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アイ・ウィル・ファブユー・モア

フジファブリック 魂でつながる音楽

 はじめに、少し日が経ってしまったけれど、4月14日は2004年にフジファブリックがシングル「桜の季節」でメジャーデビューした日だった。今年で16周年。遅ればせながらおめでとうございます。

 15周年イヤーだった昨年は、大成功を収めた大阪城ホールでのライブ「IN MY TOWN」をはじめとして、バンドの歩みを改めて振り返るとともに、未来を明るく照らすような、そんな1年間だったように思う。それから、ファン投票によるプレイリスト・アルバム「FAB LIST」のリリースなどもあり、バンドとその音楽、そしてその聴き手のつながりというものに、思いを馳せる機会も多かった気がする。

 ここ最近、ライブという場で直にコミュニケーションをとることができないせいか、よけいにそういうバンドと聴き手のつながりについて考えがちだ。

 昨年のことに話を戻すと、「IN MY TOWN」は、誰か一人の夢でもなく、バンドだけの夢でもなく、みんなの夢を叶えるライブだった。
 大阪城ホールでライブをするという、もともとは大阪出身のフロントマンである山内総一郎の夢としてスタートしたものが、バンドの夢、ひいてはみんなの夢になり、それが実現したのがあの日だった。フジファブリックのメンバーやスタッフも、ライブに関わった方たちも、全国からそれぞれの思いを持ち寄って集まった人たちも、大阪城ホールのステージに立つフジファブリックを祝福していた。

 「Green Bird」で緑色に、「桜の季節」では桜色に手元のライトを光らせる客席を見回しながら、「オーバーライト」でシンガロングしながら、「LIFE」で手を振りながら、「Feverman」で空を扇ぎながら、「東京」で「みんなもフジファブリック!」とコール&レスポンスしながら、「手紙」が大きなホールをあたたかく満たすのを感じながら、そうだ、みんなの夢が叶ったんだなと、自分自身も心の底からうれしかった。MCでの「隅から隅までひとり残らず幸せにします」ということばの通りになった特別な夜、感動的な夜。フジファブリックは、その音楽を愛する人たちみんなを巻き込んで、あの忘れがたいライブをつくりあげた。

 その「IN MY TOWN」アンコールで発表されたのが、今年2月からのツアー「I FAB U」の開催だった。

 I FAB U。初めてこのツアータイトルを聞いた時、ああ、このバンドのこういうところが好きだな、と感じたのを思い出す。
 「FAB」というのはもちろん「FUJIFABRIC」の「FAB」でもあるし、「すばらしい」とか「ものすごい」というような意味を持つ「FABULOUS」の略でもある。この「FAB」を動詞に見立てて、「わたし」と「あなた」をつないだツアータイトル。アイファブユーという語感がアイラブユーと似ていて、「F」の音の響きがやわらかであるところに、決しておおげさでない、肩肘はったところのない等身大のやさしさが感じられるのもいい。「IN MY TOWN」を通して感じたバンドとファンの間のつながりのようなものが、この一文にみごとに表現されていると思った。

 I FAB Uツアーは、昨年感じたようなバンドと聴き手の関係をもっと深める、そして、大阪城ホールで彼らが照らしてくれたような未来へ、一緒に向かうツアーになるはずだったのだと思う。

 はずだった、というのは、このところの状況からわかるとおり、I FAB Uツアーも2月末以降すべて延期となってしまったからだ。
 仕方のないことだと理解しながらも、ファンとしても寂しいことだし、それ以上に本人たちの悔しさは想像に難くない。それぐらい、「I FAB U」はバンドとファン、リスナーにとって、15周年を超えて先に進むうえで大切なツアーになる気がしていた。

 ツアー序盤のライブでのMCから、バンドが何をめざしていたのかがはっきり読み取れる。

「このツアーは、15周年の感謝を伝えるツアーであり、また、新しいきずなを見つけに行くツアーでもあります」
「フジファブリックとお客さんの関係って、すごくいいよね、って言われたのが、いちばん嬉しかった」
「誰も見たことがないような、すごい関係になりたい。バンドとお客さん、バンドとスタッフ、バンドとファン、リスナー、オーディエンス、そういうのを全部取っ払って、誰も行ったことのないようなところに行きたい」
「魂でぶつかって、そうやって音楽をやっていかなきゃ」

 ぱっと思い出せるMCを挙げてみた。言い回しや表現には正確でないところがあるかと思う。ただ、新しいきずなを見つける、誰もみたことのないようなすごい関係になる、ということばは、強く印象に残った。
 今のところツアーは中断という状態なので、念のためここに詳細は書かずにおこうと思う。けれど、もちろんその演奏はすばらしいもので、MCの通りフジファブリックを好きな人たちみんなで次のステージに進もうという気迫がこもっていて、全編を通して「これがフジファブリックだ」と感じられたのを覚えている。

