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小さなレコード店でCDを買っていたころ

ザ・モントローズ・アヴェニューのマキシ・シングルを入手するまで

本記事はThe Montrose Avenue(ザ・モントローズ・アヴェニュー)の魅力には(ほとんど)触れない、音楽市場の変遷について私見を述べるようなものですが、ご興味あれば読んでいただければ幸いです。

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「昔はよかった」とか、逆に「社会は進化している」とか、短絡的に決めつけるのは、あまり望ましくないと思う。昔(僕が若いころ)には「良いこと・良くないこと」があったし、今(僕が初老に差しかかるころ)にも、やはり「良いこと・良くないこと」がある。今の今は、コロナの流行という「明らかに良くないこと」が起こっているけど、それを抜きにしても、社会には依然として多くの問題が残されている。

それでも「音楽」を聴く手段は増えており、そういう意味で社会が便利になっているのは確かではないだろうか。ひとむかし前は、ほしいCDを手に入れるのに骨が折れるということも多くあったし、そもそも「この楽曲は、どのCDに収められているのだろう」と、そこから分からないことさえあった。

僕は中学時代、あまり小遣いをもらえなかったので、ほとんどCDを買うことができず、ラジオから流れてくる曲を聴いていた。曲名も分からずに聴き、かつ、その楽曲に心を打たれるということさえあった。高校に入ったころからCDを買ったりレンタルしたりするようになり、それをカセットテープ(!)に録音するようになる。大学に入ったころ、ようやくMDというものを入手でき、さらには卒後、アイポッドを買うことになる。

そして今は、iTunes StoreやLINE MUSICで音源を購入しており、着実に「楽曲名を調べる方法」や「おすすめ曲を知る手段」が増えていること、そして「聴きたい時に聴きたいものを聴ける環境」が醸成されてきていることを感じる。

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僕がThe Montrose Avenueという名を知り、その楽曲が優れていると教わったのは、高校生のころだった(教えてくれた人が、どういった経緯でThe Montrose Avenueを知ったのかは分からないけど、そのCDを彼は持っていなかった)。今ならインターネットで検索すれば、それがどんなバンドなのか、どういうCDをリリースしているのか、大体のことは分かる。でも当時の僕は、スマートフォンはおろか、パソコンや携帯電話(いわゆる「ガラケー」)さえも持っていなかった。PHSというものを使っていたのだけど、それを持っているクラスメイトさえ少数派で、ポケットベルというものが流行していた。

基本的に、シングルCDはレンタルショップで借りてきて聴き、とりわけ好きなアーティストのアルバムは購入する(手もとに残す)というスタイルで、日々、音楽鑑賞をしていた。CDを買うのは、大型店ではなく(タワーレコードに初めて行ったのは大学に入ったあとである)、本当に小さなレコード店だった。当時の僕は、小さい店でも入手できるような、著名なアーティストの楽曲ばかりを聴いていたので、それで不自由しなかった。そして店主は、あるCDがリリースされて一段落すると、不要になった告知ポスターを「おまけ」としてプレゼントしてくれることがあった(それは少年にとって、とても嬉しいプレゼントだった)

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そういう店で「The Montrose AvenueのCDが買いたいんですが」と言ってみた時、店主が困惑したことを、よく覚えている。僕は何度も「ザ・モントローズ・アヴェニュー」と口にし、店主は何度も聴き返し、次第に僕は、自分が覚え違いをしているのではないかと不安になってきた。

<<俺はどうすりゃいいのさ>>

それでも親切な店主は、分厚い専門誌のようなものを使って熱心に調べてくれ、どのくらいの時間が過ぎてからだろうか、「ああ、これかな」と言ってくれた。「たしかに、その名前でCDがリリースされている、取り寄せるから少し時間をもらうよ」と。やがて僕は「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」を買うことができ、The Montrose Avenueの存在を教えてくれた人に、そのことを伝えに言った。彼は「素晴らしい買い物をしたね」と褒めてくれた。「これはお得なCDだと思うよ」と。

いま歌詞カードを開いてみると

<<いいとこ取りマキシ・シングルなのだ>>

という紹介文が書かれている。たしかに「お得なCD」だったわけだ。そして(本文をつづる)ノート・パソコンに「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」を挿入してみたのだけど、きちんとiTunesでタイトルが表示される。まったく便利な時代になったものだ。

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楽曲「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」を、あらためて聴いてみると、勇壮なイントロ、少し濁っているがゆえに印象深い歌声、拍子が変わる部分、ハーモニーの鮮やかさなどを味わうことができ、やはりThe Montrose Avenueは秀でたアーティストだと感じる。その旋律には「現代性」のようなものさえ滲んでいるようにも思える(つまり「むかしの曲」には感じられないということだ)。それでも僕は、そのギター・サウンドを聴きながら、いま郷愁に浸っている。このCDを入手するまでに、どれだけの時間を要したかを思い、そして、教えてくれた人や調べたくれた店主のことを懐かしんでいる。

いま僕が持っているCDは(つまり「形」として手もとに残している音楽は)それほど多くはない。親から買ってもらったとか、再入手が困難だとか、ジャケットのデザインが魅力的だとか、あまりにも思い出ぶかいとか、そういう特別な事情がなければ、CDを長く部屋に残しておくことはしないことに決めている(狭い家に住んでいるのだ)。それでも、どれだけ「音源の入手」が容易な時代になっても、やはり「形あるもの」は、それはそれで尊いのだろうと思うし、お店に何かを買いに出かけ、そこで誰かと(たとえば店主と)交歓するというのは、大事な時間だとも考えるのだ。

いま(2020年5月2日)、買いものに出ることは難しい情勢にある。小さな店は、とりわけ大きなダメージを受けているのではないかと察する。かつて僕のために、時間を割いてThe Montrose Avenueを調べてくれた人に対して、何の恩返しもすることができない。ただ、あのとき買ったCDを今でも持っていますよと、それを伝えられたらと願う。

<<そして残されるのは思い出だけなんだ>>

そうなのかもしれない。それでも今のところ、僕の部屋にはマキシ・シングル「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」が残されているし、<<思い出>>があるゆえに得られた、小さな店を応援したいという意欲も、この胸にあるのだ。環境が変わっても、時代が過ぎても、僕は自分に親切にしてくれた人の存在を忘れないし、不便さのなかで味わえた愉しみ(のようなもの)を、こうして誰かに伝えたく思ってもいる。

<<状況が一転したこんな時にさえ>>。

※<<>>内はThe Montrose Avenue「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」「スタート・アゲイン」の歌詞(訳は小笠原玲子による)、マキシ・シングル「ホエア・ドゥ・アイ・スタンド?」の歌詞カードより引用
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