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THE BACK HORNと共に駆け抜けた夏・駆け巡る思い出

KYO-MEI MOVIE TOURと配信ライブ

THE BACK HORNの配信ライブを観終わって、私の2020年の夏が幕を閉じた。寂しい意味ではなく、心に風が吹き抜けるように、穏やかに、そう思った。
 
2020年の夏。ライブもフェスも、夏祭りも、ありとあらゆるイベントが開催されなかった。心躍るような出来事は、何も無かった。自粛生活において、良かった事があるとするなら、普段なら聴かないであろうアーティストの音楽に耳を傾ける事が出来たことくらいだろうか。
家に閉じこもる日々。仕事が再開してからは、家と職場との往復の日々。田舎から都会に遊びに行く事も憚られる日々。

無味乾燥。そんな単語がよく似合う。

新型コロナウイルスは、罹った人は勿論のこと、罹っていない人々の心も蝕んでいくように感じた。

ライブや舞台などのエンターテイメントは、私達観客側からしたら、「非日常」な空間だった。家庭、職場、あるいは学校。自分達の「日常」の中で、どんなに嫌な事があっても、ライブに行けば、その時間だけは日常から解き放たれて忘れる事が出来た。
だからこそ、「非日常」は、「不要不急」ではなく、必要不可欠なものなのに。
ライブハウスが責め立てられるような報道や意見を目にする度に、反論したくなっては、その立場をより悪くする事を恐れてあげかけた拳を振り下ろす。

そんなやるせない気持ちを抱えた私達の心を穏やかにしてくれるかのように、5月下旬からTHE BACK HORNの「KYO-NEI MOVIE TOUR-2004~2019-」が開催された。2019年の武道館ライブの映像を皮切りに、本来開催予定だったツアー日程に合わせて、過去のライブ映像をYouTubeにてプレミアム配信するという試みだ。本来のライブツアーなら、現地まで行かなければ参加出来ない為、全ての日程に参加するということはまず出来ない。けれど、これなら自宅でも職場からの帰り道でも観る事が出来る。
予定の無かったスケジュール帳に、ライブ日程を書き足していく作業に、久々に心が躍る。

勿論、この日程は、本来なら各都道府県で、THE BACK HORNのライブが観られるはずだった日。
それを思い出さないわけでもないし、延期されたツアーの穴埋めには完全にはならないのが現実だけれど、ぽっかり空いた私達の「必要不可欠なエネルギー補充の時間」を少しでも埋める事が出来たなら。THE BACK HORNのメンバーがそう思ってくれているような気がした。

私は出来る限り、毎回参加するようにしていた。仕事が休みの日は、始まる前からPCの前に座り、仕事があった日は、途中から参加など、その日その日によって、参加スタイルは違ったけれど、「ライブを観る予定が入っている」。その事自体が嬉しかった。

過去のライブ映像。DVDとして販売されていたり、CDの初回特典だったりと、既に手元にある映像ではある。だけれど、全国で同じ時間に同じ映像を観るという事は、自宅で好きな時に観るDVDとはまた違った楽しさがあった。
昔からTHE BACK HORNのライブに参戦していた人も、今回のムービーツアーをきっかけに、久々にTHE BACK HORNのライブ映像を観た人も、色んな境遇の人がコメント欄に溢れていた。
コメント欄で、ファン同士で会話する事も楽しかったし、自分が実際に参戦した過去のツアーを思い返しながら、ライブ映像に没入していく事も楽しかった。

2019年の武道館ライブの配信の次は、2017年日比谷野音ライブ、その次は2016年の月影のシンフォニーライブ…と、日程を追うごとに少しずつ時を巻き戻すかのように昔のライブ映像が流れるツアー。

若返っていく画面の中のメンバーと共に、私も少しずつ若返っていく
  
……はずもなく、ただその時のライブや、その頃の自分はどんなだったかを思い出す。自分がどの会場にいたのか、残して保管しているチケットを引っ張り出したりなんかして、懐かしむ。
  
「このライブは何歳の頃だから、あんな事があったな。あの時は会場で同級生にバッタリ遭遇したな。」
「この頃は、オフ会でカラオケ行って、色んな友人が出来たな。」

様々な思い出が蘇ると共に、改めて、私のハタチからのこれまでは、THE BACK HORNを抜きには語れない人生でもあるなと痛感する。
 
ムービーツアーは、合間に「KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL~スタジオ編~」という配信ライブを挟みながら、5月下旬から8月下旬までツアー本編が続いた。
少しずつ過去に遡るという事は、持ち曲も少なくなっていくという事。だからこそ、なのか、それでも、なのか、少しずつ凝縮されていくTHE BACK HORNの音楽の中に、今も昔も変わらない、メンバーの「心の根っこ」のようなものが見えた気がした。
沢山の楽曲を生んできた今のTHE BACK HORNの音楽にも、まだ持ち曲が少ない昔のTHE BACK HORNの音楽にも、世間に対して牙を剥いているような荒々しい楽曲の根底にも通じるのは、「それでも生きていたい」「生きていこう」という想いなのかも知れない。

4ヶ月に渡るムービーツアー本編を迎えた最終日。
今となってはライブの定番曲である「コバルトブルー」も、「神様だらけのスナック」のコール&レスポンスでお馴染みの「コワレモノ」もまだ発表されていないけれど、力強い楽曲群を携えた2004年のライブを観て、ふとそんな事を思った。
  
