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星野源と祖母と私

7月12日の夜に起こったこと

7月12日。19時30分。私はこの時を何日もいや、何週間も前から待っていた。

「Gen Hoshino's 10th Anniversary Concert "Gratitude"」

星野源初の配信ライブは、私にとっての初めてのライブ参戦となった。

すべてが素晴らしかった。源さんの歌声は私の心の奥まで届き、バンドメンバーの演奏にしびれ、美しい照明に息をのんだ。リビングで小さなタブレットを家族4人で分けあって観ていたけれど、あのとき、私の魂は確実に渋谷クラブクアトロにあった。そして、この素晴らしい空間を、時間を、ワクワクしているこの気持ちを、本当にたくさんの人と共有しているんだという実感があった。

そんななか、源さんがMC中に話した言葉が今もずっと残っている。

「お世話になった人が山ほどいて、今お礼が言える人ともう言えない人がいて、そういう人にどうやったら音楽って伝わるんだろうね。伝えたいけど伝わらない人にどうやったら伝わるんだろうね。なんかそういうことをずっと考えています。」

源さんは画面の向こうから優しく語りかけてきた。なぜ突然そう話し出したのか、よく分からなかった。しかし、そのときの彼の声色や表情からは、何かものすごく強い思いや決意のようなものを感じた。

そして、このライブ最後の曲、「私」。弾き語りで歌う「あの人を殺すより 面白いことをしよう」というのは、まさに星野源の10年間の集大成であり、これから始まる新たな風のようなものだった。

「死ぬのだけじゃ あんまりじゃないか」

この言葉を力強く歌う姿はなんだかいつもの源さんと違う気がして、私は思わず胸が熱くなり、体はかすかに震えていた。
 
そのときだった。ライブ会場と化していたリビングに1本の電話が鳴り響いた。病気で入院している祖母の状態が危ないという病院からの連絡だった。

嫌な予感がした。

私たち家族は急いで支度をし、病院へと向かった。ライブが終わったのは私たちがちょうど家を出たくらいのときだったと思う。画面の向こうの幸せな世界を観ていたさっきまでと、今現実で置かれている状況は精神的にもあまりに変わっていた。

病院に着くと、もうすでに祖母は冷たくなっていた。連絡が来て少し経ったあと、心臓は止まったらしい。ちょうどライブが終わったあたりだっただろうか。

悲しかった。家族で祖母の最期を見届けられなかった。私は10万人以上の人と同じ時間を共有していた。なのに祖母は最期ひとりだったのか。

そんなことを考えているとあるものが私の目に止まった。病室に飾られた私が描いた源さんの絵だった。

祖母も源さんのことが好きだった。私が彼の曲をピアノで弾くといつも楽しんでくれていたし、彼が出る番組を一緒に心待ちにして、「源ちゃん、源ちゃん」と言っていた。そんな祖母へ入院中も楽しんでもらえるように描いたのがこの絵だった。どんどん弱っていってしんどそうだった祖母もこの絵を見た瞬間は「わあ、源ちゃんだ」と笑顔になっていたことをよく覚えている。

味気のない病室に飾られたこの絵を見てふと気がついた。この絵を通して祖母も私たちと同じ時間を共有していたではないか。「直接会っていなくても重なり合える」ことを自粛期間中に体現したのがこの星野源だ。

「僕らそれぞれの場所で 重なり合うよ」

初めて生バンドで披露された「うちで踊ろう」も本当に素晴らしかった。今、この時を、多くの人と重なり合っているんだと強く感じることができた。
そして、そのなかに祖母もいたのだ。
この絵を通して重なり合っていたのだ。
きっと。
そんな風に思える。
「重なり合える」ことを私は知っている。源さんがさっきそう歌っていたから。
 
この配信ライブのタイトルは"Gratitude"だ。「感謝」という意味らしい。源さんからの"Gratitude"はこれでもかというほど私の体のすみずみまで伝わってきた。そしてそれは私以外にも多くの多くの人に深く深く伝わっていたに違いない。

けれど、私は祖母の最期に"Gratitude"を伝えられなかった。伝えたかったのに伝わる前にいなくなってしまった。

「伝えたいけど伝わらない人にどうやったら伝わるんだろうね。」

あのときの源さんの言葉がよみがえる。なぜそう言ったのか、今なら分かる気がする。源さんもこの10年間、色々な出会いと別れを繰り返してきたのだろう。10周年の感謝を伝えたくても伝えられない人もいるのだろう。
「出会いは未来。色んな人たちと出会えたから今の自分がある。」彼はいつもそう言う。
私も祖母と出会っていなかったら、大好きなピアノは買ってもらえなかっただろう。源さんのCDやDVDや本を買ってくれたのも祖母だ。今こんなにも音楽を思い切り楽しめる環境にいられるのは祖母の影響がとても大きい。
祖母との出会いは未来であった。
私も「どうやったら伝わるか」、あのときからずっと考えている。考えて考えて、私は心のなかで何度も祖母へ「ありがとう」とつぶやいていた。
 
それから2日後。今日は祖母のお葬式だ。うーん、天気はくもり。雨は降らずになんとか持ちこたえている。
納棺の際に音楽が流れるそうなので、私は家からCDを持ってきて、源さんの「アイデア」を流してもらうことにした。祖母が生前、年末の紅白歌合戦で歌われるのがすごく楽しみだと話していた曲だ。この曲のMVの裏テーマがお葬式であることにも運命を感じる。

今ならきっと伝わる。私からの感謝、思い、伝えられなかったものたちよ。

「すべて越えて届け」
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