 ところで、先に書いたようなツアータイトルの印象のせいだろうか。「きずな」や「魂」ということばは、ともすればちょっと重苦しいものに感じられてしまうと思うのだけれど、このバンドとの関係では、それとは対照的に軽やかでゆるやかなつながりを私は思い浮かべる。「軽やかでゆるやか」というのは決して軽いとか弱いとかいうことではない。押しつけがましさや強引さはないけれど、音楽の作り手と聴き手との間に互いへの信頼があって成り立つ関係性。もしかしたら力でつなぎとめるのよりもずっと難しくて、でも一度でもつながったなら、少しぐらい離れてもたやすくは壊れないような、そんな関係性と言ってもいいかもしれない。

 音楽の作り手と聴き手をつなぐのは、言うまでもなく音楽そのものだ。聴き手に届くこと、聴き手がそれをしっかり受け止めてくれることを信じて、音を鳴らし、歌をうたう人。その音楽が、全力で、魂でつくられ、奏でられているものだと信じて受け止める人。互いの信頼や真摯さに対して、同じように応えること。そういう双方向のやり取りが、誰もみたことのないようなところへ私たちを行かせてくれるんじゃないか、などと、ぼんやり考える。

 いま、ライブは止まってしまった。これから先、もしかしたら今と同じようには音楽を聴けない状況や心境になることだってあるかもしれない。

 けれども不思議と、ライブに行くことができなくても、あるいは、常に「魂で聴く」ということができなくても、一度でも、音楽が魂に届いたと思った瞬間、つながった瞬間を持っていたなら、先に書いたようなつながりはそう簡単には途切れないし、だから、大丈夫なんじゃないかという気がしている。

 魂に届いた、魂で聴いた、つながった瞬間。メロディでも歌詞でも、あるいはどれかひとつの楽器の一音でも、それを聴いて心が震えるようなこと。目の前の景色が変わるようなこと。ライブでの演奏を聴いて、いつもはほとんど意識して聴いていなかったフレーズに、思いがけず心惹かれたこと。イヤフォンから流れてきた歌が、不意にくっきりとした意味をもって聞こえたこと。それまで気づかなかった曲の表情が見えたこと。

 フジファブリックについて思い出せることを挙げるなら、たとえば、いつかのライブで「ブルー」のギターに圧倒されたこと。「星降る夜になったら」のオルガンの音がこの上ないほど温かかったこと。「Anthem」のベースの響きに息を呑んだこと。
 ライブでなくてもいい。「LIFE」に歩調を合わせて、まだ慣れない街を歩いた日。草いきれを感じる駅のホームに立った時、イヤフォンから流れていた「陽炎」の後奏。初秋の帰り道、少しひんやりした風の中で聴いた「赤黄色の金木犀」。早春の朝、「卒業」を聴きながらぼんやりと思い出したさまざまのこと。日常を生きながら、ある日突然「これはそういうことを歌っていたのか」とストンと腑に落ちたり、「この音が好きだ」と不意に自覚して、なぜか泣きたくなったり、胸騒ぎがしたり、あるいは温かい気持ちになったり。

 そういう瞬間が一度でもあったなら、たぶん、それはずっとその人のなかに息づいていて、十分に強くて、ずっと続いていくつながりをもたらす。

 バンドは聴き手を信頼して音楽を届けてくれ、聴き手はバンドを信じてそれを受け取る。そういうやり取りが一度でもあったなら、もしこの先の人生で音楽との関わり方が変わるようなことがあったとしても、そのやり取りは事実としてずっとあり続けている。音楽を聴かない日、聴けない日があったとしても、バンドが信じて届けてくれた音楽は傍らにいてくれる。それは聴き手からバンドとその音楽への信頼でもある。一度でも魂に届いた音楽は、おそらくは、忘れてしまったとしても生きてそこにあり続ける。

 だから音楽を介したつながりは、軽やかでゆるやかで、けれども脆くはなく、続いていく。

 これはなにもフジファブリックに限った話ではない。バンドという単語を使ったけれど、バンドだけの話でもない。
 ただ、そんなつながりを信じることのできるバンドのひとつとしてフジファブリックがいるというのは、私にとって確かなことで、とても心強いことだと、最近はそう感じる。

 いつか再び彼らの音楽が会場を満たす日には、それをきっとまた魂で受け止めよう。一緒に、誰もみたことのないようなところへ行くために。
 この文章のタイトルは、そういう意思表明のつもりでいる。

 
 講評
フジファブリックへの深い愛情を示しながら、彼らのファン以外にもバンドの現在と魅力を伝える文章になっています。そして最後には、すべてのライブを愛する人、音楽を愛する人に思いを届けるというふうに、簡潔な文章ながらぐんぐん広がりを見せる構成に強い魅力を感じました。この社会情勢の中で書かれた、後ろ向きでもカラ元気でもない、フラットで力強い音楽観に、励まされた読者も少なくないはずです。
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