そして、迎えた9月6日。無観客配信ライブ「KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL~ライブハウス編〜」
 
久しぶりにライブハウスで演奏するTHE BACK HORNを観ることが出来る。
私はまるでライブハウスに行くかのように、THE BACK HORNのライブTシャツを着用し、タオルを持ち、ラバーバンドを身に付けて、開演を待っていた。
配信ライブと言えども、実際にライブに行った時のような充足感を得られる事は、スタジオ編で実感済みなので不安は無い。
どんなライブになるのか、ただただ楽しみで仕方なかった。
  
開演時間になり、SEが流れ、メンバーが登場する。

「あぁ、やっぱりTHE BACK HORNにはライブハウスが似合う。」
しみじみと思う。
 
配信だからと言って、なにか特殊なギミックを仕掛けるでもない、いつものライブハウスでの、いつものTHE BACK HORNのライブがそこにはあった。
 
いつもとは違うことを挙げるならば、セットリストだろう。
 
ライブが始まる前、私は、私達ファンはライブハウスに行けないけれど、思い切り楽しむ事で、強い想いを込めて観る事で、無観客のフロアに生き霊の一人や二人飛ばせるんじゃないか、くらいの勢いでいた。
さすがに生き霊はTHE BACK HORN側も願い下げだろうが、少しでもフロアにファンの存在を感じて欲しいという気持ちがあった。

フロアに観客がいない中、演奏するメンバーの胸中を完全に知ることは出来ないけれど、セットリストにその答えがあったと感じている。
 
THE BACK HORNのライブは熱狂できるアッパー系の曲を中心に、中盤にはしっとり聴かせるバラード系の曲を置いてくる事が多い。
アルバムツアーであれば、そのアルバムのリード曲をトップに持ってきて、アルバムの曲を中心に展開されるだろう。しかし、今回はムービーツアーだ。
THE BACK HORN活動歴22年の中で生み出された幾多の曲の中から選ばれる曲たちに、私は大いに注目していた。
 
1曲目は「その先へ」
  
”とりあえず全部ぶっ壊そう
閃いたライブハウスで
世界が動き出した1998”
 
そうだ、この曲はTHE BACK HORNというバンドが生まれたその時から、これまで、そしてこれからを歌った曲だ。
歌詞にもライブハウスが出てくる。ライブハウス編にピッタリだ、そう思った。
  
”拳を振り上げて 心を解き放て
始まりはいつだって ここからさ”

勿論、既に拳を振り上げながら見ていた。

そして、このフレーズの後、山田将司のボーカルに被さるように、ギターの菅波栄純・ベースの岡峰光舟が「ウォ――――」と歌う。ライブでは観客も一緒に歌うのが定番となっている。
生き霊を飛ばせるんじゃないかとか言っておきながら、現実の私は、静かな田舎の街に声が響き渡る事を恐れる小心者で、小さな声で一緒に歌った。
 
そして、2曲目「Running Away」
なんとなく、「その先へ」の後は、それよりももっと前にリリースされた曲も持ってくるような気がしていたから、意外な選曲に驚きつつも、いつものように「Wow,Oh!Wow,Oh!」と栄純や光舟と共に歌う。
 
そこでふと、観客が歌う箇所がある曲が序盤に続くのが珍しいな、と思う。

そして3曲目に「シンフォニア」がきたことで、もしやと思っていた事が確信に変わり始める。
 
これは、観客が歌唱したり、お決まりの手拍子をしたりと、何かしらアクションを起こす曲を中心に選曲しているのではないか。
ただの勘違いかも知れない。でも偶然にしてはあまりにも揃いすぎている。

4曲目以降の曲もそういう箇所のある楽曲が多く並んでいた。

これは、私達に少しでもライブハウスにいる感覚を感じて欲しいという想いからくるセットリストなのだろうか。
メンバーの真意はわからないけれど、私はきっとそうなのだろうと、普段ネガティブなのにこういう時だけポジティブな解釈をして、勝手に嬉しくなる。

こちらが生き霊を飛ばすぞなんて気負わなくても、THE BACK HORNの方から、私達をライブハウスへと誘ってくれているのだ。
私が部屋で一人歌ったり、手拍子をしたりしているように、全国で同じことをしているファンが沢山いるだろう。
配信されているライブ映像に、私達ファンはいないのだけれど、歌う事で、手拍子をする事で、過去のライブでのその光景を思い出す。
 
将司がフロアに向けて、カメラに向けて、観客を煽る仕草をする。私達はそれに応える。

普段のライブではなかなかやらないレア曲を含めたセットリストも相まって、私のボルテージはどんどん上昇する。
 
テーブルに置いたPCの前で見ていたので、座りながら見ていたが、気づけば立ち上がっていた。
 
私は家にいる。

それは揺るがない事実。
 
だけど、立ち上がった瞬間、私はTHE BACK HORNにライブハウスへと連れていかれたのだ。
  
いつもとは少し趣向の異なるセットリスト。
  
それは、未だライブハウスに行くことが困難な私達をライブ空間へと誘う、とっておきのギミックだったのかも知れない。
     
(” ”内はTHE BACK HORN「その先へ」より引用)
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