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魅惑の80年代リヴァイヴァル

ウルフ・アリスとチャーチズは蜜の味

洋楽好きのアラフィフ殺すにゃ刃物はいらぬ、ウルフ・アリスとチャーチズ聞かせりゃ事足りる・・・自分で言うのもなんだけれど、これは結構な確率で当たっていると思う。

15歳の頃から聴き始めた洋楽の中で、心の底からフェイバリットと言える女性ヴォーカルはネーナ、クリッシー・ハインド、アニー・レノックス・・・・・と、そのあとが続かない生粋の男性ヴォーカル好きの僕が今、2010年代に突如現れたウルフ・アリスのエリー・ロウゼルとチャーチズのローレン・メイベリーという2人の女性ヴォーカルにまんまと、しかも同時にヤラれているのはちょっとした事故レベルである。

この偏った狭き門を突破してきた両バンドに共通する魅力は一体なんなのだろうかと、冷静に考えた末に浮かび上がってきたのが、”80年代リヴァイヴァル”というキーワードだった。では何をもって80年代とするのか。細かい理屈を抜きにして言うとすれば、”エコーバリバリのエレクトリック・サウンド”となるだろうか。それに”キラキラ”、”シュガー・コーティング”、”ゴージャス”といった単語をトッピングすればさらに美味しさは倍増する。

しかし、こうやってキーワードを並べてみると非常にジャンキーで大味というか、音楽的にはあまり良い印象ではないようにも思えてくる。そもそも、80年代の洋楽は産業ロックと揶揄されていたものがメインストリームを闊歩していたのだからそれも仕方がない気もする。しかしながら、最も多感な時期にそういったものを熱心に聴いて過ごしてきた僕のようなリスナーにとっては、たとえそれが産業ロックであったとしても、決して忘れることのできない心の友のような存在となっているのは動かしがたい事実なのである。

しかも、2010年代の洋楽界において80年代サウンドは再評価の波が著しく、AORと並び最も重要なキーワードの一つとなっているのもまた周知の通り。当たり前の話だけれど、80年代メインストリームの全てが箸にも棒にもかからないものではなかったということである。事実、80年代テイストが満載のウルフ・アリスとチャーチズを音楽的にダメ出ししているメディアは僕の知る限り存在していない。

その理由として考えられるのは、こういった派手めで甘い人工的なサウンドがエレクトロニック、EDM、チル・ウェイヴといったジャンルとして認められたというこが大きく作用しているような気がする。それに加えて、ミュージシャンが表層的なニーズに忖度せず、自分の意思で創作できる時代性と環境の違いが音に現れているからなのではないだろうか。迷いやブレがなく、力強さと確信に満ちた音楽は自然と輝きを放ち、リスナーの耳に爽やかな感動を与えるのだと思う。

さて、そのような共通項を持つウルフ・アリスとチャーチズであるが、じっくり聴き比べると、その音楽性には結構な違いがあることがわかる。ウルフ・アリスはネオアコとシューゲイザーが入り混じった、ポップでありながらライオット系の顔ものぞかせるロック色の強いバンドであり、一方のチャーチズは、きらびやかなシンセサイザーと機械的な打ち込みを駆使したダンス・ポップ的要素の強いユニットと言えよう。この、全く異なる音楽性を持つ両者に最も類似したニュアンスは、新世代のアーティストであるにもかかわらず、現在の主流となっているサウンドとはどことなく距離感のある、なんとも言えないノスタルジックな響きを醸し出しているという点だろうか。

そんな風に感じられる要因は、双方に80年代テイストが備わっているからなのは勿論なのだけれど、それだけに止まらない何かがこの両者にはあるような気がする。おそらく、80年代を知らない今の世代のリスナーにとっても、ウルフ・アリスとチャーチズのサウンドはノスタルジックに響くのではないかと想像する。そして、それこそが両者の最大の魅力になっていると思われる。

ウルフ・アリスのデビュー作『マイ・ラヴ・イズ・クール』に収められた「ブロス」、「シルク」、「ソピー・ウォーター」の驚くほどの激しさを内に秘めた、とびきりアンニュイなエリーの歌声と、目の前の空間をユラユラと浮遊する憂いを帯びたギター・シンフォニー・・・チャーチズのデビュー作『ザ・ボーンズ・オブ・ワット・ユー・ビリーヴ』に収められた「ガン」、「ライズ」、「バイ・ザ・スロート」のどこかクールで影がありつつも、溌剌とした開放感を抱かせるローレンの歌声と、辺り一面に降り注ぐ、めまいがするほどきらびやかなシンセサイザー・サウンド・・・もう一撃必殺、言うなればイチコロ、僕は言葉不要の幸福な敗北感に包まれてゆく。

このめくるめく感覚は、昔は良かったなどといった懐古主義とは異なる、今を生きてこそ感じられる空想的ノスタルジア、とでも言ったらいいのだろうか。昨日見た夢の続きに漂う儚さ、憂い、遠い過去にあった焦燥の記憶、未知なる場所への遥かなる郷愁、そんな時空を超えた奇妙な感覚・・・エリー・ロウゼルとローレン・メイベリーの歌声とサウンドが創造する世界は、かくも形容しがたく、しかしながら、まっすぐな魅力に満ちた桃源郷なのだと思う。
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