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インディーだからこそ存在しうる音楽

グリズリー・ベア『シールズ』のアート性

インディーだからこそ許され、世に出ることが出来た音楽というのは確実にあると思う。素晴らしい音楽にメジャーもインディーもないけれど、醸し出す音の雰囲気で両者の違いを感じることはよくある。

インディー特有の、オーバー・プロデュースされていない荒削りで素朴なサウンド、未熟ながらも予定調和とは無縁な曲展開とアレンジ、技巧を感じさせない原石のようなヴォーカル・・・近年、商品としてのパッケージングから免れ、無添加の状態を保ちつつ、多くの人の耳に届いているのが、ヴァンパイア・ウィークエンド、アークティック・モンキーズ、アーケイド・ファイア、The xx(ザ・エックス・エックス)といったバンドなのではないだろうか。

そして、そういったある程度の知名度を持ったバンドからもさらに3歩くらい引いた位置にいると思われるのが、グリズリー・ベアという、いかにもインディーっぽいネーミングを持つバンドである。彼らの、手垢のついていない音楽に耳を澄ましていると、ああ、こういうのがアート・ロックなのかな、としみじみ感じるところがある。内に秘めた情熱と独自の美的感覚に裏打ちされた創造性、何ものにも拘束されない自由で大胆な精神性・・・なにをもってアートとするかは非常に曖昧だけれども、それらの結晶として生み出された音楽から特別な響きを感じ取ることは可能だろう。

そのようなものを想起させてくれるアーティストを他に挙げるとすれば、デヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノ、ロバート・フリップ、ジョニ・ミッチェル、ルー・リード、デヴィッド・シルヴィアンといった、どことなく冷めた雰囲気を持った人たちとなるだろうか。彼らには複雑で難しいことをやっている印象はなく、かといって誰にでもわかる類のものでもなく、ある意味リスナーを突き放すような姿勢すら見受けられる。しかし、容易に寄り添わないからこそ、心に響いた時の感動は何ものにも代え難く、そういったところに僕はアートな響きを感じてしまう。

そんなアーティスティックな響きを今最もフレッシュに感じさせてくれるのが、グリズリー・ベア4枚目のアルバム『シールズ』ではないだろうか。基本的には前作『ヴェッカーティメスト』を踏襲した質素で静寂な音楽性を土台にしつつ、よりダイナミックでドラマチックなサウンドを展開させた、芸術性と大衆性のバランスに優れたアルバムだ。これは、2010年代裏名盤の筆頭と呼ぶに相応しい1枚だと思う。

冒頭を飾る「Sleeping Ute」における、雷雨のような効果音を伴いながら荒々しく刻まれる変拍子のダイナミズム、これから一体何が始まるのかと、聴くものを一気にグリズリー・ベアの世界に引き込んでゆく。そこへフォーキーでメランコリックなメロディが絡み、このバンドならではのプログレッシヴなアンサンブルが展開される。ここには一筋縄ではいかないアートならではの歪みの美学とでも言うべき佇まいがあり、耳に心地よい刺激を与えてくれる。

続く「Speak In Rounds」の静かに忍び寄る不穏なドラム、そっと秘密を打ち明けるようにささやくヴォーカル、細かに切り刻まれるアコースティック・ギター・・・それらが一体となって速度を増しながら激しく揺らめき始める。そして、閃光のようなエレキ・ギターが響き、一瞬の隙をついて疾風のように走り去ってゆく。この刹那の出来事に心拍数は急上昇し、グリズリー・ベアの作り出す音響空間にますます引き込まれてゆく。

そして、意味ありげな短いインスト・ナンバー「Adelma」を序奏として、このアルバムのハイライトとでもいうべき名曲「Yet Again」が奏でられる。眼前に広がる純白の雪景色、頬を突き刺すように吹きつける北風、大地から舞い上げられた粉雪が辺り一面を覆い尽くす・・・これほどまでに冷涼な風景を想起させる楽曲を聴くのはいつ以来だろうか。記憶は確かにあるのに「Yet Again」が投影する光景の鮮烈さが、おぼろげな記憶を遥か彼方へと吹き飛ばしてしまう。そして、荒れ狂っていた吹雪は突如として静まり返り、曲は一瞬でフェイドアウトする。こんな白昼夢のような音楽体験を、これから先何度味わうことができるだろうか。

そんな、2010年代インディー・アンセムの1つとなり得るであろう「Yet Again」と並んで、僕の心に深く染み込んでくるナンバーが「Half Gate」である。雪深い小さな村の教会から響いてくるヴァイオリンとギターの旋律。レクイエムのごとき高貴な調べと透明無垢な歌声にいざなわれ、僕は教会の奥にあるステンドグラスのもとへと歩み寄る。するとそこへ、重厚なドラムとストリングスが嵐のごとく激しく渦を巻き始め、全身が天空へと舞い上げられる。そして、最終曲「Sun In Your Eyes」がおごそかに流れ出す。空中をさまよっていた僕の体は天使に寄り添われながらゆっくりと地上へと帰還してゆく。

優れたアートだけが成しえる、めくるめくイマジネーション世界への強烈ないざない。たとえそれが単なる思い込みや妄想であったとしても別に構わない。想像力の翼を羽ばたかせてくれる音楽、それこそが僕にとってのアートだ。
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