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限りない闇に声を

鈴木実貴子ズ『外がうるさい』感想

奇しくも、今の時代に激しく突き刺さる作品になったと思う。

今年の2月頃から少しずつ広がっていった「アレ」は、いつの間にかどんよりとした雲のように世界を包んでいった。ニュースやSNSでいろんな情報や言葉を目にする中で、確実に育っていく不安感に包まれたまま日々を生きている人は多いと思う。自分もそうだ。

"宗教なんて関係ない
金銭なんて関係ない
価値観なんて関係ない
法律なんて問題外"
(鈴木実貴子ズ/問題外)

そんな中発売された鈴木実貴子ズのアルバム『外がうるさい』。1曲目「問題外」が流れた瞬間、ほんの少しだけ気持ちが楽になったような気がした。不安に包まれた日々を射抜く、小さな、でも何よりも欲していた小さな風穴が空いたような気がした。

鈴木実貴子ズの曲の根底には「怒り」がある。よくもまあこれだけ怒りの引き出しがあるなと思うくらい、Vo.鈴木実貴子が作る曲には「怒り」が歌われる。
しかし、この怒りは政治思想だとか、権力への反抗だとかで片づけられるものではない。社会全体に対して抱く「漠然とした怒り」が彼女を突き動かしている。そしてその怒りは彼女の外だけでなく、自分自身にもまた向けられている。

"暴力と無責任が皮を被って笑っている
暴力と無責任が皮を被って笑っている
人それぞれなんて言ってしまう僕は
暴力と無責任を抱いている"
(鈴木実貴子ズ/口内炎が治らない)

社会に渦巻く理不尽にどうしようもない違和感を吐き出す自分、一方でそれを「人それぞれ」という言葉で納得させようとする自分。彼女は本音と建前の間で揺れる自分自身にも、「暴力と無責任を抱いている」とその怒り・嘲笑の矛先を向けている。

"理不尽な事の仕返しは理不尽で返すしかないのかな
辞めたはずのタバコに火が付きそうだ"
(鈴木実貴子ズ/バッティングセンター)

迷いの中で吐き出される行き場のない怒りが、全て自分に跳ね返ってくることを一番よく知っているのは間違いなく彼女自身だ。怒りを感じれば感じるほど自分の弱さを自覚してしまうやるせなさが、彼女の曲には滲み出ている。
それでも彼女は歌い続ける。例えどれだけ自らの弱さをさらけ出そうとも、彼女は行き場のない怒りをぶつけ続ける。自分はそこに、表現者として生きて行く道を選んだ人間の覚悟を感じた。

アルバムの後半3曲は、ライブハウスHUCK FINNで無観客の状態で録音されたライブver.になっている。CD音源よりも声を震わせながら訴えかけるように歌う鈴木実貴子の姿は、言いようもない凄み、そしてどこか哀しみを帯びている。音源であるにも関わらず、ライブの「ナマ」の良さがこれでもかと伝わってくる音源。ライブハウスが軒並み休業に追い込まれる中でこの音源が解禁されたのは、凄く意味があるように感じる。

"限りない闇に声を
やるせない日々に歌を
我が物顔で歩く正義を壊せよ今
壊せよ今"
(鈴木実貴子ズ/限りない闇に声を)

コロナなんてなかったら、これまでと何も変わらない日常の中だったら、今作もこれまでと同様鈴木実貴子のリアルな感情がよく現れた良作という評価にとどまっていたかもしれない。
しかし今、先の見えない状況下で、どこにぶつければいいのか分からない怒りと不安を抱えている人がたくさんいる。そんな中で行き場を無くした思いを歌に変えて叫び続ける鈴木実貴子の言葉は、今この時代が必要としているものだと思う。奇しくもここ数ヶ月の時代の変化で、この作品の持つ意味合いはほんの少し変わったのではないだろうか。それを彼女達が気づいているのか、どう思っているのかはわからない。ただ彼女の歌を必要としている人は今、決して少なくないと、自分は思う。
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