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かげが照らす光

ゴールデンボンバー「さらば」に、やっと向きあうことができた日の記憶

「さらば」という歌がある。

アルバム「もう紅白に出してくれない」の最後に収録された、6分以上もある歌。

代表曲「女々しくて」とは真逆の位置にあるような、ゴールデンボンバーの印象からも遠くかけはなれた、美しい歌。

異質だった。

ゴールデンボンバーの歌に宿るユーモアや泥くささ、反骨精神が好きだ。でも「さらば」はあまりに美しく、まっさらで、哀しくて、壮大で、いつものひねくれも、女々しさイズムも、不条理な秩序に対する反発や、やるせない気持ちもない。

美しいものはどこかにウソがかくれているようで苦手だ。
だから、いつもじゃない「美しさ」に当時、戸惑ってしまった。

私はしばらく、この歌に向きあうことができなかった。

✳︎

なぜ私は「さらば」をちゃんと聴くことができなかったのか。今考えてみると、聴くときに身がまえていたからかもしれない。この歌には葛藤の跡が見えるから、聴き終わった後は消耗してしまう。それくらいある種、想いの「念」がある。

作詞作曲を手がけたボーカルの鬼龍院さんは「さらば」をつくるにあたり、「かなりの時間がかかった」と言っていた。また、アルバムブックレットにある「さらば」の歌詞の下には、「心の病にうんざりしていてそれと決別したかった気持ちを歌詞にしようと取り掛かった」という旨が書かれていた。多くは語らない。ただ、これらの想いを知った上で歌を聴くと、こころがひりひりとしてしまう。自分の中の弱さや酷さに嫌というほど向きあい、孤独の中に散らばった言葉を集めては崩すような作業をくり返されていたのかなと、想像がめぐる。

どこまで続くかもわからない壁にトンネルを掘るように、痛みや傷をともないながら、深く深く自分を掘っていく。やがて、胸の苦しみが歌となったとき、やっと自分自身が解放される。トンネルから光がさした瞬間——「さらば」は、そんな人間として尊い瞬間に生みおとされた歌なのかもしれない。
  
と、理解したはずだった。でもこのとき私まだ、芯からこの歌と向き合えてはいなかった。言葉にできないもどかしさをひきずっていた。

こんなに貴重な歌に出会えたはずなのに。

✳︎

「さらば」は美しく前向きな歌なのに、哀しさや寂しさを感じる。この哀しさや寂しさの正体はなんだろうと、ずっと頭のどこかでひっかかっていた。

何度も聞き、数日をあけてはまた聴き、そのくり返し。それでも答えは出ない。ずっと頭の片隅に付せんが貼ってある状態を過ごしていた。

そんな日々の中だった。ふとスマホのプレイリストにある曲名に目をやったとき、ハッとした。
 
「さらば」
 
そうか。この歌は過去の自分との決別の歌。「別れの歌」でもあるんだ。だから、どこか哀しかったり、一抹の寂しさを感じるんだ。

重荷を背負った自分との別れは、清々しいことに間違いはない。だが同時に、決心することにはそれなりの体力がいるし、見えない未来には不安や恐怖がつきまとう。過去の想いを供養し、地続きの自分を生きていかなければならない。「さらば」という歌に美しいだけではない「何か」を感じるのは、そういった「かげ」の要素が内在しているからかもしれない。

木の葉にさした光が木漏れ日となってゆれるように、闇が月をきれいに見せてくれるように、雨の後には虹が出るように、陰陽2つの要素が何の偽りもなく矛盾もなく調和しているから美しい。光だけではつまらない。かげに照らされているから「さらば」という歌は美しい——そう気づいたとき、私の中にたまっていた何かがどんどんはがれ落ちていった。

正解はわからない。本当の想いは、この歌を生み出した鬼龍院さんのみぞ知る。でも、私が「さらば」をはじめて聴いたときにひっかかりを感じたことは、ある意味正解だったのかもしれない。ウソがある美しさには光しか存在しないが、「さらば」には「かげ」の気配を感じるからこそ、本当に美しい歌だったのだと今ならわかる。

そうして自分の中で腑に落ちる答えを見つけてから改めて「さらば」を聴くと、音の海に身をゆだねることができた。それぞれの言葉が生き生きと聴こえた。想いが音に昇華されていく姿を見た。やっと、涙が流れた。

はじめ、この歌に抱いた感情のゆらぎを、ないがしろにしないでよかったなあと思う。

✳︎

歌を生みだすこと。
想いにかたちを与えるということ。

それは、自分を解放する大切な手段のひとつなのかもしれない。

想いはこれからも歌の中に強く生き残る。

「さらば」に出会い、シンガーとして生きる男の境地にふれた気がした。
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