほしい。

米津さんの音楽が世界中に届けられる様な場所へ行ってほしい。

米津さんの才能は日本だけに留まる訳はなく、また、本人も世界で認められるような音楽家を目指していると思う。そして私はその米津さんの願いが叶ってほしいと切に願ってもいるのだ。

映画音楽か米津さん自身の楽曲でかはわからないが、遠からぬ未来に米津さんは世界的なステージに立つことだろう。堂々と、でも飄々と日本を代表する音楽家としてその場に立つことだろう。

私はその姿に感動しながらも、儚げな少年の様な骨格を持った頃の彼をきっと、そっと探してしまうだろう。

「何処へも行かないで。でも何処までも行って」

そう祈りながら。
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